無邪気にお店の方に話しかけ情報を引き出しつつ、素の部分を探って行きます
都内在住、20-30代のOLが主な読者層の雑誌『OZmagazine』。「街」「旅」「ライフスタイル」をテーマに、そこに宿る「物語」を発信する。発行元のスターツ出版に勤めて8年目になる丹美保さんは、誌面を通じて読者に「新しい価値観を届けたい」と言います。そんな丹さんが考える、誌面づくりとは。
Qスターツ出版に入社された時期と、理由を教えてください。
新卒採用第一期生として、2005年4月に入社しました。もともと、情報媒体が好きなのでマスコミ志望ではあったのですが、なかでも「紙の手触りが好き」「信頼できる情報を届けたい」という理由から、出版社を中心に試験を受けていました。
「信頼できる情報を届けたい」と思ったきっかけは、とある情報番組です。健康情報を提供するテレビ番組でした。好きな番組だったのでよく見ていたのですが、ある時その番組が情報をねつ造していることが発覚し、大事件になって。この事件をきっかけに、見ている方に「正しく信頼できる情報」を届けられるメディアに行きたいと、スターツ出版に入社を決めました。
学生の頃から『OZmagazine』を愛読しているのですが、一つ一つの情報を丁寧に扱っているという印象があったのです。
Q入社後すぐに『OZmagazine』に配属になったのでしょうか?
いえ。新卒入社メンバーは雑誌というものはどうやって発行されているのかを勉強するために、はじめは全員、地域情報誌の創刊準備にあたるのです。ここで営業や執筆などひと通りの修業を積んでから、各部署に分かれる形で本配属となりました。
私は9ヶ月ほど広告営業を学んだ後に、『OZmagazine』のウェブ版「OZmall」で、プレミアム予約ページのディレクション業や、モバイルサイトの編集業務などを行いました。『OZmagazine』に配属されたのは、2012年の始めです。
Qちょうど『OZmagazine』に来て1年半くらいですね。今は何のご担当を?
毎号の特集に加え、「OZ Happy Collection」というコーナー内の、「News」を担当しています。「OZ Happy Collection」は、休日でも平日でも、少し電車に乗って足を運んだだけでメリットが感じられる、関東圏内のエリア情報を掲載しています。お金の面でも場所の面でもハードルが高過ぎず、でも行ったら必ず楽しんでもらえるような情報です。
私が担当している「News」は、衣食住といったオールジャンルの中から8つくらいのニュースをピックアップするページです。お店の場合は、オープン前からオープン後1ヶ月半くらいをめどにした新店舗をご紹介しています。基本的には、読者の皆さまが「元気になれる」情報を掲載していますが、雑誌を開いた時必ずしも元気だとは限らないので、「寂しい気分の時」などさまざまな心の受け皿にもなれる情報も入れるようにしています。
Q情報は、どんな風に選んでいるのですか?
毎日手元に届くプレスリリースをチェックし、その中から面白そうなところをピックアックしています。また、他紙やWEBでの情報、知人からの情報もしっかりチェックします。
その後、興味があるところに実際に出向いて、リサーチを開始。編集者だという身元は明かさず、あくまで読者視点に立って、「かわいいですね!」「美味しいですね!」と無邪気にお店の方に話しかけ情報を引き出しつつ、素の部分を探って行きます。
重視するのは、そのお店がどんなコンセプトを持っているか。そこが面白いのは前提として、価値観や姿勢に共感できるかが誌面で取り上げるポイントになります。掲載数の約1.5倍のお店を実際に現地まで見に行ってチェックし、その中から最終的に紹介するところを絞っていきます。
Qプレスリリースをチェックされているということですが、どんなリリースがぐっときますか?
そのお店が、誰に何を伝えたいのかという「コンセプト」がしっかり書かれていることです。マーケティングベースで作られた文章は、リリースとしては十分機能しているのかもしれませんが、コンセプト重視の私たちの媒体では少し物足りなく思うことがあります。お店紹介の記事を見た読者が、そこで何をできるかだけでなく、何を感じ何に共感するかを考えながらリリースをチェックしています。
Qこれまで手がけた記事の中で、特に印象に残っているものはありますか?
「ピリカタント書店」という東京・下北沢にある、カフェ・雑貨屋・書店が一つになったようなお店があるんですが、ここを取り上げた記事は印象に残っています。こちらはリリース経由ではなく、たまたま行きつけのお店の店長が、「知り合いがお店をオープンしたんだよ」と教えてくれたことで知りました。
ホームページを見ても情報はほとんどなく、どんなお店なんだろう?と不安になりましたが、ひとまず電話をしてみたんです。そうして店長の女性と話してみたら、お客さんや、お店で扱っているモノに対する温かさが伝わってきて、すっかりファンになってしまいました。実際に行ってみたら電話で感じたとおりの温かみが体現されたお店で、これはぜひ紹介したいと誌面で取り上げさせていただきました。
お店をオープンするのって、とても大変なことだと思うんです。でもこのお店のように、どうしてこういうコンセプトのお店をオープンしたのか?という思いは、店長さんがどれだけエネルギーを費やしているかによって、しっかり伝わってきます。
お店のオープンを知らせるリリースの中には、「駅近で安いよ!」とだけ書かれたものも多くあります。しかし駅近だという便利さや、安さを売りにしたお店はあふれていて、媒体で取り上げる決め手にはなりません。仮にそのお店で扱っているものが目新しいものじゃなかったとしても、「うちはこうなんです!」としっかり主張されていると、それだけで印象に残ります。
Q誌面以外に取り組んでいらっしゃることはありますか?
「tab」というウェブサービスを活用しています。tabは、行ってみたいお店やイベントなどをクリップしておくと、近くを通ったときに通知してくれるサービスで、自分だけのウェブ雑誌を作るような感覚で楽しむことができます。
tabで発信する情報は、『OZmagazine』の誌面と連動させていて、毎月雑誌で紹介した中から3-4件をピックアップして紹介しています。誌面ではスペースの問題で取り上げることができない情報も多くあるので、それらを1,000字程度で紹介しています。
2013年5月には、クリップ数が多かったようで、tabを運営している頓智ドット株式会社さんからMVPを頂きました。雑誌は女性読者が中心ですが、tabを使うことにより、男性ユーザへも訴求できるところが、tabを使うメリットでもあります。
Q最後に、今後めざしていきたい方向性がありましたら教えて下さい。
誌面を通して、新しい価値や心に残る価値を提供していきたいです。一つ一つのお店には必ず、どうしてその世界観を表現するに至ったのか、というストーリーがあります。そのお店が持つストーリーにしっかり焦点を当て、読者の皆さまに新しい気づきを与え続けていけたらいいですね。
(取材日:2013年6月18日/取材と文:公文 紫都)
丹 美保氏
- 媒体名
- OZmagazine