場当たり的な生き方
海外のニュースや、変なニュース、おもしろいニュースで話題を呼ぶロケットニュース24。5年の記者生活で5,000本以上の記事を書き、スライムやふなっしー(さとっしー)など数々のコスプレで注目を集めるロケットニュース24の看板記者、佐藤英典さんにお話を伺いました。
そういえば俺は作家になりたかった
Q佐藤さんが記者になったきっかけについて教えてください。
島根県の松江市でペンキ屋の息子に生まれて、地元でブラブラしながら、記者とは無縁の生活を送っていました。友人が立ち上げたライブハウスの店長をやって、友人と喧嘩して辞めて、その後飲食店に勤めて、態度が悪かったので解雇されたりと。人間ができていなかったんですね(笑)。
Qなるほど。解雇された後は?
解雇された失業保険で東京に遊びにきて、知人が勤めている青山にあるタイ料理のお店に行きました。料理長に「仕事何やってるんだ?」と聞かれて「無職です」と答えたら、「島根から出てきてうちで働け」と言ってもらえて。30才の時でした。その翌年に、店が大幅に改装されることになりました。店が休業するから辞めたいやつは辞めていいってことだったので、料理長とも折り合いが悪くなっていたこともあって辞めました。
その後フレンチやイタリアンに派遣される会社で働いていた時に、「そういえば俺は作家になりたかった」と思い出したんです。坂口安吾が好きで。『堕落論』みたいな投げ出した感じがいいなと。ああいう文章を書きたいと思っていたんです。
Qそれでその後記者に?
その後、縁あって本を一冊出したり、引越しの会社で社内報を担当したりと、徐々に書く方へと流れていきました。そのうち、もっと自分の好きなことを書きたいなと。人の話を聞くのが好きなので、「無名の偉人」と題して、一人でインタビューを始めたんです。同じ時期に、たまたま『ロケットニュース24』を発見して。なんて面白いニュースサイトなんだと思い、ライターに応募しました。「無名の偉人、面白いですね」と返事が来て。そこからロケットニュース24で書き始めました。
記者も運営側も苦しい時代
Qロケットニュース24に入られてからは喧嘩しなかったのですか?
そうですね(笑)。ああじゃないこうじゃないと言い争いをしながらやってます。何より「書かねば」という使命があったので、喧嘩して辞めるようなことはなかったですね。
最初は1記事当りの原稿料はそれほど高くなかったと思います。生活は苦しかったですが、それでも書いたものに対してお金がもらえるというのは嬉しかったです。実は当時、サイトもそれほど知名度がなかったので運営側は原稿料を払うこともきつい状況だったらしいです。俺は俺で苦しかったけど、運営側も大変だったんだなぁと。
Qロケットニュース24にもそんな時代があったのですね。
毎年、正月を迎えるたびに、もう今年こそロケットニュース24はなくなるんじゃないか、でも書かなきゃと思いながらやってましたね。そんな中、うちの記事は、ツイッターとの親和性が奇跡的に良く、2011年くらいから読者がぐんぐん増えていきました。記者一人一人も、編集部全体も、だんだんと盛り上げる方法をつかんできました。今年は初めて、「もうダメかも」とは思わない正月を過ごすことができました。
面白い広報担当者との仕事は楽しい
Q記事を書く時、プレスリリースって読みますか?
読みますよ。毎日信じられない量が来るので、全部は見られませんが。タイトルで気になるものがあれば読みます。
Qプレスリリースから記事にすることは?
ほとんどありませんが、面白いなと思う調査結果とか、すぐに使えるものだったら記事にします。最近だと「女性の7割は壁ドンされたいことが判明」というリリースを記事にしました。
Qこんなリリースは困る、というものはありますか?
こちらの手間を考えていないリリースは困りますね。URLに飛ばないと画像が見られないとか。飛んだ先にある商品写真がイケてないと残念だなと思います。
あとは冒頭に【マジかよ】などとロケットニュース24風なタイトルをつけて、「このタイトルで載せてください」と送ってこられる方が時々います。気持ちはわかるのですが、考えていただいたタイトルが面白くない場合も多いので記者としては困りますね。
Qリリースに限らず「この広報は良かった」という企業の広報担当者ってどんな方でしょうか?
僕の場合は、会ってしまうと何とかしてあげたい気持ちになってしまうんですが、やはり会っていて面白い方はいいですね。ロケニューにすべて従いますという姿勢ではなく、一緒に面白い物を作っていきましょうという方だと嬉しいです。
以前、ネットユーザーの間で話題になっていたスターウォーズ学習帳を取り上げたことがあります。「【激レア】これは欲しい! 映画『スター・ウォーズ』の学習帳が販売されていたッ!!」という記事の反響が良くて、販売元のラナの制作担当者から「お礼にノートを送らせてください」と連絡が来て挨拶しました。その後「スターウォーズのバーチャルキーボードを開発中なんですけど見ますか?」という連絡がきて、「もちろん行きます」と。他のメディアより先に開発風景を見せてもらえたら、もちろん記事にしますよね。記者の気持ちをつかむのがうまいなと思いました。
ラナはその後も「ダイオウグソクムシ iPhoneケース」や、便意をもよおした犬が踏ん張る姿をフィギュアにした「いきむ犬」など、僕の琴線に触れる商品を作っています。いきむ犬は「これ考えた奴はバカだろ! フィギュア史上もっとも不快な商品「いきむ犬」誕生 / 思った以上にデカくてビビった」という記事にしました。「バカだろ!」という書き方を許してくれるのも有難いですね。
Q今まで5000本以上の記事を書いてきている佐藤さんですが、一番印象に残っている記事は?
2010年の6月に、iPhone4が発売されるのに合わせて、ソフトバンクモバイル表参道店に3泊4日で並んだ時の記事ですかね。風呂にも入れず並んでいるのがつら過ぎて、行けと言ったのに何のケアもしてくれない編集部を恨みました(笑)。
3日目にようやく助けが来て、フェイスペイントと犬耳を渡してきたんです。気持ち悪いソフトバンク犬になりました。つけてみたら周りの人から写真を撮られたりして意外に人気で。そこからコスプレに目覚めて、スライムやふなっしー(さとっしー)のコスプレをして記事を書くようになりました。
最初のうちは記事に顔を出すたびに、「キモい」「出るな」というクレームが殺到していたのですが、最近だと「久々に見れて嬉しい」とか「会えて感激しました」とか言ってもらえるようになりました。気持ち悪いオッサンなのに喜んでもらえて光栄ですよ、マジで。
長年の疑問を、自分なりの物語で解釈したい
Qロケットニュース24の看板記者である佐藤さんが、今後ロケットニュース24でやりたいことは?
これは編集部でも言っているのですが、ファンを増やしたいなと思っています。人気のある媒体は、やはり固定ファンが多いんです。個性的なメンツが多いので、記事は名前をだして書いて、ロケットニュース24全体にも、記者一人一人にも、ファンがつくような媒体になりたいと思っています。ファンとの交流の場が持てればと、今年の6月から定期的にイベントも開催しています。
あとは、ロケットニュース24の他の記者には負けたくない、そして負けてないという気持ちはあるのですが、若い記者やこれから入ってくる記者が、ぐいぐい僕を超えていってくれるといいなと思っています。
Q記者の佐藤さんとは別に、個人的な目標はありますか?
プライベートではゲームをして引きこもっているので、ジムに通って筋肉をつけたいなと。あとは、創作というか、小説を書きたいなと思っています。坂口安吾のような文章が書きたいですね。
Q書きたいテーマはありますか?
僕には実は、一卵性の双子の弟がいるんです。本当にそっくりですよ。実家のペンキ屋を継いでビジネスをしている真面目な弟です。一卵性ということは、二つの精子が着床したのではなく、もともと一人だったものが二人になって生まれてきたということらしいですね。「なんで一人で生まれるはずの人間が二人になったんだろう」という漠然とした疑問は昔からずっとあって、スピリチュアル系の本を読み漁っていた時期もありました。答えは出ていないのですが、自分なりの物語で解釈をしたいなと思っていて。ロケットニュース24で書いているものとはまた違うものを小説で表現していけたらと思っています。
(取材年月:2014年9月5日/撮影:菅井 淳子)
佐藤 英典氏
- 媒体名
- ロケットニュース24
- プロフィール
- 島根県松江市出身、東京都在住。2009年よりロケットニュース24のライターとして活躍中。全身青塗りのスライムや黄塗りのふなっしーのコスプレを得意としている。