すべての人に、気軽に手に取ってもらえるように
2005年7月7日の発売以来、1年間で100万本売れたアダルトグッズ「TENGA」。株式会社 典雅の企業理念「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」を伝える広報とは? 同社の女性広報、伊藤しずかさんにお話を伺いました。
代々木公園で企業理念に感銘を受けた
Qまずは伊藤さんがTENGAに入社されたきっかけについて教えてください。
セクシャリティやジェンダーについて学んでいた大学時代に、代々木公園で行われたゲイパレードに参加しました。そこでブースを出していたTENGAに出会い、「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」という企業理念に感銘を受けたのです。
性は決して恥じるべきものではない。ご飯を食べたり眠ったりすることと変わらない。日常生活の一つであっていいという考えに共感しました。その時はまだ大学2年生でしたので、就職活動をする時が来たら、絶対にTENGAを受けようと思いました。
デザインやプロダクトを設計したいという具体的な希望があったわけではないのですが、モノづくりに関わる仕事をしたいという気持ちもありました。
最初は開発部に在籍していましたが、希望を出して2011年秋から広報宣伝部に配属されました。
Qなぜ広報に希望を出されたのですか?
開発部では、女性用グッズの開発にも携わっていました。その経験を生かし、女性の視点で女性向けブランドの広報をしていきたいと思ったのです。
実際、2013年3月3日に発売された女性用バイブレーターのirohaシリーズに関して取材を受けた際、女性の視点で使用感などをお伝えすることができました。言葉だけでは伝わりにくいところもあるので、実際に商品を見ていただいたり触っていただいたりしています。
Q現在広報は何名で行ってらっしゃるのですか?
現在広報宣伝部は5名体制で、うち2名が女性です。企画から、SNSの運用、プレスリリースの作成、メディア対応などを行っています。
世に出て来たタイミングが良かった
QTENGAの人気に火がついたと感じられた時はありますか?
設立2年目くらいに、お笑い芸人さんたちが、ネタとしてバラエティ番組やラジオでTENGAを紹介してくださったんです。そこから一気に認知度が高まり、メディアでの露出も増えてきました。
たとえばTENGAが世に出るのが、5年前や20年後だったら流行らなかったかもしれません。ちょうどニュースサイトなどオンラインメディアが興隆し、SNSが流行り始めるのと同じ時期に出てきたというタイミングも良かったのではと思います。
TENGAの強みは、一般プロダクトとしてのアダルトグッズという、他にないものをつくっている点。あとは代表の松本に人間ドラマがあるので、戦略的に広報を仕掛けるというよりも、そうした事実を伝えることで、口コミで自然に広まっていったのが大きい気がします。
Q代表の松本光一氏についてはどのようにお話されているのですか?
松本がアダルトグッズに興味を持ったきっかけ、自主制作時代の話、TENGAのメッセージ性、プロダクトの裏にあるエピソードをお伝えしています。
Q松本氏がアダルトグッズに興味を持ったきっかけというのは?
松本は、長く自動車の整備や販売に関わってきました。会社の経営がうまくいかずに給与がもらえないどん底の時期に、人間に残るのは食欲と性欲だということを体感しました。その後、自動車の営業マンとして給与をもらえるようになった時に、改めてモノづくりをしたいと考えたのです。
様々なプロダクトを見て回っている時に、レンタルビデオ店のアダルトコーナーに陳列されたグッズに違和感を覚えます。マスターベーションという当たり前にすることを、卑猥で特殊なものだと扱っている。なおかつ、他の一般製品のように、バーコードや販売元、問い合わせ先が書いていないものもあり…日本の高品質なプロダクトに囲まれて暮らしている人たちが、これを安心して使えるとは思えなかったそうです。
松本はその場でプロダクトとしてのアダルトグッズをつくると決めました。会社を辞め、自主制作でアダルトグッズを作り始めたのです。
Q面白いですね! ところで、これだけ知名度があったら、メディアへの広報もやりやすいのではないですか?
いえ。残念ながら未だに製品にフォーカスしたものが取り上げられるのは難しいのです。弊社の製品に対して、拒否感とまでは行きませんが、弊社製品だけを単独で取り上げたり、推したりするのは難しいとおっしゃるメディアも多数いらっしゃいます。そういう時は、どうPRしていくのが良いのか、お互いに切り口を探すようにしていますが…。以前もテレビ取材が来てくださいましたが、結局上層部に通らなくてお蔵入りになったこともありました。
TENGAの社会貢献をPRしていきたい
Q貴社の理念「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」を実現させるために、広報として具体的に取組まれていることはありますか?
TENGAを知っていただいている方も、TENGAが膣内射精障害のリハビリなど医療関係に使用されていることや、障害者の性について取組んでいることは知らない方が多いのです。マスターベーションを含め性行為を楽しんでいただきたいというのが一番ですが、そうした社会的な取組みについても広めていきたいなと思っています。
TENGAは全国のドラッグストアにも置いていただけるようになり、今年は5,000店舗を目指しています。TENGAがアダルトグッズだと知られている分、外で買うのが恥ずかしいというお客様もいます。しかし、医療面などにも役立っているという側面をPRしていくことで、そうした課題が解決されるのではないかと考えています。
Qなるほど。他にも取組んでらっしゃることはありますか?
江の島でゴミ拾いを実施している団体さんから協賛のお話が来まして、ゴミ袋を提供しています。TENGAの商品は、複数回使用できる商品もございますが、使い切りのものが多く、エコか否かでいえば、エコとは言いづらいので(笑)、そうした環境への取り組みも行っていきたいと考えています。
Q最後に、今後の目標について教えてください。
イベントのサンプリングに立ち合うと、女性たちの反響は男性よりもいいのですが、irohaの認知度はまだTENGA程ではありません。シャンプーの後にコンディショナーを使うか使わないかくらいの日常的な感覚で、irohaを使ったり使わなかったりしていただけることを目標にしています。男性も女性もLGBTの方も、すべての人に自由に性を楽しんでいただきたい。そのためにもっと商品を気軽に手に取っていただけるように広報を展開していきたいと思っています。
(取材日:2014年7月15日/撮影:首藤 達広)
伊藤 しずか氏
- 企業名
- 株式会社 典雅
- 部署・役職
- 広報宣伝部
- 設立
- 2005-03-25
- 所在地
- 東京都中野区本町1-23-9 NIDビル3F
- プロフィール
- 大学時代にジェンダー論を学ぶ。大学卒業後、2008年株式会社典雅に入社。商品開発に取組む。2011年より広報宣伝部に。