拡散の種をまく
「はてなブックマーク」「はてなブログ」を中心に数々のWebサービスを生み出してきた「はてな」。同社広報の山田聖裕さんは、ネット上のアカウント名「kiyohero」の愛称で親しまれる。2012年の東京オフィス移転、まかないランチなど、注目を集めた取り組みの舞台裏を聞いた。
外からの見られ方もフィードバック
Qまずは、御社の広報業務について教えてください
当社は、「はてなブックマーク」「はてなブログ」などのWebサービスを提供しています。収益源は主に、それらサービスに掲載している広告収入です。広告のスタイルには、バナーや純広告、アドネットワークにタイアップなどがあります。広報・マーケティング部では、こういった広告や、取材対応・プレスリリース配信といった広報業務を、マーケティングの一環として手がけています。
サービスに大きな変更があったり、新機能が追加されたときなどは、開発部と連携して、その内容をどのように伝えていくかを提案、実行しています。はてなが、外からどのように見られているのかを社内に伝えるのも大切な役割ですね。
Q山田さんが中心になって手がけた広報案件を教えていただけますか?
最近ですと、2012年の東京オフィス移転にまつわるプロモーションがあります。私は2011年8月に、京都本社から東京オフィスに異動してきました。その頃も中目黒に営業の拠点としての東京オフィスはあったのですが、京都の会社というイメージが強く、東京に拠点があることが、業界関係者や広告代理店の方に認知されていなかったんです。その東京オフィスが、2012年10月に表参道へ移転・拡大することが決定し、この移転を機に、強調してお伝えしたいと考えました。
ソーシャルで広がる東京オフィス
Qどのような活動をされたのですか?
「オフィス移転」というトピックでの、広報効果の最大化を狙いました。まずは自社サイトのプレスリリースと広報ブログで、複数回にわたって情報を発信。1回目は、移転するという事実をプレスリリースで伝え、2回目は移転先の工事風景を広報ブログで紹介。3回目が、業務開始日に出したプレスリリースです。いずれも「はてなブックマーク」を中心に話題を集めることができました。
工事風景を広報ブログで紹介したときは、中目黒にあった「“はてな名物”卓球テーブルをプレゼントします!」というキャンペーンを企画。なんと10件を超える応募があり、実際に当選された方が受け取りの様子をブログにまとめてくれたりもしました。
また、東京オフィスの移転と併せて東京開発センターが新設され、正式移転前のオフィス予定地で「エンジニア向けセミナー」も開催しました。定員30名に対して140名を超える応募をいただき、参加者によるブログレポートも多数アップされました。
Q情報を拡散させるために何か仕掛けられたのですか?
ソーシャルメディアはかなり意識して活用していましたね。たとえば、オフィスの正式移転後は、来社されたメディアやブロガー、関係者の方に「まかないランチ」を食べていただきました。本来「まかないランチ」は社内向けの福利厚生なのですが、外部の方にも提供することにしたんです。「はてなに来た!ランチおいしかったー!」など、自然にTwitterやFacebookに投稿していただけるかと思いまして(笑)。
あとはノベルティですね。当社は毎年Tシャツを作っているのですが、加えて、持ち運びしやすい名刺サイズのステッカーを作って配布しました。IT業界にはステッカー好きな人が多いので、PCやスマホに貼ってもらったり、「ステッカーもらった!」とつぶやいてくれたらPRにもなります。積極的にイベントや名刺交換のときに差し上げるようにしてきました。おかげさまで、東京オフィスの認知度も高まってきたと思います。実際に取材件数も増えています。
メディアの向こう側を見る力
Qでは、山田さんのご経歴について教えてください
大学を卒業後、製薬会社にMR(医薬情報担当者)として入社しました。学生時代は人とのコミュニケーションがどちらかというと得意ではなかったので、それを払拭したいという思いが動機です。おかげでその点は鍛えられましたが、インターネットへの関心が高まり、2005年に当社へ転職しました。
はじめはユーザーサポート業務に配属され、ユーザーの要望を開発に伝える仕事を担当しました。その過程で、まだユーザーじゃないたくさんの人にも当社のサービスをもっと知ってもらいたいという気持ちが大きくなり、2008年にマーケティング部(※当時)が設立される際に志願して、現在に至っています。
Q広報に求められるスキルとして、何が重要だと思いますか?
「自分で考えて自分で動く」ことでしょうか。会社にとって必要だと考えるものを相手に提案し、自らその実現に向けて動く力ですね。
また、メディアの向こう側を見る能力も大切だと思います。ただリリースを記事にしてもらっておしまい、ではなく、そのメディアにはどんな読者がいて、その記事を通してどう感じてもらいたいのか、どうソーシャルに投稿してほしいのかをしっかりイメージし、それが実現できるように記者とコミュニケーションするといったことですね。自分もまだまだ足りていない部分なので、磨いていきたいところです。
ネットをもっとワクワクできる場所に
Qコミュニケーション能力を養うために取り組んできたことはありますか?
一時期、「場数を重ねるしかない」と、いろいろな人に会うことを意識的に取り組んでいました。たとえば東京オフィスに異動になる前は、交流会や飲み会のために京都から東京まで自腹で行ってましたね。その結果として広報活動に役立てられる人脈も構築できたと思いますし、イベントのノウハウなども溜まったと思います。
Qセミナーでもよく登壇されていますよね
嬉しいことに、声をかけていただく機会が増えています。いろいろなところでいろいろな人にお会いしたことで、声をかけていただく機会が増えたのだと思います。ただ、「はてなが何をしているのか」が知られていないことの裏返しでもあるので、広報としては今後の課題ですね。これからは自分だけではなく、ほかの社員にも出てもらえる機会を増やして行ければと考えています。
Q今後の目標や課題についてお聞かせください
当社のサービスをもっといろいろな人に知ってもらって、よりたくさんの人に使っていただきたいですね。
また、これは個人的な思いですが、インターネットというと、最近ではサイバーテロやフィッシングなどの犯罪、ブログ炎上といったネガティブな話題が先行しているように感じます。そうではなく、ネットは新しいものに出会え、もっとワクワクできる場所だったはずです。はてなのサービスを通じて、少しでもそんなネット本来の価値を感じられる機会を増やしていきたいですね。
山田 聖裕氏
- 企業名
- 株式会社はてな
- 部署・役職
- 広報・マーケティング部/営業部
- 設立
- 2001-07-01
- 所在地
- 京都府京都市中京区 御池通間之町東入高宮町206 御池ビル9F
- プロフィール
- 2005年にはてな入社。ユーザーサポート業務を担当後、2008年に広報・マーケティング部設立と同時に現職。マーケティング、広報、営業の3業務を担う。