旅での素晴らしい体験や発見を読者の方に伝えていきたい
価値ある旅の楽しみ方を中心に、食・文化・アート・ファッションなど、日々の暮らしに変化をもたらすヒントを綴るフリーランス・ライター小野アムスデン道子さん。ガイドブック「ロンリ―プラネット」日本語版を立ち上げから担当。世界30カ国以上で取材執筆し、海外の情報を発信し続ける底にある思いについて伺いました。
Q現在はフリーでご活躍されてらっしゃいますが、どのような媒体に記事を書かれていらっしゃいますか?
「旅」を軸として、ライフスタイルついて執筆しています。旅は寛ぎや癒しもありますが、日々の生活や生き方に変化をもたらすスパイスのようなものだと思います。そんな旅をインスパイアするものとして、旅での素晴らしい体験や発見を読者の方に伝えていきたいと思っています。
ですので、
「大人の女の贅沢主義」を提案している「ウーマンエキサイト・ガルボ」や「CREA WEB(クレアウェブ)」、「ELLE ONLINE(エル・オンライン)」などで、女性たちがちょっと今までと違う旅気分になれる記事を書くことが多いですね。
また、BtoCだけでなく、BtoBの記事も書いています。
「週刊ホテルレストラン」という旅行・レストラン業界の方向けの専門誌や、最近だと週刊東洋経済で京都の観光戦略の記事を取材執筆しました。観光資源も豊富な京都ですが、建物の高さ規制等で、ホテルの建設に制限があります。その分を旅行の消費額でカバーをする方策の一つとして、海外の富裕層に向けてアピールを強化している現状と戦略についてインタビューしました。
Qどのような経緯で今のお仕事に?
マスコミへの就職を考えていた頃、女性のための求人・転職を書いた雑誌「とらばーゆ」が創刊されました。女性の働き方について興味を持っていましたので、「とらばーゆを作りたい!」と思い、編集職を希望してリクルートに入社したのです。当時、「とらばーゆ」には編集のポジションが空いておらず、住宅系の情報誌で編集の経験を積むことになりました。知識がなければできない仕事なので、宅地建物取引主任者の資格を取ったり、経済・社会系の分野の知識の基礎ができましたね。
転機はその後、当時リクルートの子会社だったメディアファクトリーに異動になった時。
私はもともと旅が好きだったので、旅行ガイドブックの「ロンリープラネット(LONELY PLANET)」の担当になれたのは幸運でした。
ロンリ―プラネットは、世界的に有名なガイドブックで、欧米の旅行者のほとんどが持っていると言っても過言ではありません。日本のガイドブックと比べて、情報量が圧倒的に多いのです。たとえば『インド』というタイトルですと1000ページくらいあります。
日本人と違って、旅行期間が長い欧米人にはそれくらいの情報量が必要なのですね。
その分、旅の最中に新しい発見をすることを重視した、日本人にはない視点で書かれているこの本の面白さを、なんとかして日本人にも伝えたいと思いました。5~10人のチームで日本語に翻訳して、私は表現の統一や校正を行いながら全体を編集し、タイやニューヨークなど、全部で20タイトルほど出版しました。このロンリ―プラネットの編集をしたことが、その後、旅に主軸を置くフリーライターの道につながっています。
Q今まで書かれた中で、特に印象に残っている記事はありますか?
いま、「ウーマンエキサイト・ガルボ」で連載している、「パリ、印象派アートを語る旅をしよう」、という記事です。
この記事は、私が編集を担当した「パリとノルマンディー 印象派を巡る旅ガイド」という書籍とコラボした形になっています。
この本は、ニューヨークのMuseyon Inc.から2011年に発行された『ART+PARIS IMPRESSIONISTS&POST-IMPRESSIONISTS』を日本語に訳したものです。マネやベルト・モリゾなど、印象派の画家たちの生涯をたどりながら旅ができるガイドブックになっていて、2012年にメディアファクトリーから日本語版が刊行されました。
私は常々、短期間にあちこち見て回る旅ではなく、「テーマ」のある旅をした方が満足度が高い、ということを読者の皆に伝えたいと思っていました。アートの秋ということで、自分が編集した本とコラボしながら、テーマを追求する「大人の旅の提案」を「ウーマンエキサイト・ガルボ」で連載できることになり、1年越しの思いが実を結んだのは嬉しかったですね。
Q広報の方とのお付き合いはありますか?
広報の皆様とは日々やり取りをしています。その中でも、扱っている商品やサービス、観光だったら担当される地域に対する愛情がある広報の方は、素直に共感を覚えます。プレスリリースひとつとっても、書く人の商品に対する愛情が強いと、他社との優位性についても調べて書くでしょうし、商品の背景を掘り下げることでストーリーを見つけたり、トレンドと結び付けたりと、記者にとって魅力的なプレスリリースになっているように思います。
たとえば、スパについてなら「オープンした」というニュースだけではなく、スパの内容はもちろんですが、そのスパがもつ伝統的な背景や、業界や地域にもたらす影響、スパが持つ深い意味合いまでわかると、事実である「体験の重み」と共にその奥にあるものを重視している私にとっては興味が引かれます。
自分の担当する商品に愛情のある広報の方は、書く側の私たちにいかにバリューがある情報を届けるかという情熱が伝わってくる感じがします。
Q最後に、今どのような情報発信に関心を持たれていますか?
今までは、日本人に向けて、海外の旅の情報を伝えるアウトバウンド向けの執筆を中心にしてきました。日本人としてのアイデンティティや、新たな発見を得るために「世界を知ってもらいたい」という気持ちで、海外に旅に出たくなるような記事や、テーマを持った旅の記事を執筆してきたのです。
今、2020年の東京オリンピックも決まり、私の中で、海外の方に「日本をもっと知って欲しい」という思いが強くなっています。
今までの取材で、多くの海外メディアの方たちとお会いしましたが、最近、日本への関心がまた強まっているように思います。今年、ベトナムのホテルのオープニングの取材に行った時には、香港、シンガポール、インドネシアのメディアメンバーが、みんなワーキングママだったこともあって、意気投合。その後、その香港のメディアからは、日本についての記事を依頼され、英文で記事を書くきっかけになりました。
そうした海外メディアの方たちとのつながりを生かして、外国人旅行者を日本へ誘致し、そして日本での旅を思い切り楽しんでいただけるように、インバウンドの一助となるような記事も書いていきたいなと思っています。
小野アムスデン道子氏
- 媒体名
- ウーマンエキサイト・ガルボ