「生身の人間」をいかに伝えられるかだと思うんです
日々刻々と変化する、企業の総務・管理部門の業務。各社の業務事例を取材し、お届けするのが雑誌「月刊総務」です。編集長の豊田健一さんは、長年企業の総務担当として従事してきた経験を生かし、現在は「月刊総務」に携わっています。豊田さんが、誌面を通じて届けたい「総務」の在り方を聞きました。
Q「月刊総務」の編集に携わるようになったきっかけについて教えてください。
私はもともと記者スタートという職歴ではありません。当社に入り14年目になりますが、それまでは総務を担当したり、社内報サポート・サービスである「月刊Commu-Suppo」の立ち上げに関わったりしていました。この会社に来る前は、リクルートや鮮魚専門店、株式会社魚力で総務を担当していました。
Qどのような経緯で編集に関わることになったのでしょうか?
企業で社内報を作っているところは多いと思うのですが、当社は人手が足りなかったり、ノウハウがない企業向けに社内報の企画・編集を支援する事業をしています。そのサービスの一環として、誌面で使えるフリーコンテンツを集めた「月刊Commu-Suppo」を発行しています。
始めは「月刊総務」の企画担当として入社した私ですが、あるとき「月刊Commu-Suppo」のサービス立ち上げをやることになり、そこから社内報を外注したい企業向けの営業も行うことになりました。しかし当時の私は社内報に関わった経験がないので、いくら社内報作りを外注しませんか?と営業を続けても、なかなか共感は得られません。それで知識をつけるために、誌面作りに関わるようになったんです。これが私の編集者としての第一歩です。
Qそこから「月刊総務」の編集にも関わるようになったのですね。
はい、2012年6月に月刊総務の編集長になりました。
Q少し話を「社内報」に戻したいのですが、社内報は主にどういった会社が作る傾向にあるものなんでしょうか?
一般的には、社員が300名になると作り始めると言われています。同じビル内でもフロアが分かれていたり、部署によってオフィスが分離していると、毎日全社員と顔を合わせることはないでしょうから、経営陣は今何を考えているのか、会社で何が起こっているのかを共有する目的で使われることが多いです。ただ私はA4一枚でも構わないから、会社が少人数のときから社内報の習慣を始めるべきだと思っています。内容は、社長が朝礼で言ったことを丸写しでかまいません。社長の言葉と誌面は同じという意識を作ることが大切だからです。規模が大きくなればなるほど、社長と会う機会は減るでしょうから、いくら熱い思いを伝えても、現場の人にとっては、生身の社長と文章の言葉が乖離するときがあります。ですから会う機会が少なく、誌面を通してでしか社長の言葉が伝わってこなかったとしても、その言葉に秘められた真意が理解できるように、早くから社内報を利用するべきだと思っています。
Q今はソーシャルメディアの台頭によって、社内報の在り方も紙からウェブへとシフトしつつあるのでしょうか。
ご指摘のとおり、イントラネットの導入により4-5年前にウェブ版社内報が一般化され、今は社内で使用できるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で、よりライトに閲覧できるようになりました。しかし、電子メディアというのは「プル型」なので、限界があるんです。紙の場合は自ずと手元に届くので比較的見てもらいやすい傾向にあるのですが、電子の場合は、相当面白いコンテンツじゃない限り、わざわざ見に行こうとはならないのです。ですからそういう意味での限界を感じ、ウェブから紙に戻す企業も多いようです。
Qどうしたら興味を持ってもらえるコンテンツになるのでしょう?
人間が一番興味を示すのは、人間ですよね。ですから取り上げる対象、つまり人間に焦点をあてて、物語を伝えることではないでしょうか。例えば「こんな新商品がリリースされました」とモノにだけフォーカスした記事よりも、「◯◯さんが開発しました」とその方にインタビューをし、商品開発秘話を聞いた方が面白くなります。私たちは日頃新聞を読んで、まったく見ず知らずの方のインタビューでも、何かの達人で興味をひく内容だったら自然と引き込まれています。これと同じことで、「生身の人間」をいかに伝えられるかだと思うんです。どれだけ人間に興味を持って、その人に取材できるか。これができるかできないかによって、社内報のクオリティはうんと変わってきます。どんな会社でも必ず優秀な人、面白い人はいます。そういった方々を紹介し、「こんなすごい人がうちの会社にいるんだ」と知ってもらえるきっかけになればそれが刺激になり、社員はますます会社を好きになるのではないでしょうか。
Qどれだけ興味をもって取材できるかに関わってくるわけですね。それは、プロ意識を持つことと言っても良いのでしょうか?
プロ意識は重要ですが、大切なのはちゃんと現場目線に立てているかです。大企業になればなるほど社内であっても「知らない人」は増えてきます。下手したら上層部の顔を知らないという人だっているかもしれません。そういう人たちにでも、会社が伝えたいことがしっかり届けられるよう、現場目線に立って編集する姿勢が大切です。あと社内報作りのメリットは、実は外部向けにも流用できるところにあるのです。社内で興味を持ってもらえる良いコンテンツというのは、外部にも受けることがあります。「こんな面白い人がいます」を、どんな形でもいいので外部向けに発信していければ、あらゆる人の目にとまって、会社のファン作りにも寄与しますからね。社内報を作るのは結構労力がいることなので、一つのリソースを複数にアウトプットできるよう、うまく活用した方がいいと思います。
Q社内報に関する有益なアドバイスをいただきましたが、「総務」という仕事について、誌面を通じて伝えたいと考えていることはありますか?
総務は、結局会社の言うがままにやらざるを得ないところがあります。だから「何でも屋です」と割り切ってしまうのが一番なんですが、それじゃ面白くないと感じたときに、自分の存在意義や有用性を考えてしまうものなんです。しかし私はさらに割り切って、「社員の仕事効率をもっと良くするために、自分はいるんだ」という考え方に変えれば、もっと「攻めの姿勢」になると思うのです。攻めの姿勢に変われば、「こういう人事制度の方がいいですよね?」「オフィスのレイアウトはこの方が、コミュニケーションがもっと活性化するのでは?」といった提案が出てくるはずです。なのでこうした想いを、誌面を通じて伝えていきたいですね。
Q読者は主に、総務のご担当者でしょうか?
大半はそうですが、最近は、総務に営業をするようなビジネスをしている方も対象にしています。たとえばオフィス用品の営業の方は、企業の総務にお話されますよね。しかし総務の仕事を知らない営業マンが多すぎる。ですからそういう方々向けに、総務の仕事内容を知ってもらえるようなコンテンツ作りも目指しています。
Q最後に今後目指して行きたい方向性を教えてください。
以前から、総務、人事、経理などの管理部門がバラバラになっているところが多く、これをつなげられないかと考えてきました。企業は縦割りのことが多いので、その中で各部門がそれぞれに目標を掲げてやっていると思います。しかし社員のためと考えるなら、ここは一本化されていた方がいいのではないでしょうか。それをまとめるために有効なのが、「働き方」を決め、社員一人一人に浸透させることです。「働き方」というのは経営理念とは違います。うちの会社はどういう働き方をすれば、目指す先にたどり着けるのか、ということです。「どうしたら?」が提示できれば、「業務がうまく推進するためのオフィス作りはこうですよね」「コミュニケーションツールはこちらの方がいいのでは?」など、管理部門が集まって「こうしたら」という一つの回答が出るんではないかと思います。今は、この「働き方」という考え方が浸透してくことが目標ですね。
(取材日:2013年6月25日/取材と文:公文 紫都)
豊田 健一氏
- 媒体名
- 月刊総務