手書きでゴールの絵を描く
自社オリジナルの「グラマラス系」「姫系」ファッションで人気を博す夢展望。約135万人に及ぶ10~20代の女性層の囲い込みに成功し「神的(かみてき)通販サイト」とも称される。ケータイ文化の普及と共に育った「ハチロク世代」を対象にした広報の秘訣を聞いた。
mixiニュースを通して女性層へ
Q御社が東京へ進出されたのはいつ頃ですか?
当社が東京進出を果たしたのは、2007年です。この年は、税込1万円で買えるレディーススーツセットが大ヒットし、会社全体が「さらに攻めていこう!」という雰囲気になっていました。東京に拠点がないと、記者さんとのリレーションも取りづらかったので、僕が東京支店の第1号社員として入社しました。
現在、メディア広告チームは僕を入れて3人体制です。僕の担当分野はテレビ番組への衣装提供、プレスリリースの作成、あとはメディア対応全般です。部署名に「広告」と付いているのは、ファッション誌への広告出稿が業務の中に含まれているためです。
Q東京での広報活動はどのようにスタートされたのですか?
メインターゲットとなる10~20代の女性層がファッションの情報を収集する媒体は何なのかを考えたときに、まずはファッション誌で、続いてWeb・テレビなどが考えられました。この年代の女性層は多彩な情報ツールを使い、積極的に情報収集しています。当社の会員向けに実施したユーザーアンケートでも、日常的にファッション誌・ブログ・SNSに多くの時間を割いていることが分かりました。
そのような中で「夢展望」はネット通販ですので、親和性の高いポータルサイトやmixiのニュース欄に狙いを定めました。当社が東京進出した2007年は、mixiが大ブーム。mixiユーザーの女性の目を引くよう、mixiに情報配信しているメディアをリストアップすることから始めました。
Qリストに上がったメディアへはどのようにアプローチしたのですか?
当社には広報の前任者もいなく、私も未経験だったので、広報担当者が集まる場に積極的に足を運び、記者さんについての話を伺ったところ、「メディア向けの懇談会を開催したらどうか?」と教わりました。
そこで、Web媒体の記者さん7~8名にお越しいただき、当時のEC業界の現状や、今どきの若い女性の間でのファッションの受け入れられ方などを詳しく説明しました。その結果、Webのニュースサイトで当社のことをご紹介いただいた記事が、mixiニュースにも配信されたんです。当社サイトのPV数は著しく上昇しました。
当社の売れ筋商品は、「グラマラス系」や「姫(プリンセス)系」と呼ばれる、かなり派手なファッションです。当時すでに会員数は100万人を超えていましたが、そのようなファッションを通販で購入する若い女性が大勢いることが、世間一般ではあまり知られていませんでした。そのぶん、ネット上で話題になったのでしょう。あるファッション誌が付けてくれた「神的(かみてき)通販サイト」というキャッチフレーズも人目を引いたのではと思います。
Qテレビについては、どのような取り組みをなさったのですか?
当社はEC店舗の開店当時から、エンターテイメントの要素をECにミックスさせることを志向しているので、テレビ番組に積極的に衣装を提供しています。ドラマの中で女優さんが着用した衣装が買えることを、当社の強みにしたかったのです。2012年12月からは、当社の商品をより身近に感じてもらい、当社が取り扱っている各ブランドの世界観を伝えるために、オリジナルのネットドラマも自社サイトで配信しました。このドラマのキャスト陣は、すべて当社の商品を身につけて出演しています。
見えてきた「成功の方程式」
Q御社のようにプライベートブランドかつEC専業の企業は業界的にも珍しいのではないですか?
競合他社はいわゆる百貨店型が多いのですが、当社の場合は毎月400点も独自商品を企画開発しています。完全オリジナルである半面、自分たちで商品をPRしない限り、どこにも取り上げてもらえません。しかも、当社の主力商品は低価格のファストファッションなので、商品の移り変わりがきわめて早い。浴衣や水着などの季節商品は、販売できる期間が正味2ヵ月。短期間で集中的にPRしなければなりません。
それでも、Webで紹介いただいた記事が第一報として流れると、季節商品はテレビまで波及する可能性があります。ゴールを最初に設定した上で、第一報をどこで流してもらうかの絵図を描くのが、広報担当者の醍醐味でしょう。
Q絵図とは、実際に絵を描くのですか?
はい、文字どおりに絵を描きます。とはいえ本格的なものではなく、オフィスに余っている裏紙に描いた落書きレベルです。たとえば2012年、当社では丈が短くてバラやレース、リボンを大胆にあしらった「ドレス浴衣」を販売しました。僕はそれに先立ち、「その浴衣を身に着けた女の子が街中を歩いていて、同世代の女の子が口々に『カワイイ!』と言って振り返る」絵を描きました。するとゴールがきちんと定まり、どんな広報活動をすべきか明確になるんです。
Q実際にはどのような活動をなさったのですか?
通りすがりの人が振り向くほどのブームを起こすには、当然ながらテレビで取り上げてもらう必要があります。とはいえ、ものには順序があるので、どんな段階を踏んで広報活動をすればテレビまでたどりつくかを逆算しました。
たとえば、新聞の消費面・文化面・生活面などに取り上げられると、テレビで話題になる確率は上がります。また、新聞や雑誌の記事がさまざまなWebサイトにも転載され、それらを目にしたテレビ番組のディレクターさんから問い合わせをいただくケースも増えています。「ドレス浴衣」の際は、まず影響力のあるWeb媒体に掲載いただき、それを目にした全国紙で取り上げられ、最終的には地上波の情報バラエティ番組で紹介されました。
Qまさにゴールからの逆算ですね
あらかじめゴールを設定してから広報活動に取り組むうちに、一種の成功パターンが確立し、他の新商品が出た時にも応用が利くようになりました。新たな商品の提供を始める時も、もちろんプレスリリースは一斉に配信しますが、「このネタなら、まずはあの新聞にキャラバンに行かなければ」と、頭が自然に働きます。
実際にこの順序で第一報が出ると、Web媒体にもずらっと掲載される確率が高いんです。反対に、業界誌には「何万枚売れました」という実績が出てからキャラバンに行きます。斬新な商品を出したこと自体は、必ずしも業界誌にとってのニュースにはなりえないからです。
通販業界のスペシャリストへ
Qスマートフォンの普及で、御社の広報活動に変化は生じましたか?
当社に対する周りの見方が一変しました。スマホの豊かな表現力が知れ渡ったことで、スマホは通販にとって最適なデバイスだと理解していただけたのだと思います。当社はかなり早い段階からスマホに注力しており、すでに全売上の65%がスマホ経由によるものです。スマホECのリーディングカンパニーを目指して様々な施策を行ってきたことで、最近では当社の取り組みを外部で紹介させていただく機会や、セミナーでの講演依頼も増えています。さらには、文化・生活面のみならず、経済面での取材依頼も来るようになりました。現在では、自然と取材依頼が入るようになり、好循環が生まれています。
Q広報担当に向いているのは、どのようなタイプの人だと思いますか?
まずはフットワークの軽い方。僕の場合は前任者がいなかった上に、まったくの未経験からスタートしました。入社当初は、「さまざまな業界の広報担当者の経験談をとにかく教えてもらおう」と思い、勉強会や交流会に足しげく参加していました。先ほどお話したゴールの絵図を描くことも、ある大手飲料品メーカーの広報担当の方から勉強会で教わったんです。
次に情報分析力の鋭い方。情報収集におけるネットの割合は増えていると思いますが、ネット中の情報は玉石混合。自分の預かり知らぬところで勝手に情報が拡散しているケースもあります。それらの情報をうまく取捨選択できる方は、今後ますます重宝されるのではないでしょうか。
Q今後の目標を聞かせてください
会社としては、メインユーザーより上の30代の女性層の掘り起こしに取り組んでおり、テレビ通販のQVCと共同で新ブランドを立ち上げました。30代の女性層は、品質や素材へのこだわりがより強いので、モデルさんに現物を着用してもらいながら、テレビで30~60分かけて商品説明をじっくり行っています。
個人としては、通販業界に精通したスペシャリストになりたいですね。当社は通販のみならず、IT、モバイル、ファッションなどいろいろな側面を持っています。同業者や異業種との横のつながりをもっと強化しながら、道のりは長いですが「僕に聞けば、通販業界の最新事情が分かる」と言われるほどのレベルを目標に、努力していければと考えています。
永里 元気氏
- 企業名
- 夢展望株式会社
- 部署・役職
- 販売促進部 メディア広告チーム
- 設立
- 1998-05-14
- 所在地
- 大阪府池田市石橋3-2-1 大空ビル2~4F
- プロフィール
- 地元九州でアパレル販売員として約5年間従事。2007年に上京し、東京進出を果たした夢展望に出会う。バイヤーとして入社し、半年後より現職。