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PRの醍醐味は「ドミノ倒し」のような自走する仕組みづくり

老舗スポーツメーカー「デサント」で、「燃え尽きランナー」「PCスーツ」といった新しい概念を世に提唱してきた加勇田雄介氏。言葉の定義にはじまり、企画の目的、成果指標まで、物事を漠然と捉えない姿勢が多くの成果を生み出してきた。加勇田氏の企画立案プロセス、PR観を伺った。

とことん突き詰めることが必要


Q加勇田さんは入社時から、現在と同じWEB推進課にいらっしゃるとのこと。Webを担当する部署にいながら、「PCスーツ」や「燃え尽きランナー」の企画を仕掛けていったということなのでしょうか。


「Webの部署はWebのことだけやっておけばいい」という見方もあるかと思いますが、「部分最適の組合せでは全体最適にならない」という経験を前職でしていまして。Webの課題だけを解決しても、ボトルネックになっているところを解決しないと意味がない。自社のボトルネックは何なのか。その問いが違えば、出てくる答えも違ってきます。

当社はまだまだ「問いは何か」の突き詰めが甘いように感じます。そして、その大きな要因の1つが、言葉の定義を曖昧なままにしていることです。当社は「Design for Sports(デザインフォースポーツ)」という企業スローガンを掲げています。私は入社に際しても「デザインって何ですか?」「スポーツの定義って何ですか?」と聞いてましたからね(笑)。デザインやスポーツという言葉は、抽象的であるがゆえに、その言葉の解釈の変化には日々敏感であるよう心がけていますし、周りにも確認するようにしています。

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近年、カラーパウダーを全身に浴びながら走る「カラーラン」に代表されるように、スポーツも、コミュニケーション手段としての側面を求められるようになってきているんです。スポーツといきつけの飲み屋での飲みニケーションが競合になる時代です。

しかしながら、当社のような純スポーツメーカーの人間の場合、外側にどんな世界があるか気付きにくい。「スポーツ」という言葉の解釈に対する変化がわからず、ともすれば事業と世の中が分断される“鎖国化”の状態になることを懸念しました。幸いにも、私には前職での経験や、メディアの記者など外との接点があります。外の世界と触れて、解釈の変化を読み取り事業へフィードバックしたり、「スポーツの定義って何なの?」と疑問を投げかけることで、事業の鎖国化を防ぐことがWEB推進課のミッションかなと思っています。

 

オウンドメディアのPV数は「3」でいい


Q入社されて2年半、いろいろなPR企画を手がけてきたと思いますが、その成果指標はやはり広告換算になるのでしょうか。


少なくとも私が関わる施策では、広告換算値は掲げないです。なぜなら、広告換算値と言った時点で、掲載されることがゴールになっているわけで、そこには記者の方への敬意が感じられないからです。たとえば「PCスーツ」を日経電子版の「ヒットのひみつ」というコーナーでご紹介いただいたのですが、もしPCスーツが鳴かず飛ばずで終わった場合、そのコーナーへの読者の信頼は下がるかもしれない。そのリスクを負って紹介してくれている中、掲載されればOKというスタンスは、パブリック“リレーションズ”、関係性が重要だと言っている人間がやることではないなと。

 

Qなるほど。そうなると御社の場合はどういった指標を設定するのですか。


施策の目的によって指標はまったく異なりますが、たとえば、「PCスーツ」に関するアンケート結果をオウンドメディアに掲載した際、私たちが設定した目標数値は「3PV」でした。リクルートの人事担当者、ヨドバシカメラのバイヤー、弊社のヨドバシカメラを担当する営業の3名に見てもらえればいいと。

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メディア取材が入れば、オウンドメディアの比にならないようなPV数を獲得できます。メディアが書きたくなる舞台を整えるために、電気量販店(ヨドバシカメラ)で売られている、大手IT企業(リクルート)に導入されているといったファクトを用意しようと考えたのです。アンケート調査は、ヨドバシカメラ、リクルートへアプローチしやすくするためのコンテンツという考え方です。

どう頑張ってもプロの記者が書く記事の面白さには勝てません。であればオウンドメディアの存在意義は、プロの記者が書きたくなるような状況を作り出すためのツールなのかなと。そして、そのようなスタンスの結果、「ITmedia」やYahoo!の「スポナビDO」などにコンテンツを配信できるまでに、オウンドメディアが力をつけてきています。

 

Qなぜヨドバシカメラとリクルートだったのでしょうか。


descente_middle2当時、ヨドバシカメラはPC用メガネを取り扱っていたので、「IT企業が導入したデスクワーク対策コーナー」を提案しやすい環境にあると踏んでいました。そして、導入先として注目されるIT企業はどこだろうと考えたときに、上場したばかりで注目されているリクルートが浮かんだのです。

以前、リクルートの上場前特集で、人事の方が取材を受けている記事があったのを思い出しました。人事担当の方曰く、「リクルートは実態はIT企業だけれど、採用市場ではどうしても営業会社のイメージが強い」と。これは提案できるなと思ったのです。

「IT企業のイメージをつけるのであれば、福利厚生を充実させた方がいいですよね。競合する他社も福利厚生を強化しています。ただ、PCスーツを福利厚生に取り入れたIT企業はまだないので、差別化になるのでは?」

と、リクルートに提案しました。導入することが自社の福利厚生だけでなく、PRとしても活用できると反応してくれて、実際に東洋経済や日本経済新聞が興味を持ってくれました。

 

PR会社から戦略PRを提案される状況を恥じた方がいい


Q加勇田さんが考える、PRの一番の醍醐味は何でしょうか。


企画はドミノ倒しだなと。「PCスーツ」なら、リクルートとヨドバシカメラが採用すれば、メディアの注目はあとからついてくる。こことここさえ動けば、あとは勝手に自走し始める、という構造をどれだけ正確に作れるかが、PRに限らず企画の醍醐味だと思っています。

社内を巻き込むのもドミノ倒し。たとえば外部メディアでの「燃え尽きランナー」の連載には、株式会社タニタや株式会社バスクリンなど大手企業が出てくるんですね。実は社内を説得する前に、彼らを説得しに行きました。タニタが、燃え尽きランナーでデサントと組みたいと言っているとなれば、社内も動かざるを得ない。ヨドバシカメラがPCスーツをやりたいと言っていますとなれば、社内も動かざるを得ない。ここが動けば他も動くというドミノ倒しの法則は、社内でも同じだなと。

 

Q逆算して計画を練るわけですね。今後はどういったことに挑戦していきたいとお考えですか。


PR会社が声高に「戦略PR」を唱える状況を是正したいなと。事業会社の立場で考えたときに、PR会社に商品のバリューをいじられていることは、もっと恥じた方がいいのではないかと感じています。

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戦略PRは、商品のバリューを社会的な問題や背景と結び付ける手法。本来であれば、時代と商品との接点を考えるところは、一番外注してはいけない部分だと思います。商品がほぼ出来上がった時点で、PR会社の方からニュースバリュー(その商品が必要な背景)を後付けされて応急処置されている現状は問題です。化粧品会社のPRをしていたPR会社が、自社で化粧品を売り始めた例もあります。PR会社への依存を断ち切らなければ、事業会社は存在意義を見失うかもしれません。

今後は、PR会社が唱える戦略PRを消滅させることを目標に、商品段階から口を出していければと思います(笑)。

 

(取材日:2015年5月18日/撮影:竹内 慎)

加勇田 雄介氏

企業名
株式会社デサント
部署・役職
セールスプロモーション統括部 SP部 WEB推進課
設立
1958-02-01
所在地
東京都豊島区目白1-4-8
URL
http://www.descente.co.jp/
プロフィール
1986年生まれ。大学卒業後、アライドアーキテクツ株式会社、株式会社トライバルメディアハウスを経て2012年11月に株式会社デサント入社。PRを基軸に、領域にとらわれない課題解決・ビジネスモデル構築に奔走する。

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