落語が武器の営業マン、転じてテック媒体の記者に
国内外のスタートアップ企業の紹介や、新しいプロダクトのレビュー、業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長を続けるTechCrunch Japan。同編集部のメインライターとして活躍する増田覚さんに、TechCrunch Japanで働き始めた理由や目標について伺いました。
広告営業として意外とやり手だったんですーー。
Qいきなりですけど増田さんってオシャレですよね。もともと記者以前はどんな仕事をしていたんですか?
いまとなっては信じてくれる人もいないんですけど、広告代理店でけっこうなドブ板営業をやっていました。営業企画みたいな役職で、もうなくなっちゃいましたけど、新聞社系の週刊誌を当時所属していた会社が4ページ扱ってて、そこで社長インタビューの記事広告を売っていたんです。
いま思えば、えげつない広告商品でした(笑) それこそしれっと「社長いますか?」みたいに電話して、相手が乗ってきたら取材して、インタビュー記事を掲載して、広告費をいただくという。電話かける相手を探して、一日中電話して、取材して記事書いて、お金のやり取りも全部やっていました。
Qそういうのすごく苦手そうに見えますけども…。
なんか、昔はできたんです(笑) それこそ墓石売りの会社から占いの会社まで、あらゆる会社の社長に営業かけて、インタビューして、記事も書いてました。「ちょっと話、盛り上がっちゃったんで、記事2ページでもいいですか?」なんて聞いて、そうすると一気に売上が2倍になるんです。
意外とやり手だったと思いますよ。常に1位か2位。押しの強さはないので、下から入り込む営業スタイルです(笑) はっきり言ってお金もらって書いているわけだから、相手の良いところをすごく探しますよね。もう必死に探す。探しまくって掘り出して盛り上がると、1ページが2ページになって、もらえる広告費も2倍になりますから。
取材相手とのコミュニケーションのために落語を聞き込んだ
Qある意味、それはいい記事というか、力のこもった記事を書くのが鍛えられますね。
そうですね。取材される経営者の方の中にも、記事広告だってわかってるけど、せめて取材は広告じゃない体裁でやってほしいっていう自尊心はありますから、そこは傷つけないようにとか工夫しました。新卒の頃から2年半くらいの期間ですが、すごくいい経験になりました。
たとえばこれは広告営業時代に培ったことなんですけど、取材に行くときは、駅からそのオフィスまでの景色をもらさず見て、オフィスに入ったら部屋の中の風景も見て、まず何かしらの話題を見つけます。「あのラーメン屋、美味しそうですね」とか、賞状が飾ってあったら、「あれはあの受賞のときのですか?」みたいな。あと、経営者には年配の方が多かったので落語を聞きました。
Qえ…、落語ですか!?
自分からしてみたらおじいさん世代の人が多かったので。落語の話の“間”ってウケるんですよ。間というか、呼吸がすごく勉強になります。なのでひたすら聞いて、それを体に染み込ませていました。私生活にはまったく生きてないですけど(笑)
Qそのトップ営業マンが、なんで儲からなさそうなウェブメディア業界に?
それはやっぱり、お金もらわないと記事が書けなかったからです。自分が本当に惚れ込んだ会社でも、どんなに素晴らしい企業でも、広告を買ってもらわないと記事は書けないし、掲載できなかった。そういう自由度はやっぱり全然なかったので。
それに当時はネット業界がいろいろ動いてて面白そうでした。その後に転職したITニュースサイト「Impress Watch」を運営するインプレスは、書ける場所を探していて見つけました。いまは本当にそのときに出会ったのがインプレスで良かったと思っています。
ITに関しても素人、記者としても半人前でしたが、取材から記事の書き方から、全部教えてくれました。それは間違いなくいまも生きています。当たり前だと思われるかもしれないですけど、それだけ教育できる人がいる会社はなかなかないです。もちろん厳しかったですけどね。
インプレスに入社したのが2004年10月。一昨年まで9年ほど「INTERNET Watch」というネット媒体に在籍していました。
ブログメディアに求められる人間臭さとブランド力
Qで、いまはTechCrunchにいらっしゃる。転職された理由は?
個人的に1つの区切りのようなものを感じたからです。当時、まずは取材先や発表会などの内容をありのままに、いかに読者にわかりやすく伝えられるかを重視していたんですけど、その基本的な部分については自分なりに納得できるところまできたかなと。
だから、もう一歩踏み込んでみたいと思ったんです。ニュースの場合だと本当にまずはありのままに伝えるっていうのが大事だと思います。でもいま所属しているTechCrunchはニュースサイトというよりも“ブログメディア”という建て付けなので、もちろん事実は確実に伝えるんですけど、それにプラスして「このニュースはきっとこういう意味を持つよね」と一言添えてあげるような、もう少し人間臭さが求められています。そこにこちらとしてもやりがいを感じています。
同時に単純なページビュー(PV)よりもどれだけターゲットとする層に深く刺さったか、信頼されているか、そういったブランド力が重視されていると思います。ストレートニュースのように、プレスリリースをそのまま整形して「どうぞ」って差し出してもそこは全然刺さらなくて、「ここが注目すべきところだよね」みたいにある程度ガイドしながら書けることが理想じゃないでしょうか。
Qインターネット業界のニュースを漏らさず届ける立場から、自分なりの解釈とともに届けるようになったということですね。両方価値があることだと思いますが、広報・PRとの付き合いの点で変化はありましたか。
確かにINTERNET Watchの時はそれこそ1つ漏らさずどんな情報も欲しかったんですけど、今はなかなか全部取り上げるのが難しいです。そこでいま特に重きを置いているのが、“ストーリー”なんですよね。それがあるかどうかを考えています。
「製品を発表しました」とか、「サービスを出しました」とかだけではなく、その裏に「こんな面白い人がいる」とか、「こういう秘話がある」とか、何らかのストーリーが欲しいです。たとえば「大手企業を辞めて作ったプロダクトですよ」とか、「高い給料を投げ打って起業しました」なんてストーリーを、皆さん実際によくシェアされているんじゃないでしょうか。
そういった部分を踏まえた上で広報さん、PR会社さんからアプローチしていただくことも多いです。それで実際に話を聞いてみるという流れですね。こちらの意図を理解していただいているんだと思います。
とにかく読者に愛されたい、それだけです
Qスタートアップ企業相手となると、広報担当というよりも経営者に直で会うことの方が多そうですね。付き合い方で気をつけていることはありますか?
そうですね。気をつけていることといえば、まさにズブズブの関係にならないようにと。距離感の問題です。
一緒に飲みに行ったりすることも非常に多いんですが、そこで「記事書いてくださいよー」みたいな、「しょうがないですねー」みたいな。なりがちじゃないですか? でも当たり前ですが、あくまで我々は読者のためにやっているので、そこは気をつけるべき点だと思います。以前に比べて取材対象者との距離が近くなりがちなので、一層注意しています。
Q増田さんの記者・編集者としての目標は何ですか。
とにかく読者に愛されたい、それだけです。読者のためだけに仕事をしています。読者を満足させることができれば、きっと取材対象者をはじめとするスタートアップ業界にも貢献できますし、広告主にもお返しできることが増えるでしょう。でもすべては読者が先にありきです。
たとえばTechCrunchだったら記事を読む前に記者の署名が見えるじゃないですか。そこに「SATORU MASUDA」という署名があったときに、「お、記事読もうかな」って思ってもらえると嬉しいですね。それでこそブログメディアの価値だと思うので。
あとは、まだ全然できてないですけど、TechCrunchはまだまだ記事少ないので、もっと書き手をネットワークして、国内の情報を厚くフォローするための組織づくりを進めています。書き手もめちゃくちゃ探してるんです。
特に現場のスペシャリストの方に助けていただきたいです。僕らが取材しても所詮は導入部分を読者にわかりやすいように伝えるところにとどまることが多いので、深いところは専門家の話を、寄稿という形で読者に直接届けたいと思っています。
企業内の専門家はとても探しづらいのでご提案などあれば大歓迎です。TechCrunchって中の人しか記事を書いてないように見えますけど、実はいろいろな会社の人が書いてるんです。そこは常に募集していますので。
(取材日:2014年9月29日/取材:@narumi/撮影:首藤 達広)
ValuePress!編集部より
今回TechCrunch Japanの増田さんにインタビューしてくださったのは@narumiさん。
↓2月11日に書籍が発売された@narumiさんにValuePress!がインタビューしたときの記事はこちら↓
イケメン記者、NAVERまとめ職人、プロブロガー…数々の呼び名を持つ@narumi氏はどんな人物なのか。
増田 覚氏
- 媒体名
- TechCrunch Japan
- 部署・役職
- 編集記者
- プロフィール
- 2004年よりインプレスのINTERNET Watchの編集記者としてインターネット業界の記事を執筆。2014年9月よりAOLオンライン・ジャパンに入社。TechCrunch Japanの編集記者として、スタートアップ業界を取材している。1978年生まれ。東京都出身。趣味は写真。