都会でもがいている人たちは、ぜひ地域に目を向けていただきたいですね
地域×ITをキーワードに開設されたメディア&プロジェクトサイト「finder」。メディア部門を率いるのは、テック系メディア「TechWave」立ち上げ人の一人である本田正浩さんです。自身を「写真記者」と名乗るのは、写真へのこだわりが強いから。そこに秘められた思いや、地域に着目したメディアを立ち上げた理由を教えていただきました。
Qfinderの概要と、メディア立ち上げの経緯を教えてください。
finderは、各地域の面白い取り組みや担い手を写真中心に伝える「メディア」と、各地域の事情に合わせた活性化支援の企画を立案、実行する「プロジェクト」の両面を持つメディア&プロジェクトサイトです。プロジェクト部門の責任者である奥田浩美さん(株式会社ウィズグループ代表)と共に、2012年10月に立ち上げました。
私はかつて時事通信社に勤めていたんですが、退職後、当時の同僚である湯川鶴章さん(作家)と一緒に、「TechWave」というITベンチャー関連専門のメディアを立ち上げ、運営してきた経歴があります。このメディアに関わっている間に、首都圏だけではなく、もっと地方にもITの力を生かせる方法があるのではないか?と考え続けていました。その答えがハッキリ出たのは、2012年9月に鹿児島県を訪れた時です。
TechWaveが主催するワークショップを鹿児島県肝付町で行い、そこに住む高齢者やTechWaveの読者の方々と共に、「ITを活用した地域の課題解決」について活発な議論を交わしました。東京や大阪から来た私たちの意見と、地元住民の視点が混ざり合うことで、思いもよらない発見があり、課題解決に向けて前進する。これに可能性を感じた私は他の地域でも実現していくため、TechWaveとは別に、「finder」を立ち上げることに決めました。
キャッチフレーズにしたのは、「離れた地域に住む人のエネルギーを交換する」こと。別の地域に住む人の「よそ者の視点」を大事にすることによって、地域が抱える課題を一つずつ解決していきたい。
それがfinderに込めた思いです。
Q奥田さんをパートナーに迎えた理由は?
奥田さんは、IT業界に25年身を置く大ベテランです。長くこの業界にいて、ずっと考えてきたのは、「どうしたらもっと、ITを使って多くの人を幸せにできるだろうか?」だそうです。「子どもを含めて身近な人や、地方に住む人たちにももっとITの恩恵が感じられることをしたい」、奥田さんはいつもそうおっしゃっています。私が2人でメディアを立ち上げようと決めたのは、考えていることが一致したからです。
元々私たちは、奥田さんが関わっている「IVS(Infity Ventures Summit)」というIT関連のカンファレンスで知り合いになりました。その後、奥田さんを取材する機会に恵まれたのですがそこで話が盛り上がり、気づけば5時間も経過(笑)。取材を通して2人の間に、新たなアイディアが生まれようとしていました。ですから記事の締めくくりは、「何か出かかっているんです」となっています。実はこの「何か」が、後に誕生したfinderのコンセプトになった部分でもあります。
私は面白い取り組みをしている人を取材する「メディア」を、奥田さんは地域×ITをどうやってビジネスにしていくかの「プロジェクト」を担当しています。
Q取材はどういう編集方針のもと、行っているのでしょうか?
誰もが知っている有名人よりも、どちらかというとまだ世間的にはあまり知られていないのだけれど、地域活性化に向けて頑張っている地元の若い人たちや、他の地域でも再現性のあるユニークな取り組みを取材するようにしています。
finderが最終的に目指す先は、「人物名鑑」になること。「この分野だったらこのクリエイターに話を聞いてみよう」など、地域活性化を目指す読者が、自分たちの町を良くするために参考にできる人をどんどん取り上げるメディアにしていきたいからです。なので地域の取り組みに関しても、決して他ではマネできないようなことは紹介しません。その取り組みを実践している人の話からヒントを得て、他の地域でも採用できることを意識して紹介しています。それが最終的に、地域活性化につながっていくはずだからです。
Qどの記事も大きな写真と短い文章で構成されていますが、この理由については?
ビジュアル中心にしているのは、文章よりも、一枚の絵が突き動かす力の方が大きいと思っているからです。finderというサイト名にしたのも、写真へのこだわりから。記事にするかしないかは、ほとんど良い写真がとれたかが判断基準になっているので、それくらいこのメディアにとって写真は重要な存在です。
Q写真はいつから撮り始めたんですか?
いつだろう…子どもの頃からですね。気づいたら撮っていたので、明確にいつとは覚えていないです。もう一つ、写真中心のメディアにしたのは、自身の才能を生かせることをしたかったからという理由もあります(笑)。
TechWave時代にも記事を書いていましたが、書き始めたのはメディアを立ち上げて1年くらいしてからなんです。時事通信社では記者ではなく、ウェブデザイナーとして勤務していたため、記事を書いた経験は全くありませんでした。一緒にメディアを立ち上げた湯川さんが有名人なので、素人の私が文章を書いたら媒体力が落ちるんじゃないかと思っていて…。今でも文章を書くより写真を撮っている方が楽しいし、好きだし、「これはいい写真が撮れそうだから取材に行っている」と言ってもいいかもしれません。
メディアの特性上、プレスリリースから記事にすることはほとんどありませんが、リリース自体には目を通しているので、読んだときに、「あ、これ絵が見える」という内容の方が、取材に行きたいという欲求が芽生えます。そういう意味では私は記者よりも、写真記者なのかなと思っています。
Qこれまで手がけた記事の中で印象に残っているものはありますか?
どれも印象深いですが、あえて一つ挙げるなら、香川県琴平町で行われた「ニコニコ町会議」の記事でしょうか。これは、幕張メッセで毎年開催される、ニコニコ動画最大のファンイベント「ニコニコ超会議」の地方版イベントです。私はニコニコ動画のヘビーユーザーというわけではないので、正直若い子たちがのめり込む理由がよく分かっていませんでした。でも取材を通して、ああ、ここには僕の知らないインターネットの世界があると、若い子たちが熱狂する理由が見えたんです。知らないことに出会える。これがまたfinderで取材をする魅力かもしれませんね。
Q最後に今後の目標を教えてください。
まずは全県に取材に行くこと。それから、英語版サイトを立ち上げることです。日本が抱えている高齢者問題や地域の問題というのは、海外でも同じように課題としてあります。日本が行っている取り組みは世界でも最先端なので、海外に向けて成功事例を提供していきたいですね。あと私たちは、徳島県で初のプロジェクトを始動し、「株式会社たからのやま」という会社を作りました。今後は他の県でも積極的に会社を作り、色々な人たちを巻き込みながら、地域を盛り上げていきたいと考えています。
都会にはいいエネルギーを持っている人がたくさんいるのですが、それを発信しようとすると、周囲から理解されず空回りしてしまうのが実状です。しかしそうした力は、本来もっと発散されるべきなんです。地域にはエネルギーの放出を待っている人がたくさんいます。ですから、都会でもがいている人たちは、ぜひ地域に目を向けていただきたいですね。finderがそうしたいいエネルギーを交換できる場になるよう成長を続けるので、期待していてください。
(取材日:2013年8月26日/取材と文:公文 紫都)
本田 正浩氏
- 媒体名
- finder