チームワーク作りのプロへ
日本においてグループウェア製品のトップシェアを有するサイボウズ。「ソーシャルコミュニケーション部」というセクション名に思いを込めた副部長の大槻幸夫さんとメンバーの椋田亜砂美さんは、オウンドメディア「サイボウズ式」で新しい企業ブランドの構築を図る。
チームワーク作りを応援する会社「サイボウズ」
Qまず、事業の特徴からお教えください
大槻さん
「予定を共有するスケジューラーのサイボウズ」といったイメージが定着していると思いますが、そこから一歩踏み出して、最近では当製品の諸機能により、チームでのコラボレーションを推進していただきたいという願いを込めて「チームワーク作りを応援する会社」と標榜しています。
Qソーシャルコミュニケーション部という名称がユニークですね
大槻さん
もともとは、マーケティングコミュニケーション部という名称だったのですが、そこにはこちらから外に向かっての一方的なニュアンスを感じたのです。ユーザーの声を聞き、それを受けて発信していく時代にはふさわしくないという私のこだわりで、ソーシャルコミュニケーション部に改めました。
業務内容としては、プレスリリースの発信やマスコミ対応といった一般的な広報業務と、「サイボウズ式」というオウンドメディアでの情報発信や「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」というアワードの運営による企業ブランディング活動があります。
Q広報業務で、何か工夫していることはありますか?
椋田さん
一度取材してもらった記者との関係を深めることを心がけています。メディアとしては、大きくIT系のニュースサイトと、一般の雑誌、テレビ、新聞などに分かれます。IT系のメディアとは、昔からのお付き合いもあり関係を築きやすいのですが、一般のメディアには、製品的に今ひとつ分かりにくいのではと思います。そこで、定期的にニュースレターをお送りするなど、当社への理解を深めていただけるような活動を行っています。
「サイボウズは素敵な会社だ」と思ってもらう
Qでは、特徴的な「サイボウズ式」についてお教えください
大槻さん
「サイボウズ式」は、当社がオウンドメディアとして運営している「新しい価値を生み出すチーム」のために、コラボレーションとITの情報を届けるサイトです。2012年5月にローンチしました。
Qどんな狙いでスタートさせたのでしょうか?
大槻さん
当社は、グループウェアの国内トップシェアメーカーで、IT業界ではそれなりに知られています。しかしながら、グループウェア市場は成熟しており、今後さらに成長していくためには、非IT業界や海外での認知度を高めなければなりません。特に、若いビジネスパーソンにもっと知ってもらう必要があります。
また、IT業界の先端層など、一部の人に「サイボウズは古い、高い、ダサい」というイメージを持たれていることも確かです。このままではマズイという危機感から、リ・ブランディングの必要性を感じました。
ユーザーに製品だけを打ち出しても届かなくなっているのは明らかです。当社がどういった考え方で製品を送り出しているのか、当社そのものの顔が見える情報を伝え、共感してもらい、「サイボウズはチームワーク向上に役立つ専門家だ」と思っていただきたいと考えました。
Q最初から、今のメディアの形をイメージしていたのですか?
大槻さん
当初は、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアで、企業アカウントを通じたユーザーとの交流を検討しました。しかし、「いいね!」を集めるだけで終わってしまっては意味がありません。生み出したものが話題性のある実績として形に残ること、そしてメンバーが深く関わって自身の成長に繋げることを勘案し、より難易度が高いオウンドメディアをやってみることにしました。
コンテンツは、チームワーク作りを応援する会社として、世の中で成果を上げているチームにフォーカス。その裏側でどんなことにこだわり、どんな動き方をしているのかを取材して、読者と共有するメディアを作ろうとなりました。
自身の興味関心が取材対象
Qどんなチームが紹介されているのですか?
大槻さん
「東京スカイツリー」、「LINE」、「JINS PC」、「テルマエ・ロマエ」などのヒット商品を生んだチームが中心です。その他、代表の青野と旬な経営者との対談や、「もしもルフィが社長だったら?―『ONE PIECE』から組織マネジメントを考える」といった漫画をネタにしたチームワークの解説記事を掲載しています。どちらかというと、すでに話題になっているところに乗っかっていくというスタイルですね(笑)。
Qオウンドメディアを立ち上げる際に苦労されたことは?
大槻さん
外部のライターとカメラマンの力も借りていますが、我々が直接携わらなければ意味がないと考え、企画や編集作業はすべて社内で行っています。とはいえ、メディア作りなど誰も経験したことがなく、ノウハウもないので、「読まれる文章はどう書けばいいのか?」といった初歩的なことから手探りでスタートしました。
取材対象は、自分やメンバーが知りたいと思う企業やチーム。自身が知りたいことが、一番読者に伝わると考えました。
椋田さん
私は編集と記者を兼ねているのですが、本当に会いたい人のところへ取材に行けるので、とても楽しんでいます。代表の青野も、この場を利用して会いたい人との対談を連発していますよ(笑)。
Qどんな成果が生まれてきましたか?
大槻さん
ニュースサイト『BLOGOS』のアワードにノミネートされたり、宝島社さんからムック本出版のオファーをいただくなどの反響がありました。顔が見える形で、自社の考え方を伝えているという意味で、社内的にも評価されています。代表の青野が自ら高い関心を持って次々と登場しているのもその表れだと思います。
Q初めての試みでありながら成功できたのは、どういった要因があったとお考えですか?
大槻さん
既存のマーケティング手法では、現状を変えるのは難しいという危機意識を、社長を始めとするチームメンバーで共有できたからだと思います。推進力を得られたのはそこかなと。
Q今後、「サイボウズ式」をどういった方向に成長させていきたいとお考えですか?
大槻さん
「あの会社にはチームの専門家がいる」と受け止められ、テレビ局などからチームに関するコメントを求められることが理想です。そのためにも、読者に届く記事作りに今まで以上に力を入れていこうと思います。ネットだけでなく、紙メディアやテレビ番組化することも狙っていきたいですね。
自社の製品は、これまで多くのパートナー企業に販売していただいてきましたが、クラウド化と共に直販の機会が増え、自ら販売する力が必要になっていると感じます。自分たちが企画・編集していく力を培うことは、自社のいい面を伝える力に繋がり、それが直販力の向上をもたらすと考えています。今は5~6人のスタッフで作っていますが、いずれは全社的に関わるメディアにしていければいいですね。
自ら情報を編集し発信していく力
Q広報担当者に必要なスキルとは何でしょうか?
大槻さん
今、オウンドメディアは広報手段として一つの大きな流れにあると思います。読者の共感を得られれば、一気にソーシャルメディアで拡散してく爆発力も期待できます。こうした観点でいえば、所属する業界の専門家として、自ら情報を編集し発信していく力が求められているのではないでしょうか。
また、ユーザーの反応とコミュニケートして次のアクションに繋げていくプロデューサー的な能力もあるとなおいいですね。「ほぼ日」の糸井重里さんは、まさにそうしたプロデューサーだと思います。
椋田さん
アンテナを高くして、今話題となっているものは何かをキャッチし、そこに自社のどんな要素を当てはめれば話題作りができるかを考え、提案する力でしょうか。自社だけでは難しいことも多いので、異業種の企業とコラボレーションするのもありだと思います。そういった発想の柔軟性も大事ですね。
Q最後に、今後の目標についてお聞かせください
大槻さん
ブランドイメージについて、アップルやマイクロソフトを10点だとすれば、当社はまだ2点ぐらい。残り8点を埋めていくカギは、コミュニティ作りにあるように思っています。今の「サイボウズ式」はまだ情報を発信することで精一杯ですが、これを着実に行える力をつけ、読者の反響に対応し輪を大きくしていくような動きも加えていきたいと考えています。雑誌などの強みは固定の読者を抱えていることですが、「サイボウズ式」もそうなりたいですね。日本国内だけでなく、もっと世界でも認知されることを目指していきます。
椋田さん
私はもう少し手前のところで、まずは居酒屋でサラリーマンの誰に聞いても「サイボウズ?知っているよ」と言ってもらえるように裾野を広げていきたいと思っています。チームリーダーが何か知りたいと思った時に、真っ先に訪ねてもらえるようなメディアを目指して、コンテンツを充実させていきたいですね。
大槻 幸夫/椋田 亜砂美氏
- 企業名
- サイボウズ株式会社
- 部署・役職
- ビジネスマーケティング本部 ソーシャルコミュニケーション部
- 設立
- 1997-08-08
- 所在地
- 東京都文京区後楽1-4-14 後楽森ビル12F
- プロフィール
- 【写真左:大槻 幸夫さん】
ソーシャルコミュニケーション部 副部長 「サイボウズ式」編集長
2005年の入社以来、マーケティングに従事。2010年、ソーシャルコミュニケーション部長就任。2012年5月、「サイボウズ式」のスタートと共に編集長を務める。2012年8月より広報部門を統合。
【写真右:椋田 亜砂美さん】
ソーシャルコミュニケーション部 コーポレートブランド担当
2006年に入社し、人事として採用や研修制度作りに従事。自ら作った制度を活用し大学院に通学、修了後の2010年に広報着任。社内広報、社外広報を担当し、2011年より現職。