「冷静と情熱のあいだ」に込めるプロジェクト“愛”
日本を代表するデベロッパー「三井不動産」。「東京ミッドタウン」や「日本橋再生計画」の広報に携わった小林直仁さんは、先輩からの教え「プロジェクトへの“愛”」を今も胸に刻んでいる。
先進性や社会性をアピールし、同業他社に対する優位性を示す
Q広報部の組織体制についてお教えください
広報部は、「広報グループ」と「ブランドマネジメントグループ」の2つに分かれています。「広報グループ」は、8人がオフィス、商業施設、住宅の各事業別チームに分かれ、それぞれ主にマスメディア対応を担い、「ブランドマネジメントグループ」は、11人で企業広告など、コーポレートとしてのブランディングや社内広報を担当しています。
私は、広報グループ内で、当社が手がける「日本橋再生計画」や「柏の葉キャンパスシティプロジェクト」、さらに海外事業に関するマスメディア対応と、ニュースリリース配信を主に担当しています。
Q広報部のミッションは何でしょうか?
当社は2012年4月に、新たな中長期経営計画「イノベーション2017」を発表しました。その戦略的視点には、社会・経済が直面している「“成熟化”と“グローバル化”」についての見解があります。広報部としては、そういった状況に即した新しいプロジェクトに加えて、街づくりによる都市再生への貢献などをアピールし、同業他社に対する比較優位性を示していくことがミッションであると考えています。
たとえば、現在手がけている「柏の葉キャンパスシティプロジェクト」は、いわゆる「スマートシティ」の我が国における先進事例となるものです。2014年に、商業施設やオフィスをはじめとした都市機能が揃う予定となっています。広報としては、竣工前はもちろん、社会的にスマートシティの定義や認識がまだ確たるものとなっていないうちから、本プロジェクトのファクトを発信。当社の先進性を積極的にアピールしています。
Q現在の広報部の課題は何だと感じていますか?
「ららぽーと」や「ラゾーナ川崎」は知っていても、それらを手がけているのが三井不動産であることを知っている方は少ないと思います。認知率を高めることにより、シナジーを発揮できれば、たとえば当社の住宅事業に対する信頼性や親しみが増すかもしれません。当社の各プロジェクトを横断するイメージ形成といったことが広報の課題であると考えています。
「自分で記事を書いてみる」エクササイズを実践
Q小林さんが広報担当になった経緯を教えてください
2001年に大学を卒業して当社に入社し、関西支社開発事業部に配属されました。そこで分譲住宅「ファインコート」の事業企画業務に関わっていました。6年目に広報部ブランドマネジメントグループに異動したのですが、最初はそこで何をするのかさっぱりわかりませんでしたね。
住宅事業しか知らなかったので、社内報の作成を通して、いろいろなプロジェクトの取材を行い、会社全体の動きをインプットすることができたのは大きな収穫でした。また、企業広告の作成業務に関しては、前職で販売促進に関わり、広告代理店と仕事をしていた経験を生かすことができたと思います。そして、2008年に広報グループに移り、以来4年半ほど現在の仕事を手がけているところです。
Q小林さんが、広報業務で工夫していることは何でしょうか?
ひとつあるのは、記者の立場に立って考えるということですね。漫然とプロジェクトの概要をリリースするのではなく、そのプロジェクトをメディアとして報じる意味はどこにあるのかを考え、そこをポイントにしてストーリーを組み立てているということです。
そのため、「自分で記事を書いてみる」というエクササイズをやっています。客観的にプロジェクトを眺めることで、そのプロジェクトを魅力的に伝えるにはどんな情報や素材が必要なのかがわかってきます。
あとは、ターゲットメディアを定め、日頃からその記者の方とできるだけコミュニケーションを深めるように心がける、といったことでしょうか。
社会に受け入れられる表現を引き出す
Q広報担当者に必要なスキルとは、どういったものだとお考えですか?
まず「読み書き」は、他の職種以上には求められると思います。そして重要なのは、情熱と冷静さを併せ持つことでしょうか。私はよく“冷静と情熱のあいだ”だと思っています(笑)。
プロジェクトを記事にしてもらいたい事業部は、「このプロジェクトは凄い!」と広報に持ち込んできます。もし私が相手と同じテンションだったら、他社の同様のプロジェクトと比較劣位の部分があっても見逃してしまうかもしれません。そこで、冷静かつ客観的にそのプロジェクトを眺め、弱いと思える部分をどう扱うかを詰めるといったことを心がけています。私は、相手が一所懸命であるほど正面からぶつかる傾向にあるのですが、ケンカをしてでも結果を出す方が大事だと思っていますので気にしていません。
Q「情熱」の方はどういったケースのときに?
当社の街づくり事業の中には、地道に地域に貢献する取り組みがあり、あまり派手さがないので、担当者も積極的に広報しようとする意識が低い場合があります。しかし私としては、そういった地道な取り組みこそが、街づくりに大きく貢献していると感じますし、一連のストーリー性を広報したいと思います。相手が気づいていない良さを見つけて、「これは絶対ニュースになる!」と相手を盛り上げることもしばしばです。こちらのほうが事業部の担当者より熱くなります。
得てして当事者が最も熱く語れるものですが、広報担当は、当事者と同等、もしくはそれ以上にエネルギッシュに発信する事業家マインドを持たなければならないと思いますね。
Q自分の会社や事業が好きでなければできない仕事ですね
ある先輩がよく言っていたのが「プロジェクトへの“愛”」です。愛するがゆえに厳しい目で見ることができ、独りよがりにならず社会に受け入れてもらえる表現を引き出せるという意味ではないかと、勝手に解釈しています。
Q最後に、小林さんの今後の目標についてお教えください
街づくりのプロジェクトに関わって、どれだけ大変で、意義のあることかがよくわかりました。私としては一度、事業部の立場で関わってみたいですね。街づくりには、情報発信の要素もあると思いますので、広報部で学んだノウハウをぜひ活かしていきたいと考えています。
(取材日:2012年12月26日)
小林 直仁氏
- 企業名
- 三井不動産株式会社
- 部署・役職
- 広報部 広報グループ 主事
- 設立
- 1941-07-15
- 所在地
- 東京都中央区日本橋室町2丁目1番1号
- プロフィール
- 2001年入社。関西支社開発事業部で分譲住宅「ファインコート」の事業推進担当を5年間務める。その後、広報部ブランドマネジメントグループに異動。2008年に広報グループ着任。