読者の多くは私たち以上の知識と経験を持っていらっしゃる方だと想定している
2009年に新卒で株式会社Impress Watchに入社して以来、デジタルカメラの総合情報サイト「デジカメWatch」で記者を務める鈴木誠さん。「凝り性」だというその性格は、記事にどう反映されているのでしょうか。記者になった経緯から現在のお仕事内容、また今後の目標まで仕事にまつわる色々なお話を聞きました。
QImpress Watchに入社した経緯を教えてください。
高校生の頃からImpress Watchを愛読していて、会社やメディアへ興味を持っていました。でも私は楽器ばっかりいじっていたバンドマンだったので、就職活動においてメディア業を強く意識していたわけではなかったのですが、たまたま就活サイトにインプレスグループの募集を見つけてしまい……これは!とファン心理でエントリーしたらそのまま採用されたというのが経緯です。記者職を希望しますと伝えたところ、念願かなってImpress Watchの編集部に配属されました。
Q楽器同様、もともとカメラもお好きだったのですか?
実はカメラにはほとんど縁がなくて、デジカメWatchに来て初めて本格的に触れました。ただもともとガジェット好きで、かつモノにハマりやすい性格なので、少し触っただけでどっぷり浸かってしまって(笑)。今ではプライベートでもカメラを手放すことはないくらい夢中です。
デジカメWatchは、編集長を含めた3名の編集部員と外部ライターという少人数で成り立っているメディアなので、特に記者ごとに領域が分かれているわけではなく、全員がまんべんなくデジカメに関する話題を扱っています。とはいえやはり個々に色は分かれてくるもので、私は「ライカ(ドイツのカメラメーカー)好き」というキャラクターを売りにしています。
メディアの人間が特定のブランドを好きだと言うのは避ける傾向もあるかもしれませんが、私は逆にカメラ業界の一員として、どういうモノが好きなのか、嗜好を明らかにしておこうという考えです。カメラに限らず、趣味のアイテムにおいて個人の好みは必ずあるものですからね。
Qライカの魅力はどんなところなのでしょうか?
ライカの中でも私が好きな「M型ライカ」と呼ばれるモデルは1950年代に初代が生まれたのですが、半世紀たった今でも形状が変わっていません。もともと私は腕時計やギターなど、歴史を経てもベースが変わらないというモノにひかれるところがあり、ライカもそこに魅力を感じました。私くらいの年齢で歴史のあるライカが好きという人は珍しいらしく、老舗のカメラ雑誌に載せていただいたこともあるんです(笑)。
2012年には、2年に1度ドイツで開催される「フォトキナ」というカメラの伝統あるイベントで、ライカの大々的な新製品発表を取材することができました。ブースに張り付きながら夜中まで取材をし、そのまま現地で記事を書き入稿というハードスケジュールだったのですが、あまりに興奮していたこともありまったく大変だとは感じませんでした。むしろ最高の経験となり、今でも良い思い出です。ライカはとても歴史が古く、よほど興味がないと半世紀分もさかのぼり知識をつけることはできないと思います。そのため、なかなかガジェットを扱うウェブメディアで取り上げるところはないようですが、だからこそ、カメラ専門誌であるデジカメWatchらしい細かさで、私自身も勉強しながらレポートを届けられるのは嬉しい限りです。
Q「ライカ好き」以外に、鈴木さんが自身で分析している強みはどこでしょう?
いくつかありますが、極力細かい情報まで載せるんだという「しつこさ」と、目先のPV数を追ったいわゆる「釣り記事」は書かないところです。デジカメWatchの読者は、心からカメラや写真を愛している方々ですから、釣り記事を書いてがっかりさせてしまうことは絶対にしたくありません。それよりも、カメラファンの求める情報をより気の利いた形で届けられるよう心がけています。それは、自分も日頃からカメラや写真に親しんでいなければできません。
今話題のミラーレスカメラ一つとっても、単に、「すごいカメラが出ましたよ!」ではなく、何がすごいのか?本当にすごいのか?を客観的に検証します。それが私たち専門媒体の役目でもあるからです。読者の多くは私たち以上の知識と経験を持っていらっしゃる方だと想定しているので、例えばプレスリリースに「業界初!」と書いてあった内容をそのまま記事に反映すると、「過去にはこういうのも出ているので、初めてではないですよ」とご指摘をいただくようなことになります。誤った情報を届けることのないよう、日頃からたくさんの勉強をしなくてはいけないと感じる日々です。
最近はこうした細かい情報を求める方だけでなく、男性とは違った視点でカメラを楽しむ女性や、これからカメラの勉強をしたいと考えている方も増えてきているので、そうした方々にも満足いただくような記事も意識して増やしているところです。これもカメラ業界の土地勘を分かっている媒体だからこそ成せる技だと思うので、あらゆる読者ニーズに応えていきたいです。
Q日頃広報とのやり取りも多いと思うのですが、印象に残っている方やエピソードはありますか?
ゴールデンウィーク休暇中にカメラを持って遊びにでかけていたら、突然カメラメーカーの広報の方から携帯電話宛てにご連絡をいただいたことがありました。話を聞くとちょうどこれからそのメーカー主催のイベントがあり、ゲストにミュージシャンを呼んでいるので、音楽とカメラが好きな私なら興味があるかもしれないと連絡してみたというのです。ライカ好きと認知されていることは多いのですが、音楽も好きだと知ってくれていることは非常に嬉しく、すぐにその場で編集長に許可を取り取材に向かいました。
また私の凝り性が反映された記事をしっかり読み込んでくれている広報の方に、「いつも詳細なレポートをありがとうございます」と声をかけていただけると、励みになりますね。
Q最後に今後の目標を教えて下さい。
ウェブメディアには色々魅力がありますが、一つには公開までのスピードが挙げられると思います。私はまだ決して速くないと思っているので、今後はどこを記事にするべきかという要点をいち早く見つけ出し、それをどう組み立てるかの判断力を、経験とともに高めていくことが目標です。
また、デジカメと一口に言ってもたくさんの種類があるので、その中から入門者の方々に「どういうカメラがお好みですか?」と提案するような発信の場も探していきたいです。そのためには各メーカーの特徴や、製品の良さをもっともっと深く知る必要があります。専門家として知識をつけるだけでなく、その楽しさをいかに興味を持ちやすい形で伝えていけるかも大事なポイントですね。カメラを愛する読者の方に喜んでいただける記事を、一本でも多く提供していけるよう頑張ります。
(取材年月:2013年11月28日/取材と文:公文 紫都)
鈴木 誠氏
- 媒体名
- デジカメWatch