“守り”のときほど問われる会社の姿勢
らでぃっしゅぼーやは、全国10万8000世帯の会員へ、環境にやさしい有機・低農薬野菜などを届ける食材宅配サービスの老舗。携帯電話業界のガリバー、NTTドコモのグループ会社となり注目を浴びる、同社広報の盛定桂子さんにその活動を聞いた。
“守り”のときほど問われる姿勢。その場しのぎでない言葉選びが重要
Q来年で創業25周年なんですね
弊社は四半世紀前から、環境にやさしい、安心・安全な食の提供を追求している企業です。独自に制定した「RADIX(ラディックス)」という環境保全型の生産基準は、厚生労働省の基準よりも高いハードルを課しています。食品中の放射性物質についても、国より厳しい基準を設けて第三者機関に検査を委託。ホームページで結果を随時公開しています。
Q食をめぐる問題は老若男女を問いませんので、メディアからもコメントを求められる機会が多いのではないでしょうか?
2011年9月に、食品中の放射性物質の基準値を大幅に厳しく設定したときは、リリースを流した後、記者さんから問い合わせが殺到しました。もともと安心・安全を売りにしている会社なので、どうやって放射能に取り組むのか注目されたのでしょう。同年5月に静岡産の新茶からセシウムが検出されましたが、実は最初にそのことを発見したのは弊社でした。この時も、メディアからの問い合わせは多かったです。
Q“守り”のときほど会社の姿勢が問われますね。発信するメッセージはどのように作られているのですか?
弊社には、全国10万8000世帯の会員様の声が集まる会員サービスセンターという部署があります。広報がメディアとの窓口であるのに対し、お客様向けのメッセージは会員サービスセンターが確認をしています。放射性物質の問題が浮上した際は、社内に対策委員会が設置され、一緒にリリースを用意しました。放射性物質に関する単位や専門用語が多すぎると難解な印象を与えてしまうので、そうならないようにディスカッションをし、言葉を吟味して、練り上げていきました。
Qその際に工夫したことはありますか?
私もかつて会員サービスセンターに配属されていた経験からいうと、お客様向けのメッセージは「問題を一刻も早く終息させたい」という文体に陥りがちです。それは決して間違いではないけれど、広報の立場からすると、発言の一貫性であったり、背景にある会社の姿勢であったりがぼやけてしまう恐れがあります。なので、できるだけ客観的に物事を見つめ、「何の予備知識のない人が弊社のリリースを読んだらどう思うだろうか」という点を意識し、リリースを作るよう心がけました。
弊社のお客様は、安心で安全なものを食べたい人が中心です。万が一リコールが起きたら、信頼を揺るがせたことについてお詫びすると共に、継続して利用いただくためにも再発防止の取り組みを徹底しなければなりません。その場を取り繕おうと思っても、しょせんは一時しのぎ。だからこそ、言葉の選び方にはかなり気を配っています。
自分の会社が好きであれば、たいていのことは耐えられる
Q広報担当者に問われる資質やスキルは何でしょうか?
私が現在の部署に配属されて1年ちょっと経ちました。これまで広報担当者向けのさまざまな勉強会に参加したり、リリースの書き方などのテクニックを学んできましたが、結局は、「自分の会社が好きだ」という精神に帰結するのではないでしょうか。会社が好きだからこそ、1人でも多くの人に知ってもらいたいと一所懸命頑張れるし、記者さんと話をする時も熱が入ります。
業種・業態が何であれ、広報は自分の会社が好きじゃないとなかなか務まらない職種だと思います。好きだと、たいていのことには耐えられるんです。たとえば、半日がかりの撮影だったのに、テレビで2分ちょっとしか紹介されなかった時はがっかりする半面、テレビで紹介されたこと自体は紛れもない事実なので、気持ちは満たされます(笑)。
Q広報として大事にしている視点はありますか?
先ほども申し上げましたが、客観的な視点を持つように意識しています。読者や視聴者の共感を得るには、常に生活者目線で物事を見つめるべきです。私自身、競合他社が誌面で取り上げられているのを見て、見習う時が多々あります。
初めのうちは、弊社の社名がテレビや雑誌に出ただけで満足していましたが、広報業務とは何たるかを分かってくるうちに、「うまい露出の仕方だな」と競合他社に感心させられたり、商品写真の使い方や選び方も見習わなければ、と思わされたりします。
NTTドコモ効果で注目増。課題は地方での認知度
Q主なリリースの送付先はどちらでしょうか?
食に関する分野を扱う、東京商工会議所や農水省、環境省などの記者クラブが中心です。もちろんインターネット上でのリリース配信も行っています。おかげさまで首都圏では弊社の認知度は高いのですが、関西以西ではまだまだだと認識しています。
地方の記者クラブに、私自身がリリースを届けるのは物理的に困難なので、中部や大阪、九州センターのスタッフに、私が作成したリリースを代わりに届けてもらっています。関西エリアではイベントを行うケースもあるので、今後は地方のテレビ局に働きかけたり、商品提供したりするなどして、認知度向上を図りたいです。
Q最近は、経済誌やビジネス誌で紹介される機会が増えましたね
NTTドコモとの協業に伴い、経済誌やビジネス誌でも取り上げられるようになりました。注目されているという意味では嬉しいですが、弊社のサービス自体を純粋に紹介していただいているわけではありませんので、テコ入れを模索している最中です。
Q最後に、これから挑戦したいことを教えてください
弊社副社長の小関は、「価値の源泉」という言葉をよく使います。弊社にとっての価値の源泉とは、全国にまたがる生産者や、商品を求めているお客様と築き上げたネットワークです。今回のNTTドコモグループ入りで、経済誌やビジネス誌からの取材依頼が増えた時は少々戸惑いましたが、いい意味で注目を集めているのだと思い直しました。その流れに乗って、今後は弊社の価値の源泉である生産者やお客様とのつながりを、自社の強みとしてもっと訴求していきたいと考えています。
盛定 桂子氏
- 企業名
- らでぃっしゅぼーや株式会社
- 部署・役職
- 管理本部 経営企画部 広報担当
- 設立
- 1988-05-17
- 所在地
- 東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティビル
- プロフィール
- 1994年、らでぃっしゅぼーやの前身に当たる環ネットワークに営業職として入社。その後、配送の運行管理、会員サービスセンター、農産部での仕入業務などを担当。2011年10月から現職。