新しい働き方を、「世間の一般常識」へ
「時間と場所にとらわれない、新しい働きかたをつくる。」インターネットを活用し、企業やフリーランスの個人が簡単に仕事を依頼したり、受けたりすることができるサービス「Lancers」を運営するランサーズ株式会社。50名の従業員のうち5名が広報担当者という同社の、マーケティングや企画力を生かした柔軟な広報戦略に迫った。
50人規模の会社に広報が5人
Q山口さんが入社された2012年は社員3名だったそうですが、現在は50名ほどの方が携わっているそうですね。広報チームは何人体勢ですか?
(山口さん)インターン・アルバイトを含めて5~6人で動いています。全体で50人規模の会社にこれだけの広報担当がいるのは珍しいのかもしれません。ですが私たちのサービスモデルには広報の人員が多く必要なのです。案件を発注されるクライアントと、それを受注するクリエイター登録者。両者がバランス良く増えていくように、両方に対してアプローチする必要があるので、広報の役割も多岐に渡るからです。
また、弊社のサービスがどう社会の役に立っているかアピールするのも広報の仕事です。会社のミッションである「時間と場所にとらわれない働き方」の事業モデルにどうやって共感していただくか広報チームでも常に考え実施しています。
Q広報の具体的な業務内容はどのようなものでしょうか?
(石島さん)業務内容は大きく分けて4つあります。1つ目はメディアリレーション。新聞・雑誌・テレビ・ラジオへの取材対応・情報発信や、プレスリリースの配信をしています。
2つ目は自社メディアの運営です。メールマガジンや「ランサーズマガジン」というニュースメディアの取材や記事の制作を含めた運営をしています。
3つ目はイベントですね。現在「47都道府県おじゃまします!フリーランス交流会」という全国を回るイベントをやっていたり、そのほかにも都内で「ワークシフトカンファレンス」という企業のみなさんにいろいろな働き方を知っていただくためのイベントも実施しています。こういった主催イベントだけでも月に4~6件ほど開催するため、特にヒューマンリソースが必要になっています。
4つ目がSNS運営ということで、Facebook・Twitter・Google+をマーケティングチームと一緒に運用しています。
これらに加えて、大手企業とコラボレーションさせていただき、その企画・運営もおこなっています。「Lancers」では20万人のフリーランスの方にご登録いただいていますが、特に多いのがクリエイターの方たちです。クリエイターの皆様のスキルを生かすコラボレーション企画ということで、たとえば「LUMIX」のブランド名でカメラを製造しているパナソニック様とコラボレーションして、カメラのデザインを募集。1300点の応募作品の中から50アイテムを商品化するといった企画を実施しました。
攻めの広報を積み重ね、
主要媒体には一様に取り上げられる成果を得た
Q広報として飛躍や変化を感じた出来事はありますか?
(山口さん)明確に3回ありました。1つ目は2012年2月に『TechCrunch Japan』に取り上げていただいたことです。このころは鎌倉にいたので、なかなかメディアの方と繋がる機会というのはなかったのですが、『TechCrunch Japan』はIT関連のベンチャーを扱うメディアとしては神様のような存在だったので、ぜひ出たいと。
新しいサービスをローンチするにあたって、当時の編集長にFacebookでメッセージを送らせていただき、クラウドソーシングの実態を含めて直接お話したのです。掲載された後は、周囲での弊社の認知度が大きく変わりました。
それでも爆発的にユーザーを増やすようなブレイクスルーは起きなかった中、2つ目の出来事が起きました。2012年9月のテレビ東京『ワールドビジネスサテライト』で6分半ほどの特集を組んでいただいたのです。実は7年半ほど自宅にテレビがなかったのですが、放送前にテレビを買いに走りました(笑)。番組のターゲット層と私たちのユーザー層がマッチしたこともあり、驚くほど反響があり、ユーザー数も劇的に伸びました。入社以来、広報として地道に積み上げてきたものが目に見える形で還ってきたと思うと嬉しかったですね。
3つ目は2013年の5月・6月の資金調達と都内への移転をセットでリリースした際のことです。非常に多くの媒体にご紹介いただけました。それだけ弊社について興味を持っていただける関係が築き上げてこられたからだと思います。この段階で「いつか出たい」と思っていた媒体にはほとんど出ることができました。
広報は知ってもらうことがすべての始まりなので、皆さまに「Lancers」を知っていただけたというのは大きな喜びでした。
Q「攻めの広報」という印象が強いのですが、やはりアグレッシブに行動を起こされていたのでしょうか?
(山口さん)自慢じゃないですが、めちゃくちゃ攻めの広報でしたよ(笑)。各メディアにFAXやメールを送りまくって、当時会社は鎌倉だったのですが、往復3時間かけて何度も足を運んでお話していました。弊社に入社して1年ぐらい平均睡眠時間は2,3時間ほどだったと思います。でもおかげで記者の方たちとの良い関係が築けたのではないかと思っています。
もともと広報の畑ではなかったこともあって、広報を本格的に担当することになって本を10冊ぐらい読んだのですが、それでも足りなくて記者の方にリリースの添削をいただいたりもしましたね(笑)。
攻めの広報として、いろいろな手段を試しましたが、一番効果があったのは弊社の業種に関連する分野の記事を探し、それを書いた記者の方にコンタクトを取ることでした。たとえば「クラウドソーシング」というキーワードで書いている記者はだれかリストにして直接連絡したり、その記者を知っている人を探したりしたんです。逆に、ほとんど効果がなかったのは無差別に送るメールやFAXですかね。なしのつぶてになってしまうことが多かったように思います。
会社に合わせて広報も変われ!
ステージ別の戦略シフト
Q広報に必要なスキルはなんだと思いますか?
(山口さん)企業は生き物なので、そのフェーズに応じて求められるものは変化していくと思います。前職のクックパッドで、会社の各フェーズに立ち会っていましたが、フェーズやタイミングによって広報に求められる素養が変わっていくのを実感していました。
Qなるほど。それぞれのフェーズで、どんなスキルや能力が必要だとお考えですか?
(山口さん)フェーズは大きく分けると3段階あると思います。企業規模で言うと社員10人程度、ベンチャーやスタートアップ企業ではじめて広報チームを作るような[0~1]の段階においては、「突破力」がマストですよね。突破力がなければ広報じゃないというぐらい、強引さや気概が必要不可欠です。さらに社会の問題への関心や事業への共感性の高さと、それを伝えるコミュニケーション能力や情報発信力も必ず必要だと思います。
上場前の会社や社歴10年目を迎えるぐらいの[1~100]の段階では、会社を一気に飛躍させる広報です。攻めだけでなくて「守り力」も必要になってきますね。がむしゃらに攻めるのではなくて、企画力やアイディアが必要になってきます。たとえば狙ったメディアで、思ったような露出を得るために段取りを組んで進めていく必要がありますよね。
全体を引いてみられるバードビューも必要です。さらに知識が豊富であったほうがいいですね。企業と組んでニュースを作っていくこともあるのでそのやりとりの作法だったり、経営の基本的な知識みたいなものが役に立ってくると思います。
上場企業でもIRが必要なぐらいの規模になった[100~150以降]の段階では、「安定力」を持った広報です。これは専門職・プロフェッショナルですね。ある意味学術的に広報を学んで、こういう表現はいいけど、こういう表現は良くないという判断か必要です。
たとえば元・米大統領のジョン・F・ケネディが選挙戦のテレビ討論の場面で、画面作りを意識してメーキャップをしていたのに対して、相手のニクソンは話す内容にしか気が向かず、討論の内容では勝ったにもかかわらず、選挙で敗北したという話があります。会社やキーパーソンがどう見られているのか、見られるべきなのかという事に対して気遣いの出来る人が求められていると思います。広報の有資格者も必要になってくるでしょうね。
Qランサーズは今[1~100]のフェーズというわけですね。
(山口さん)そうですね。新しいフェーズを迎えるということもあり、今まで一人でやっていた広報をチームにしました。メンバ―の選定は中長期的なビジョンも持った中で、慎重に選んでいます。石島も私とは違った能力を持ち、[1~100]のフェーズには最適だと思います。
(石島さん)山口の持っている突破力に対して、私は微調整を加えるような立ち位置なのかと思います。「思いやり力」というと大げさかもしれませんが、メールやプレスリリース一つ書く時でも、常に受け取る側のことを考え、単語や文章一つ一つに気を配っています。
Q最後に今後挑戦したいことを教えてください。
(山口さん)今後やりたいのはムーブメントを起こすことですね。インターネット上での仕事のマッチングは1990年代から誕生しているサービスですし、2006年には「クラウドソーシング」というキーワードは誕生していました。そこをイノベーションしたいと思っています。本当の意味で、働き方を変えたいのです。
日本での今の主な働きかたは、正社員・派遣/契約・パート/アルバイトしかありませんが、そこに加えて、「ランサーズを使ったフリーランス」という働き方が、世間一般の常識になるようにしていきたいですね。
(石島さん)私はランサーズに転職したときに家族や知り合いに、「ランサーズって?」「クラウドソーシングって?」とよく聞かれました。世間からそんな質問が出ないくらい、「ランサーズ」や「クラウドソーシング」を世の中に広めていきたいです。少しずつ知っていただいていますが、まだ、アンテナの高い人に限られています。ごく普通の一般の方からの認知度を上げることが、働き方を変えることに繋がっていくと思っています。
(取材日:2013年10月10日/取材と文:桂 唯祐)
山口 豪志/石島 麗子氏
- 企業名
- ランサーズ株式会社
- 設立
- 2008-04-01
- 所在地
- 東京都渋谷区渋谷3丁目10-13 渋谷Rサンケイビル7F
- プロフィール
- 山口 豪志さん
2007年、料理レシピサイトを運営するクックパッドに14番目の社員として入社。広告事業部、マーケティング支援、キャンペーン企画などを担当。2012年3月、株式会社リート(現・ランサーズ株式会社)の3番目の社員として参画。マーケティング力を生かし同社の広報戦略の鍵を握る。大の旅好きで日本全国一周、世界六大陸を制覇する一面も。
石島 麗子さん
2007年より株式会社リクルートHRマーケティング・株式会社リクルートメディアコミュニケーションズで人材採用ビジネスに携わる。2011年、株式会社オリエンタルランドに入社。パーク内でのショー運営・ゲスト対応を行う。2013年8月、ランサーズ株式会社に広報として入社し、メディアリレーションや、クライアントとのタイアップ企画の運用を担当している。