情報を「開発」し、ストーリーの中で広報する
アイウエアブランド「JINS」を展開する株式会社ジェイアイエヌが発表した、メガネ型デバイス「JINS MEME(ジンズ・ミーム)」。新しいウエアラブルデバイス体験を切り開く同製品の広報展開を中心に、マーケティングと広報を融合させた情報戦略について、広報・PR担当の渡辺里実さんに話を伺った。
情報を制御しながら
公開していく
Q「JINS MEME」を開発する上で一番こだわった点は?
通常の眼鏡の形状を変えずに機能を開発したところです。眼鏡は約700年ぐらい前から普及しているものですが、形は700年前から現在に至るまで変わっていないのです。この数字がどういうことなのかというと、眼鏡が世の中に長く受け入れられている形だということです。そのぐらいストレスなく生活に受け入れられているわけです。
Q「JINS MEME」はまったく新しい概念のデバイスになると思うので、その広報も新しい戦略が必要かと思いますが、いかがでしょうか?
い商品の特性によって広報するべきことも変わるかと思います。たとえば、ブルーライトをカットする眼鏡「JINS PC」のときは「パソコン用眼鏡」というものが普及していなかった中で、まずは、ブルーライトとは何かを伝えるコミュニケーションを取り、それをカットする利点をPRしました。
Q「JINS MEME」の場合はいかがでしょうか?
基本的には「JINS PC」と同様で、「何ができるか」「使うとどうなるか」を分かりやすく伝えることが重要だと考えています。ただ、今まで市場になかった商品なので、伝え方の手法は異なります。
Q伝え方の部分で具体的に工夫をされていることはありますか?
「JINS MEME」では、眼電位により検出されたまばたきや視線方向から、眠気や疲労度を検知したり、加速度、角速度センサーから歩行バランスや体のブレなどが分かります。それらの製品特長を「ドライブ」「オフィス」「フィットネス」といった3つのシーンに分けることで、ユーザーベネフィットを分かりやすく伝える工夫をし、今年の5月に製品発表しました。
Q発表会の反応はいかがでしたか?
発表会はお台場の日本科学未来館で開催しました。会場には約300人の方にお越しいただき、とても反響がありました。2014年は「ウエアラブル元年」と言われていますが、事前の詳しい商品説明が無い中で、これだけお集まりいただいたことで、改めてウエアラブル分野への注目度の高さを実感しました。メディアの方からもたくさんお問い合わせをいただきました。協業についてのお問い合わせも多く、様々な領域での活用の可能性について知る、いいきっかけとなりました。
Q3つのシーン以外ではどんな分野での活用が考えられますか?
ドライブ分野においては、既に自動車部品のトップサプライヤーである株式会社デンソーと慶應義塾大学メディアデザイン研究科を交えた産学共同研究体制により、眼電位センシングを用いた次世代の運転サポート技術
に関する研究をスタートさせています。
その他ですと、たとえば教育、医療、マーケティングの分野などが考えられます。「JINS MEME」はうなずきなどから、その人の興味関心度も分かります。
教育分野において学校で利用するとしたら、授業中に子どもたちに「JINS MEME」をかけてもらい、今この子は自分が話した内容をどれだけ理解しているのか、どの授業に興味があるのかといったことが分かるようになると思います。
理念を軸に
お客様と繋がるストーリーを作る
Qでは次に、広報をする上で大切な能力は何だと思いますか?
他者を巻き込む力はとても大事だと思います。スーパーマンのように全て自分でできれば楽なのですが、残念ながらそうではありません。
時間もスキルもない中で、どうにかしなければいけない状況においては、とにかくいろんなスペシャリストを巻き込んで発信していく力が、広報としても社会人としてもすごく大事だなと思っています。
Q「JINS MEME」の開発でも大学教授などアカデミックな方たちを巻き込んでいらっしゃいましたよね。
産学連携で取り組むことにより、確かなエビデンスを持った信頼性のある商品を届けることができます。そこがJINS独自の強みなので、第三者から得られるエッセンスはすごく大切にしたいなと思っています。
QPRとして取組みの指針のようなものはありますか?
視力矯正以外にどんな付加価値を付けていくかという視点で「機能性アイウエア」という概念が生まれたように、今後も広く「アイウエアで解決できること」をマーケティングの観点から考え、情報開発に努めていきたいと思います。情報開発というのは、切り口を変えると言えばいいのでしょうか。ストーリーの文脈作りですね。
ストーリーを作る際は、何事もブランド理念の軸をぶらさずに考えるよう心がけています。弊社の理念は「Magnify Life(人々の生活を豊かにする)」です。自社製品がどんなシーンで、どうやって人々の生活を豊かなものにできるのか、という視点を軸にコミュニケーションも考えています。
Q広報においても軸を作らないといけないということですね。
はい。それから、これはマーケティングにとどまる話ではないかもしれませんが、「社会的な必然性」も考えるようにしています。
社会的に受け入れられないもの、必要とされてないものを作っても意味がありません。顕在化しているものでも潜在的なものでも、お客様の生活の中にある課題を見つけて、それを解決していく商品を作ることが大切だと思い
ます。その必要性を、プレスリリースなどで誰もが理解できるストーリーにして伝えていくのが広報の役割だと考えています。
(取材日:2014年8月1日/撮影:首藤 達広)
渡辺 里実氏
- 企業名
- 株式会社ジェイアイエヌ
- 部署・役職
- マーケティング室 広報・PR担当
- 設立
- 1988-07-01
- 所在地
- 東京都千代田区富士見二丁目10番2号 飯田橋グラン・ブルーム30階
- プロフィール
- 前職であるマスコミ関連会社を経て、2014年2月に株式会社ジェイアイエヌ入社。マーケティング室に配属され、機能性アイウエアの担当として情報開発やPRを担当。