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勝ちパターンのないインバウンド。実地データが第一歩

1912年3月に、外客誘致を目的としてJTBの前身となるジャパン・ツーリスト・ビューローが創立された。現在、JTBグループでは、様々なグループ会社でインバウンド事業に取り組んでいる。今年4月に新会社「株式会社JTBコミュニケーションデザイン」が設立され、インバウンド専門の部署「インバウンドプロモーション推進室」も立ち上げた。同室リーダーの滝川貴志さんにインバウンドの現状と今後の動向を伺った。

国ごとに異なる情報の流れを把握する


Q滝川さんの所属するインバウンドプロモーション推進室について、まずは教えていただけますか。


インバウンドプロモーション推進室は今年の4月にできました。もともとインバウンド専門の部署を昨年立ち上げ、その部署を強化する形で人数も強化し、今は9名体制です。
日本政府観光局の訪日旅行促進事業(ビジット・ジャパン)や農林水産省、一般企業のインバウンド支援がメインです。

Q今日は主に一般企業のインバウンドについて伺っていきたいのですが、インバウンドの盛り上がりは企業のPRにどのように影響していると感じますか。


当社ではインバウンド専門サイト「JTBインバウンダーズ」を運営していまして、インバウンドに関するあらゆる質問や相談が来ています。メーカーなど、様々な企業の方から「こういうことがしたい」とか、「自分たちが出稿するメディアはユーザーにきちんと届いているのか」とか、「インバウンドの基本情報を知りたい」とか。

特に多いのが広報やマーケティングの方々です。
今まで国内の広報的なことをやっていたチームが、急にインバウンド需要が伸びて、どう対応して良いか分からないというケースですね。
我々はそういう状況をヒアリングをしつつ、コンサルティングに近い形で企画を練ったり、どのメディアを活用したりすると良いかを提案しています。

Q具体的にはどういった提案をされたりするのですか。


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旅行者の行動を「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」の3つのフェーズに分けて考えています。
フェーズごとにPRの手法は変わりますし、旅行者の「旅マエ」行動も国によって全く違うので注意が必要です。時折、インバウンド関連の雑誌などで「ここに出稿して何百人がお店に来ました」という広告を見るのですが、人が動くのってそんなに簡単ではないですよね。

たとえば中国だと口コミの影響力が大きく、それは「圏子(チェンズ)」という中国特有の人間関係が要因のひとつと言われています。部下が海外旅行に行くとして、上司が「○○社のドライヤー買ってきてね」と言ったら、これはもう絶対的なことで必ず買って来なければならない。それが約束事となってしまうような、相互に強い影響力のあるコミュニティです。爆買いは、このチェンズによる「集団的なお土産争い」が背景にあることが分かってきました。

これは中国に限ったことではなく、世界各国で国ごとの人間関係や情報の仕入れ方があって、それを丁寧に紐解かないと投資したお金が無駄になってしまう。私たちはこれをプロフェショナルとしてやらなきゃいけないと思うんです。

考えすぎの企業が多い。行動が遅れていないか


Q広報やマーケティングの担当者からのお問い合わせが多いと伺いました。企業の現場ではどのようなことが起こっているのでしょうか。


急にインバウンド担当に任命されたり、インバウンドに特化した媒体から広告の売り込みが来たりするみたいです。インバウンド担当者はおおかた1〜2名なのですが、上層部からは「うちはインバウンドどうなっているんだ」、「他の企業に遅れをとっているんじゃないのか」などと言われることも。

よく勝ちパターンはありますかと聞かれるのですが、それは本当にないと思っていて、実際その数値がどうやって伸びたのか、どの施策が当たったのかがよく分からないというのが実情だと思います。
そういう中で、いま現場で起きていることとしては、考えすぎている企業、知識をできるだけ仕入れよう、いろんな話を聞こうという人が多いような気がします。それはもちろん正しいのですが、一歩前に出れないというか、なかなか行動に移せていない印象があります。

Q行動に移せている企業、うまくインバウンドの波を捉えている企業はありますか。


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一緒にお仕事をさせていただいている、三越伊勢丹さんは素晴らしいですね。とにかくスピードが速い。
免税データを全部持っているという強みがあり、瞬時に今日売れたものが把握できて、明日にはどの商品がどれぐらい売れて、どの商品の人気が下がっているかが分かります。集計した免税データを次のマーケティングにどう落とすか、ということを考えています。
そのデータをもとに、どの国にどういうメッセージを届けるのかを店舗ごとにスピーディーなPDCAで展開させています。

Qデータの活用と届けたい先の分析ですね。インバウンドのPRで企業の担当者が意識すべきポイントはありますか。


JTBインバウンダーズに来たお問い合わせの事例を紹介したいと思います。
昨年、「台湾の雑誌Aと香港の雑誌Bに出稿しました。御社ではこの雑誌よりも良い広告枠を仕入れることができますか?」といった問い合わせが入りました。
直接お会いして色々とお話しを伺ってみると、実際は中国とシンガポールの売り上げが突出しているということが分かりました。

このように対象とすべき相手が違ったといった事例もあるので、実態調査は大事ですね。国内のマーケティングであれば、みなさんターゲットや露出量やリーチ率などすごく細かく計画を立てると思います。なのにインバンドとなると、なぜか一歩引いてしまう。インバウンドを漠然と捉えず、国内と同じように、どの国、どの層に届けたいのか、ターゲットを明確にすることが第一歩です。私たちもクライアントへの提案にはプランニングシートを使って整理しています。

可能性はこれから。これだけの成長産業はない


Qインバウンドの市場は伸びていますが、まだあまり予算の取れない企業も多いと思います。そういう企業はどのように対応していくのが良いのでしょうか。


地方であればDMO(Destination Management/Marketing Organization)という、複数地域で連携したり、地域と民間企業が共同で集客する取り組み方もあります。

企業単独であれば広告予算の見直しですね。今ちょうど、「年間で店舗のインバウンドの販促をやってほしい」と依頼いただいた案件を担当しているのですが、その企業様も広告予算はそんなに大きくなかったんです。
でも実際に街を歩いてみると、誰も見ていないような場所に広告として看板があったりして。インバウンドや国内広報やプロモーションなどの枠をとっぱらって、フラットで見たらどこに広告予算を投下した方が良いかを考えると、答えが出てくるような気がします。
その時は「たぶん誰も見ていないので、あの看板を外した方がよいのでは」と提案したら本当に外していただいて(笑)。広告予算が少ない企業としては、新たに広告を増やすというよりも、今どういった広告が出ているのか、無駄な広告費をかけていないかを見直すのが良いと思いますね。

Q滝川さんはこれまで8年以上インバウンド事業に携われてきたと思います。これからインバウンドの担当者になる方へ何かメッセージをいただけますか。


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この仕事を通じて良かったと思うのは、公私ともに外国人の知人、友人がすごく増えたということです。
7〜8年前はあまりインバウンドは注目されていなかったですが、今は2020年に向けて盛り上がっています。経済効果も期待したいですが、もっとコミュニケーションを取り、仲良くなれるというか、「私の国はここが誇れます」「あなたの国の自慢はどんなところ?」というようなことを世界中で語り合える力がインバウンドにはあると信じています。
インバウンド需要はこれからもまだ色々な可能性があり、成長していく産業だと思います。

JTBグループとしては、日本全国、世界に支店があり、旅行商品の企画だけでなく、調査やプランニングなどもできるといった、旅行会社ならではのノウハウや利点を生かし、また外客誘致を目的として創立したルーツを受け継ぎ、インバウンドといえば「JTBグループ」と一人でも多くの方に思っていただけるようにしたいですね。

(取材日:2016年7月28日/撮影:首藤 達広)

滝川 貴志氏

企業名
株式会社 JTBコミュニケーションデザイン
部署・役職
インバウンドプロモーション推進室 リーダー
設立
1988-04-08
所在地
東京都港区芝三丁目23番1号
URL
http://www.jtbcom.co.jp/
プロフィール
2006年入社。官庁、企業のインバウンドプロモーションを主たる領域として、国内外でプロジェクトを多数手掛ける。

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