CEOと挑む第二ラウンド
ネット広告代理事業を中心に、創業時から一貫した「eマーケティングサービス」を提供してきたオプト。同社広報の大野剛さんに、2012年から取り組みを開始したブランドイメージの再構築について話を伺った。
リリースの配信本数を倍に
Qファミリー経営企画本部(現・計数サービス本部)という名称がユニークですね
当社には、ネット広告を中心とする「eマーケティングサービス」の周辺で事業を手がける22ものグループ会社があります。これらグループ会社に対しては、当社が持株会社的に管理するのではなく、まさにファミリー会社としてゆるやかにつながるというスタンスで臨んでいます。広報担当はこのファミリー経営企画本部に属しており、オプトだけでなく、広報機能を持たないグループ各社の広報業務も担っています。
Q広報担当としての大野さんの業務内容をお教えください
大きく3つあります。リリースの作成や発信、および取材依頼への対応といったPR業務、自社ホームページの企画運営、そしてブランディング業務です。
最初のPR業務ですが、私が2012年7月に着任してまず与えられたミッションが、株価上昇を意識したリリース配信数の増加でした。それまでの半年間は約50本という状況でしたが、着任後は半年間に100本と倍増させました。週2本のペースで配信してきたことになります。アナリストからは「会社が活性化しているイメージがある」という言葉をもらうようになりました。「アベノミクス」で株価は全体的に上がっているので、どこまでがリリースの効用かはわかりませんが、今のところ当社の株価は私の着任時から30%ぐらい上がっています。
そして、今、最大のミッションとしてCEOの鉢嶺とともに取り組んでいるのが、当社のブランディングです。
ブランドを築く3つの施策
Qなぜブランドを意識し始めたのですか?
生活者向けの製品やサービスを手がけているわけではない当社は、世の中の人に「わかりにくい」「顔が見えない」と言われてきました。これまでも何度かブランディングを検討したのですが、なかなかうまく進まなかった体験があります。しかし、クライアントは以前のように中堅中小企業だけでなく大企業も増えてきている中、今後さらに会社を発展させていくためにはそろそろ明確なイメージを構築する必要があると、2012年後半から、CEOの鉢嶺が先頭に立ってブランディングに着手することになりました。
Q具体的にはどういった活動を?
さまざまな検討を重ねた結果、3つの具体策を決めています。1つ目は、鉢嶺がeマーケティングの世界で起きていることをわかりやすく語りかける「PR動画」の配信です。ベンチャー企業では何事も創業者が前面に出るケースが多いのですが、鉢嶺はこれまであまり前面には出てきませんでした。しかし、やはり創業者やCEOは企業の“顔”。イメージ構築のコアとして登場することにしたのです。
内容としては、4編に分けて今を取り巻くeマーケティングの4つの“波”について説明し、「皆さんもその波に乗ってビジネスを加速させましょう」というメッセージを発信。YouTubeで配信する予定です。大手企業の経営幹部や管理職に面白いと感じてもらえるような内容を意識し、この動画が話題となるよう努めていきたいです。
鉢嶺CEOの動画「インターネットビジネス革命 ~4つの革命から見えてくるもの~」
2つ目は、次の参院選で初めて取り入れられることになるであろう「ネット選挙」への貢献を打ち出すこと。グループ会社に、SNS上のつぶやきデータの分析などを手がけるホットリンクという会社があります。同社とともにネット選挙支援サービスへの参入準備を進めており、これを機に、よりよい社会づくりに貢献する会社というイメージの構築につなげていきたいと考えています。
そして3つ目は、鉢嶺の著書の出版です。当社創業を中心に、これまでの鉢嶺の人生や経営哲学を語る内容になる予定です。
大企業からベンチャーにギアチェンジ
Q広報業務で工夫していること、心がけていることを教えてください
PR業務では、自ら社内に情報を取りに行くということですね。メールや会議の場で情報提供を呼びかけても、なかなか上がってはきません。社内のキーマンを見つけ、話を聞いてそこからネタを見つけるようにしています。
また、メディアの方ともなるべく直接会って何に興味を持っているのかを把握するようにしています。相手の興味関心に応じた情報をリリースするためです。たとえば、ITのメディアが専門的な話を求めている場合は、社内のスペシャリストをアレンジしますし、一般紙の場合には専門的なことを咀嚼して解説できる、事業戦略を司る人をアテンドするなど、相手のニーズに応じた対応を心がけています。
Q現在の課題は何でしょうか?
今進めているブランディングは、正解が見出しにくくゴール設定が難しいところが悩ましいですね。試行錯誤している真っ最中ですが、鉢嶺の動画で話題を広めること、ネット選挙支援では政治家から相談されることをまずは目標に置いています。
ブランディングの戦略については、鉢嶺が短期的、中長期的な時間軸で私にアイデアをぶつけてくるので、それをいかに推進するかを考えロードマップに落とし込む作業を担っています。
Qでは、大野さんのご経歴について教えてください
私は、2004年8月に大手信販会社から当社に転職しました。前の会社でも広報を7年間担当していましたが、上場したばかりの当社が、広報機能をゼロから立ち上げるという点に魅力を感じて入社を決意しました。
Q入社後は順調な滑り出しでしたか?
最初は自分一人だったこともあり、PR会社を利用してプレスリリースを出すことから始めました。しかし、しばらく経ったとき、ある幹部社員からこう聞かれたのです。「あなたのミッションは何?」。それまで7年間経験してきた広報業務の延長で仕事をしていた私にとって、その一言は、大企業との風土の違いを認識させられた強烈な体験でした。「ベンチャーでは自分のミッションを体系立てて説明できなければ存在意義を認めてもらえない」とギアチェンジしましたね。
それからは、各部署を回って記事露出などのPRの効用を語り、広報業務への協力を要請。PR会社の利用をやめ、自分で情報収集しリリースする方法に変えました。eマーケティングという未経験の業種でよくわからない面はありましたが、その分全力疾走できましたね。ベンチャーとして注目される追い風が吹いていたこともありますが、いろいろな記事に取り上げてもらい、社内には喜ばれたと思います。
「聞く力」「スピード」「イレギュラー対応力」が鍵
Q広報歴15年を振り返って、どのようなスキルが重要だと感じていますか?
3つあると思います。まずは「聞く力」。社内の新サービスについて聞く、メディアのニーズを聞く。言葉尻からでも本質を理解しようと努め、その本質を踏まえた対応をすることが重要です。次に、「スピード対応」です。特に当社が属するITやマーケティングの業界は動きが速い。どんなことにもスピードは重要です。
そして最後は「イレギュラー対応力」ですね。思いもよらないことがよく起こりますから、それに適切に対応できる力が求められます。トラブルが起こると動揺してしまいがちですが、そこには胆力も必要でしょうし、対処する上で知見を集めるためのネットワークも求められると思います。
Qネットワークはどのように構築されたのですか?
前職時代、勤務先が(財)経済広報センターの会員になっていたので、そこで各企業の広報担当者とかかわりがありました。今でもそのネットワークは生きていて、定期的な会合などで顔を合わせています。何かあった時は腹を割って話せる関係ができているので、心強いですね。
Q最後に、今後の課題や目標についてお聞かせください
現在、PR、IR、ER(社内広報)の各担当者が、それぞれの持ち場で業務を行う形になっています。各担当者間のコミュニケーションはあるのですが、もっと緊密化させ、一つの情報を社内、一般社会、投資家に統合的にアピールできるようにしたいと考えています。PR、IR、ERを一体化したチームをつくるのが当面の目標ですね。
また、「O2O」(Online to Offline, Offline to Online)というマーケティング手法が盛んにいわれている今、当社でもこの手法を取り入れたサービスの提供を始めています。ネット広告だけではない、トータルな「eマーケティング企業」というイメージを構築するチャンスだと思っていますので、積極的にアプローチしていきたいと思います。
(取材日:2013年3月26日)
大野 剛氏
- 企業名
- 株式会社オプト
- 部署・役職
- 計数サービス本部 広報担当
- 設立
- 1994-03-04
- 所在地
- 東京都千代田区四番町6 東急番町ビル
- プロフィール
- 2004年入社。4年間の広報業務を経て、2008年からIR、総務の各業務を経験。総務時代には本社移転プロジェクトを推進。2012年7月に広報に戻り、現職。