クリエイティブ・スピーカー
ロフトワークの広報・中田一会さんは、「書いて、撮って、作って」ワクワクを伝えるコミュニケーションディレクター。自ら率先して、オープンな情報発信の姿を示す。
全社員がオープンに情報発信
Qこれまでの経歴について教えてください
武蔵野美術大学でアートマネジメントを学んだのち、出版社やWebメディアが集まっているホールディングカンパニーに新卒で入社しました。最初の配属先は、グループをとりまとめる経営企画室 IR担当。その後、グループ内ベンチャーに出向し、モバイルサイト運営や、書籍の編集を手がけました。ロフトワークに転職したのは2010年。Web的スピード感のある現場で働きたいと思ったのがきっかけでした。
現在は、「パブリックリレーションズ / コミュニケーションディレクター」の肩書の通り、プレスリリースや取材対応といった広報業務をしながら、自社メディアの企画編集や、ロフトワーク全体のコミュニケーションディレクションを担当しています。
Qコミュニケーションディレクションとは、具体的に何をされているのですか?
弊社のロフトワークドットコムというサイトには、16,000名を超えるクリエイターが登録していて、お客さまから発注のあったプロジェクトごとに、クリエイティブチームを組んでいきます。そのため、社内にはデザイナーやエンジニアが在籍せず、全社員80名のうち50名がディレクターです。自社の「商品」に形がないので、「私たちがどんな人で、何を考えているのか」を見える形で伝えていく必要があります。
ナレッジや実績といった無形の価値に、メッセージを織り込み、コンテンツの形で情報発信していくのが仕事です。具体的には、「自社メディア/サービス運営」「イベント/セミナー開催」「社員の外部セミナー登壇/メディア執筆」「SNSでの情報発信」などがコンテンツです。私だけでなく、全社員がコンテンツ化に関わっているのが特徴で、その全体のコミュニケーションをサポートするのが、コミュニケーションディレクターの役割です。
社内報が必要ない
Q全社員が広報パーソンですね
そうあってほしいと思います。社員が実名で発表するコラムや、プレゼンテーションがそのまま企業メッセージにもなるわけです。社員からすれば重い重いプレッシャーですが(笑)、外部の方にとっては、広報窓口から公式発表されるメッセージよりも、ずっと信頼感や親近感を抱けると思います。その二者をつないだり、サポートするのが私の仕事なんです。
また、弊社広報の特徴として、いわゆる「社内報」がありません。「社内に出せる情報であれば、社外にも出せるはず!」と、出せる情報は全て公式サイトやオンラインサービスに掲載しています。
Qとことんオープンですね
はい、オープン性や透明性を追求していくことが、結果的にリスク回避にもつながると考えているんです。顔や実名を出して日頃から発言していれば、オフラインでの行動も意識的になるし、お互いのことがよく見えますよね。
とはいえ、私だって、入社前は顔や名前をネットに出していくのには、抵抗がありました。入社試験の社長面接で、「君、名前と顔を出せる?」と聞かれて、おびえながらOKしたのを覚えています(笑)。今思うと、「これからオープン型の企業コミュニケーションを展開していくにあたって、広報担当者が先陣を切らなければ、他の社員はついてこない。その覚悟はある?」という意図の質問だったのだと思います。今は、「顔のないコミュニケーションには誰も信頼を寄せない」というマネジメントの考えに共感しています。
Q中田さんが率先して「オープンな発信」を推し進めてきたのですか?
そんな大層なものではないんです。「ほら、こうやってみると良いことあるよ!」と言い続けている感じでしょうか。楽しそうに情報共有している姿を見せ、さらにそれが外部の人から「いいね!」されたり、評判になっていく様子を目の当たりにすると、自然と周囲も協力的になってくれます。最初は、コンテンツにしやすいネタがあると私に教えてくれました。最近では、コラムだったり、写真だったり、イベントだったり、はたまたエイプリルフールの企画だったり、気づけば自動的にコンテンツ化されるようになっています。
信頼を作り、仲間を鼓舞する
Q御社における広報の役割は何でしょうか?
私の使命は2つあって、ひとつは「コミュニケーションの中で会社の信頼を作る」こと。今、企業の「信頼」は、企業規模や派手なプロモーションだけでは築けない時代だと思います。「Webで見て、イベントで会って、知人からも噂をきいた・・・なんかこの会社、気になる!」という感じで、タッチポイントをたくさんつくることが信頼につながるひとつの方法。弊社の場合は、PRの私とマーケティング部門がゆるやかに連携し、メディアも顧客もファンも同じステークホルダーとして関係づくりを考えています。
もうひとつの使命は、「社員のモチベーションを高める」こと。どんな人でも「君が作ったこれは良かった、あなたの会社のここが素敵」と褒めてもらったり、共感してもらえたら嬉しいもの。その声を外から集めて来られるのは広報だけなので、反響をシェアして社員のやる気に繋がるよう努めています。
Q広報にとって必要なスキルは何だと思いますか?
私のようなタイプの広報だと、「書く・撮る・作る」といった、伝えるために必要な基本的なスキルと、それらを入れ替えたり組み合わせたりする「編集」感覚が大事だと思います。でも、それ以上に自社やメンバー、サービスを愛する心が必要なんじゃないでしょうか。Webコミュニケーションは、喜怒哀楽が滲み出てしまうものです。だから、とことん愛したほうが共感を得られると信じてます!
Q中田さんが編集したユニークな会社案内は、その最たるものですね
毎年作っている、雑誌のような会社案内はまさにそうですね。載せる写真を撮って、文章を書いて、編集して、デザイナーと相談して・・・2012年版は、社内担当はひとりだったので辛かったですね。しかも120ページで制作期間が1ヶ月(笑)。2013年版は、社内のディレクターチームと、日本でも指折りのクリエイティブ集団「日本デザインセンター」さんの力を借りました。会社案内って、つまらなくするのはとても簡単なんですけど、毎年全く違う面白いものを作ろうとすると、全てが挑戦。一年のうち、一番大変で、一番楽しい仕事かもしれません。
全社員が真の広報パーソンになる日
Q書くスキルはどのように磨いていくのが良いでしょうか?
まだまだ自分も修行中の身ですが、シンパシーの合う、読んでいてワクワクするようなお手本の文章を見つけるのがオススメです。小説でもWebの記事でもいいですが、そのワクワクはどこから来るのかよく研究してみるんです。書き出しなのか、言葉選びなのか、著者の人間性なのか。
そして、とにかく質より量で書きまくること。練習用に個人ブログを開設するのもオススメです。下手で恥ずかしかったら、どんどん上書きしていけばいい。どんどん量を書いていけば、古いコンテンツはネットの海に沈んでいきますから。もちろん、検索されてまずいような内容はだめですけれど(笑)。
テクニック的な部分では、骨子(プロット)から作ることが大切だと思います。伝えたいことを一つに絞り、そこをゴールに設定すると書きやすい。そして、身近な読者を設定して、その人に読んで欲しいと思って書いてみると、説得力のある文章に自然と向かっていくと思います。
Q実践あるのみですね
はい。前職の時も、今も、大先輩達からのアドバイスは一貫していて、「とにかく書くこと」と「読む人のことを想像すること」。ライティングに詳しい人が周囲にいれば、教えてもらうのもいいかもしれません。仲良くしてもらっている記者さんでもいいでしょうし。私たちも、お仕事をご一緒しているコピーライターさんや、メディア編集長からWebライティングメソッドを学んでいます。広報に限らず、文章は論理思考を鍛え、コミュニケーションを円滑にする大切なツールですよね。
Q写真もたくさん撮影されていますよね?
毎日、カメラを背負っていますよ(笑)。なぜなら、「このイベントが楽しかったです」と100回口頭で説明するよりも、みんなが楽しそうにしている一枚の写真の方が、鮮やかに伝わるから。最近はミラーレス一眼レフにちょっといいレンズをつければ綺麗な写真が手軽に撮れますので、撮影してはどんどんアップロードしています。私の仕事は伝えること。だから、そのために最適なアプローチがあればどんどん取り入れていきたいんです。
Q最後に、これからの目標についてお聞かせください
ロフトワークは、これからもクリエイティブの流通を加速させていきます。ハイテク工作機器が使えるデジタルものづくりカフェ「FabCafe」を、海外にも展開していく予定ですし、世界中のクリエイター作品を編集してデジタルブックを作れる「ReClip」というサービスも始まっています。日々新しいことに挑む企業なので、コミュニケーション担当者も日々新しい「伝え方」を模索し、クリエイティブの編み目をどんどん広げて行くエンジンでありたいです。
ちなみに、個人的には、私のような広報担当者が社内からいなくなるのが夢です!ロフトワークを辞めたいというわけではなくて(笑)、今は広報担当者である私が情報発信の旗振り役になっていますが、いずれはそんな船頭も不要になり、メンバーひとりひとりが広報パーソンを兼ねる日が来ると思います。「気がついたら広報担当がいなかったね」というふうにフェードアウトできたら、コミュニケーションディレクターとしては最高に幸せです。
中田 一会氏
- 企業名
- 株式会社ロフトワーク
- 部署・役職
- パブリックリレーションズ コミュニケーションディレクター
- 設立
- 2000-02-17
- 所在地
- 東京都渋谷区道玄坂1-22-7 道玄坂ピア
- プロフィール
- 武蔵野美術大学卒業後、IT関連の出版社に入社し、IRと編集を経験。2010年、ロフトワークに広報PRとして入社。会社全体のメディア化とコミュニケーションを担当。