社内一の「事情通」であれ
富士重工業の広報活動、増田茂純さんの広報にかける想いをお伝えします。
ディーラーや関連会社への出向も、コミュニケーション力を磨く上では得がたい経験でした
Qまずは、お仕事の内容を教えてください
社内報「秀峰」(しゅうほう)の編集を担当しています。「秀峰」は会社設立3年後の1956年に創刊、以来50年以上にわたって毎月1回発行し続け、現在通巻679号を数えます。その伝統を受け継ぎつつ、今、社内広報として果たすべき役割は何なのかを見据え、もうひとりの編集部員とともに専任で編集業務に当たっています。
レイアウトは外注しておりますが、仕事内容は幅広く、企画立案から取材、原稿執筆、入稿、校正……と、印刷物として仕上げるまでの流れすべてにかかわります。また、国内外に散らばる全社員の手に渡るので、さまざまな部署の状況や各現場の取り組み、課題などをすくい上げて企画に反映させていくことが欠かせません。
その意味では、常に全社的な広い視野で情報を集め、経営として伝えるべきこと、そして社員との関連性・関心事・便益を深掘りして考え、記事にまとめ上げて届けるのが私たちの仕事といえるでしょう。
Q広報担当になられるまでの経歴がユニークですね
ええ。この経歴こそが、社内広報担当としての今の私の財産になっています。
入社後配属されたのは航空宇宙事業本部(当時)。その後、ディーラーに出向し、直販セールスを5年ほど経験しました。ここで学んだ、社会人としての礼節や立ち振る舞い、気配りの仕方などが、その後、私が人とコミュニケーションする上での基礎となっています。
実は、ディーラー出向後はスバル国内営業本部を熱望していました。出向復帰後に配属された航空宇宙事業本部(当時)では事業本部内の広報的な仕事もしていたのですが、その時に仕事上、関わりのあった広報部にこれこそが「広報マン」だと憧れていた方がいました。その方から広報としての「いろは」を教えていただくうちに、自分も「広報部に行きたい」と思うようになりました。
その後は総務部で株主総会を始めとした株式担当を6年間経て、38歳の時に、以前熱望したスバル国内営業本部営業企画部に配属されたのですが、それまでの経験がまったく活かせず、かなり苦労しました。そして、2年後に、関連会社のスバルリビングサービスへ出向。450人規模の会社の予算、中期経営計画の策定から、人事・労政など、時にはパート従業員の時給交渉までにかかわり、昨年2月、広報部へ移ってまいりました。
Q財産とおっしゃられた背景は?
カンパニーから全社をとりまとめる部署まで、部門を超えた異動を繰り返してきたおかげで、さまざまな経験ができました。会社って組織の集合体ですよね。その組織に身を置くと風土がわかります。つまりいろいろな組織に属した経験値があがるほど、会社を深く知ることができるのです。社内広報を担当していく上で、さまざまな部門・部署の事情を知っていることの意味ははかりしれません。
また、ディーラーや関連会社への出向も、コミュニケーション力を磨く上では得がたい経験でした。無駄なことはひとつもなかった、というよりも、広報という仕事は、どこで何をやってきたにせよ、その経験を何らかの形で活かせる部署なのではないかと思います。
事前に質問を社員から募り、社長が答える形式にすれば双方向になる
Qそもそも、社内広報の果たすべき役割はどこにあるのでしょうか?
社員の会社に対するロイヤリティを向上させること。ひらたく言えば、会社を好きになってもらうということだと思います。
ここで重要なのは、人は理屈だけでは会社を好きにならないということ。論理的思考に情緒をプラスしているのが人間です。賃金が高いとか福利厚生が良いといった論理的思考だけでは不十分で、もっと心に訴える情緒的な何かが必要なのです。
それはいったい何か?私は「人」だと思っています。そもそも「富士重工業株式会社さん」という人はいないですよね。いるのは同僚であり、上司であり、先輩、後輩です。そこにいる人たちが好きであることが、会社を好きになることにつながります。
だから、「秀峰」では、毎号のように社員の取り組みや表情、声を掲載しています。地味で日の当たらない部署で、人知れずがんばっている人にもスポットを当て、できるだけたくさんの社員の姿をとらえるようにしています。
Q「秀峰」編集に当たって、心がけていることは?
経営者と一般社員をつなぐコミュニケーションの「架け橋」となるツールを目指しています。
たとえば社長の考えや思いを伝えるにしても、メッセージを掲載するだけでは一方通行。でも、事前に質問項目を社員から募り、社員の聞きたいことに社長が答える形式にすれば、双方向になります。経営よりでも社員よりでもない、両方の想いを伝えるコミュニケーションツールにしていきたいですね。
また、常に意識しているのは、社員一人ひとりに情報を届ける唯一のツールであるということ。当社は製造現場を抱えているため、パソコンを業務で使用している社員の割合は全体の半分くらい。ネットを使った社内広報には、大変興味がありますし、時代の流れから挑戦していく必要も感じていますが、当面、全員に届けられるのは「秀峰」しかないという状況が続くと考えています。
世の中に「自分が思っている自分」は存在しません
Q増田さんご自身を仕事に向かわせるモチベーションの源泉は何ですか?
ディーラーに出向していたころは、販売目標台数というわかりやすい数字がモチベーションの源泉でした。航空宇宙カンパニーであれスバル国内営業本部であれ、収益を生み出す部署には、数値目標が常にあります。ところが収益を生み出さない広報部にはこれがない。
私も異動当初は戸惑いを感じましたが、今は社内からの反響を励みにしています。取材を受けてくれた人からのお礼のメール、読んでくれた人からの叱咤激励のメール。あるいは、「秀峰」へのご意見、要望。クレームでさえも反響のひとつとしてうれしく受け止めています。何よりも自分の知らない仕事・部署の方々と触れ合うことができるのが一番嬉しく感じています。
Q広報にはどのようなスキルや素養が求められると思いますか?
挨拶をする、約束を守る、相手の目を見て話す、敬意を持って相手に接する…といった社会人として身につけるべき礼節は、広報にとっても欠くべからざるものです。
加えて、広い視野と深い思考力、常に「物事の本質は何か」と考える姿勢。さらに、自分の性格や実力を、ベンチマークを持って客観的に見極め、事実を素直に受け入れること。言い換えれば、世の中に「自分が思っている自分」は存在しません。他人から見た自分の評価がすべてと考え、自分を磨き続けることといえるでしょう。
Q最後に、若い広報担当者へメッセージをお願いします
広報は、全社の情報が集まってくる唯一の部署。新しい情報が行き交う刺激に満ちたすてきなところです。
それを楽しむには、集まってくる情報に好奇心と興味を持つことが大切。そうすれば仕事はより楽しくなっていい循環が生まれ、次のステップアップにもつながっていくでしょう。
社内広報について言えば、まずは会社を知ること。会社を深く知ることほど、会社にいて楽しいことはありません。とにかく仕事を楽しんでほしいし、楽しめる自分になってほしいと思います。
増田 茂純氏
- 企業名
- 富士重工業株式会社
- 部署・役職
- 広報部 主査
- 設立
- 1953-07-15
- 所在地
- 東京都新宿区西新宿一丁目7番2号
- プロフィール
- 1992年、富士重工業株式会社入社。宇都宮製作所工務部へ配属後、1993年神奈川スバル(ディーラー)へ出向。5年間で延べ4,000名以上のお客様と接する。
その後、航空宇宙事業本部企画管理部、総務部を経て、2007年に国内営業本部営業企画部へ配属。2009年スバルリビングサービスに出向し総務部担当部長に就任。2012年より広報部主査(社内広報担当)。