編集の仕事を通して、人と人をつなぐことで世の中に働きかけていきたい
講談社が運営する、ウェブメディア「現代ビジネス」。フリーランスという立場で編集部に参画しているのは、出版社Discover21出身の徳瑠里香さんです。編集の仕事を通して、人と人をつなげて世の中に働きかけていきたいという、徳さんの熱い思いを聞いてきました。
大学2年時に助産院を取材した記事が受賞
Qまずは、編集職を目指すようになったきっかけを教えてください。
小さい頃から作文や手紙など文章を書くことが好きで、中学生の時には、よく新聞の投書欄に応募していました。書くことだけでなく人の話を聞くことも好きだったので、興味のある人に話を聞き、文章にする仕事ができたら楽しそうだ、好きなことを仕事にできたらと、高校生の頃から漠然と出版業界に興味を持っていました。
Qその後、いつ頃から本格的に編集職を意識するように?
大学に入ってからですね。高校卒業後は、地方にある実家を出て東京の大学に進み、大学2年時に宣伝会議の編集者講座に通い始めました。この時初めて取材を経験することになり、興味があった助産院についての話を記事にまとめました。ちょうどその頃、体調が急変した妊婦をどこの助産院も受け入れられないと、「たらい回し」にし、妊婦が命を落とすという痛ましい事件が世間的に注目を集めていたので、その実態を知りたいと思ったのです。自分の問題意識を掘り下げ、取材して書いた記事が賞を取り、宣伝会議の雑誌に掲載されました。
またこの記事をきっかけに妹が助産師をめざすようになり、看護学校に通い始めたのです。初めて、自分が書いた記事で人が動くという体験をし、人(著者や取材対象者)と人(読者)をつなぐことで世の中に働きかけていきたいと、編集の世界へ進むことを決めました。
25歳以下に「等身大の働き方」を提示したい! 社内初となるレーベルを立ち上げる
Q大学卒業後入社したのは、出版社のDiscover21。ここではどんなお仕事を?
入社1年目は営業で、2年目から編集部へ異動となりました。はじめは主にイベントを手掛けている社長室のサポートをしたり、編集者でもある社長の下で見習いをさせていただいたりしていたのですが、その後、自ら新しいレーベルを立ち上げました。
レーベルを立ち上げたのは、社会人3年目を迎えようとしていた頃。リーマンショック直後に就職活動をしていたこともあり、友人など周りで会社を辞める人や、辞めたいと悩んでいる人が多くいました。自分自身も、ようやく少しずつ会社や仕事に慣れてきて、そもそも世の中にはどういう働き方があるのだろう? と興味が出てきたこともあり、それを形にしてみようと思いました。ユニークな働き方をしている30歳くらいの“ちょっと身近な先輩“を著者に迎え、自分と同世代以下(25歳以下)に、働き方のロールモデルを提示できないだろうか? と考えたのです。
シリーズテーマは、U25(25歳以下)がU25に贈る、社会を楽しく生き抜くためのサバイバルマニュアル、「U25 SURVIVAL MANUAL SERIES」。ビジネス書になじみがない人にでも読みやすいようにと、ビジュアルを多用し、分量を少なめにするなど工夫を施しました。
書籍は、起業家の家入一真さんによる、「もっと自由に働きたい」、著名ブロガーのはあちゅう(伊藤春香)さんによる、「自分の強みをつくる」の2冊を創刊号として同時発売し、その後、複数の肩書きで活躍する安藤美冬さんによる「冒険に出よう」など、働き方をテーマにしたものを全部で10冊出しています。
著者はもちろん、社内にいる同世代のスタッフや先輩方がイベントに参加してくれたり、FacebookやTwitterでつながった読者に支えていただいたり。多くの方の協力を得ながら、一冊一冊作り上げて行きました。初めての編集で、シリーズ創刊、かつ1.5ヶ月に1冊のペースで刊行していたので、当時はめまぐるしかったですが、色々なチャレンジができ非常に濃い経験となりました。
Qレーベルを立ち上げると言った時、会社はどんな反応でしたか?
Discover21は、常に新しいことをやっていこうという方針の会社なので、若い私がチャレンジをすることに対し、積極的に応援してくれました。
そもそも私がレーベルを立ち上げたいと思ったのは、同世代に等身大の働き方を示したい! という気持ちと同時に、これからの編集者の在り方が変わってくるだろうという思いもあったからです。書籍のコンセプトを考えるところから、実際に書店に並ぶまでの一連の作業に加え、ウェブサイトやイベントとの連動など、マーケティングに関わるところまで。
編集者が「いい本を作ったら売れる」というスタンスではなく、「いい本を作って売る」という視点を持って行動する必要があると思ったのです。
TwitterやFacebookといったSNSで、編集部の日常を公開したり、読者とのコミュニケーションを図ったり、著者さんと書店さんに挨拶に伺ったり。また、刊行イベントを開催したり、創刊1周年のときに20代限定で300名規模のイベントを企画したり……できることをやってきました。
入社後、営業やイベント運営も経験させていただき、会社全体でサポートしてくれたことが大きかったです。
出版業界が下火に入っている時だからこそ、未来を作れる
Q出版社を辞め現代ビジネスに移ってきた(フリーランスに転身した)のは、どうしてでしょうか?
編集長にお声がけいただいたのがきっかけですが、出版業界の中で既存の形にこだわらず、新しいメディアを作っていこうという姿勢に共感しました。書籍、WEBメディア、イベントなどを連動させて、企画編集をできるようにしていきたいと思っています。実は今もレーベルから離れたわけではなく、関わっています。こうした柔軟な働き方ができるのは、フリーランスの強みですね。
Q今の担当領域は?
読者対象は、自分を含む20・0代の若い世代、働く女性に置いています。例えば、2020年に主役になっていそうな若手リーダーを取り上げる「EPOCH MAKERS 2020」や、世界で活躍する若者を紹介する「Global Shapers Community Tokyo」など、これからの時代を担っていく若者に注目しています。e
もちろん若い世代だけではなく、知識や経験を積み重ねた「プロフェッショナルの方々に仕事の作法」を教えていただくことや、最近では、「女性の選択」や「社会で子どもを産み育てること」などにも興味があり、そうしたテーマを取り上げた記事の編集や執筆を手掛けています。自分自身が読者の代表として、興味のあるテーマを取材したり、著者に書いていただき編集したり、またイベントを開催するなどして、同世代や同じ問題意識を持っている人たちに共有していきたいと思っています。
Qこれから目指して行く方向性を教えてください。
色々考えながら模索中ではありますが、まずは、自分や自分の周りにある問題意識を掘り下げ、社会に働きかけるきっかけとなるようなコンテンツをどんどん編集し形にしていくことです。
今出版業界は下火に入っていると言われていますが、逆にそういう時だからこそ、工夫次第でいくらでも新しい未来を作っていけると思うんです。
私はまだまだ経験や実績が少ないので、しっかり力をつけていく必要があります。一方で、知らないこその強みもあると思います。例えば私が作っているU25シリーズの本には、帯がありません。帯にかけるコストをデザインに回したかったからです。帯をつけない、これは出版業界の常識からしたらあり得ないことなのかもしれませんが、読者にとっても常識ですか? と言われたら、決してそうは言えないと思うんです。
従来の枠におさまらず、これからも色々なチャレンジをしながら、人と人をつなげて世の中に問題提起できるメディア、編集者の形を模索していきたいと思います。
(取材年月:2014年3月/取材と文:公文紫都)
徳 瑠里香氏
- 媒体名
- 現代ビジネス
- プロフィール
- 編集者・ライター。1987年生まれ、慶應義塾大学法学部政治学科卒。(株)ディスカヴァー・トゥエンティワンにて、「U25 SURVIVAL MANUAL SERIES」 創刊、10冊を企画編集。その後、独立。主に、講談社「現代ビジネス」にて、企画編集・ライティングを行う。世界経済フォーラムGlobal Shapers 2014 選出。