【宇宙ビジネスアイデアコンテスト S-Booster 2018】開催レポートVol. 1~最高賞金1000万円をかけた戦い~
11月19日の午後、東京の渋谷ストリームホールにて、「宇宙アセットを利用した、新たなビジネスモデルを発掘し、事業化を支援する」ことを目的としたビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2018」の最終選抜会が開催されました。 今回のレポートでは「S-Booster 2018」の開催概要と各提案の概要を紹介します。
S-Booster 2018公式ウェブサイト https://s-booster.jp/
昨年はじめて実施された「S-Booster 2017」は、政府主催で開催する初めての宇宙ビジネスアイデアコンテストであり、最終選抜会には女優の剛力彩芽さんが出演するなど話題性も高く、広く一般にも知られるようになりました。第2回目となる今年のコンテストには約200件もの提案が寄せられ、一次・二次の選抜を経て12件がファイナリストとして選ばれました。
ファイナリストは二次選抜後、4回のワークショップと個別のメンタリングを経て最終選抜会に臨みました。メンタリングを担うメンターは、宇宙、スタートアップ、法律など様々な分野の起業や経営に関わる専門家ら30名と実行委員会の機関・企業で事業計画立案に長けたメンバーで構成されており、提案ごとに主担当メンター(リードメンター)が任命され、ファイナリストと一心同体となり提案をブラッシュアップさせ、具体的な事業計画に仕上げました。
S-Booster 2018 メンターリスト https://s-booster.jp/mentor.html
この日の最終選抜会では、これら12組のブラッシュアップされたビジネスアイデアのプレゼンテーションと審査、昨年の各賞受賞者によるトークショー形式の進捗報告、そして各賞の発表と授賞式が行われました。
まず開会にあたり、内閣府の髙田修三宇宙開発戦略推進事務局長より開催の趣旨をまじえ、「ファイナリストたちは200を超える応募者の中から選ばれ、5か月にわたるメンタリングを通じて、ビジネスモデルとプレゼンテーションスキルを磨いてきた方々。会場にはアイデアと投資家の出会いの場を提供する『S-Matching』(*1) に登録いただいた投資家の皆様もお越しいただいている。今日の出会いがリアルなビジネスにつながっていくことを期待したい。」と挨拶しました。
続いてファイナリストが順々に登壇、3年以内の事業化を目指す「ビジネスプラン部門」8組と、10年以内の実現を目指す「未来コンセプト部門」4組に分かれ、プレゼンテーションが始まりました。
ビジネスプラン部門はプレゼンテーション4分・質疑応答3分、未来コンセプト部門はプレゼンテーション3分・質疑応答2分と限られた時間の中で緊迫した雰囲気の進行となりました。
◆◆「ビジネスプラン部門」8組
ビジネスプラン部門【1】
AO-Links「ヒコーキをアンテナ化!海の上でも衛星データ受信サービス」
航空会社職員を中心としたチーム「AO-Links」の津上哲也氏は、地球観測衛星の画像観測データを地上アンテナ通信設備ではなく航空機で受信するというビジネスアイデアを紹介。従来の地上通信設備は北極圏という限られた場所に集中し、数が限られているため、衛星からデータを地上に送りたくても好きなタイミングで送れない、その結果衛星から画像を撮りたくても多くは撮れないという課題を、定期航空路線の航空機に設置したアンテナで洋上など幅広いエリアで受信することで解決するとし、現状と将来の受信サービスの市場規模や、実現までのロードマップを示しました。
続く質疑応答では審査員から、飛行機側や衛星側の設備やシステムの技術的な見通しや実現性について質問が寄せられました。
ビジネスプラン部門【2】
YOT (by POLA)「美肌衛星予報」
肌と美容の専門家らによるチーム「YOT (by POLA)」の大久保禎氏は「美肌の敵は宇宙からの近赤外光」として太陽光に含まれる近赤外光による肌老化の課題を提示。衛星から観測される地上面の近赤外光強度データと、ウエアラブルデバイスのセンサにより取得された人間が浴びる近赤外光量のデータ、さらにポーラが持つ肌に関する個人基礎データと組み合わせ、ビッグデータ解析を行うことで、予防とケアに役立つ情報を「美肌衛星予報」としてBtoC、BtoBへ展開、美肌を求める女性の願いを叶える、と説明しました。
質疑応答では、人工衛星とウエアラブルセンサを組み合わせる意義や、情報提供される「予報」の具体的な活用法について質問がありました。
ビジネスプラン部門【3】
天地人「宇宙から見つけるポテンシャル名産地」
農業IoTやリモートセンシング、作物栽培の専門家らからなるチーム「天地人」の繁田亮氏は、キウイフルーツやベビーリーフを一例として上げながら、新しい作物の栽培適地探しに衛星データを活用、栽培最適化ノウハウも含めて生産者に提供し、売上げに応じてロイヤリティを得るというビジネスモデルを提示しました。
質疑応答では、物流や販売の分担についての質問などが寄せられ、衛星データを用いれば世界中が適地探しの対象となるとの答えもありました。
ビジネスプラン部門【4】
長尾年恭「静止測位衛星による津波早期警戒サービス」
東海大学海洋研究所の長尾年恭氏は、東日本大震災では津波高予測するための初期条件である海面盛り上がりを測る手法がなかったとして、この地震発生時に新たに観測された「津波電離圏ホール」という自然現象を活用するソリューションを紹介。その現象規模の観測結果が初期条件となり津波高予測に役立つとしました。具体的には、日本の南方上空に静止している静止測位衛星「みちびき3号機」の信号を使うことで、日本列島太平洋側の南海トラフ大地震震源域上空をモニターする体制を低コストで整えることができるとし、ガス、電力、海運、物流企業へのヒアリングなどから、津波高予測をBtoBで提供する事業を維持し、最終的にBtoG(政府・自治体)の社会貢献につなげるビジネスプランを示しました。将来的には気象庁が発表する津波警報の「解除」にも役立てることができるとしました。
質疑応答では津波発生から予測提供までのタイムラグや損害保険など他業種への展開、海外で発生した地震などの質問がありました。
ビジネスプラン部門【5】
Fun-G「宇宙でのQOL向上のための、肌と微生物の共生」
「Fun-G」の佐々祥子氏は、宇宙滞在中は無重量や乾燥状態など宇宙特有の環境下で肌の悪玉菌が増加することにより、「かゆみやニキビなどが地上の25倍になる」というNASAのデータを紹介。肌の常在菌のうち、善玉菌を補う「補菌」行うクリームや、新たに開発した悪玉菌だけを取り除く「選菌」を行う除菌シートを用いることで「宇宙旅行を全力で楽しむ」ための環境づくりにつなげ、宇宙と地上の両方でマネタイズしていくプランを提示しました。
質疑応答では宇宙と地上の環境の違いについてのより具体的な質問や、地上での製品化時期などについて質問がありました。
ビジネスプラン部門【6】
AO-Links「旅客機のレーダー衛星化によるビッグデータ事業」
「AO-Links」の宮下陽輔氏は、悪天候や夜間でも観測可能なSAR(*2)レーダー機器を、定期航空路線の航空機に搭載し撮影することで、従来の観測衛星による撮影に比べて高解像度のデータを高頻度で機動的に大量取得するプランを提案しました。それにより、災害規模の迅速な把握とともに、既存の衛星データと組み合わせることで衛星画像の市場規模そのものを拡大・開拓するビジネスプランを提示。期待される市場規模や実現までのロードマップを示しました。
質疑応答ではレーダー機器装着にかかる費用の規模感や、専用機でなく定期航空便を利用する理由などについて質問がありました。
ビジネスプラン部門【7】
チーム スペースドリフター「成層圏における微生物採取請負人」
「チーム スペースドリフター」の近藤憲氏は、宇宙線や紫外線など過酷な環境である成層圏に存在する微生物が出す有用物質やDNA修復の能力は、新素材開発や病気治療に役立つ可能性があるとして、小型バルーンと小型の微生物採取装置により成層圏の微生物を採取し、そのゲノム解析を通したライセンスビジネスプランを紹介しました。
質疑応答では、成層圏微生物が地上で役立つ可能性の確信度などについて質問がありました。
ビジネスプラン部門【8】
森琢磨・山田龍太朗「ロケット海上打ち上げ」
石油開発関連企業の社員2名によるチーム「森琢磨・山田龍太朗」の森琢磨氏は、映画『アルマゲドン』でも登場した海洋掘削リグを、小型ロケットの洋上打ち上げプラットホームに利用することで小型ロケット打ち上げ場不足を解決するアイデアを提示しました。市場予測データと事業者へのヒアリングから、急拡大する小型衛星打ち上げ市場では、打ち上げ射場の供給に大きなギャップが生じることは確実であるとし、そもそも石油や天然ガスといった危険物を扱うリグでは大きな設備改修なしに小型ロケットの打ち上げ場に転用でき、初期投資額6.3億円程度で実用可能であり、リグに乗船勤務してきた経験を生かして、世界初の民間運用を目指せると説明。さらに打ち上げ観光やネーミングライツ提供でマネタイズするビジネスプランを提案。加えて石油価格下落により運用コストが大きく下落している今がチャンスであるとアピールしました。
質疑応答ではプレゼンで示された初期投資額6.3億円の内訳や遊休リグの転用事例などについての質問がありました。
◆◆「未来コンセプト部門」4組
未来コンセプト部門【1】
GITAI「地球上から月面基地開発可能なテレプレゼンスロボットの実現」
「GITAI」の中ノ瀬翔氏は、限られた容量の通信回線でもスムーズな動作を実現する次世代テレプレゼンスロボットを提案。地球からの低遅延でスムーズな遠隔操作を可能にすることで、将来の月面基地開発にかかるコストとリスクを大幅に下げることができる、と説明しました。
質疑応答では、宇宙に拘らない分野でのビジネス化や実現化する上でのボトルネックについての質問が寄せられました。
未来コンセプト部門【2】
「地球内部のCTスキャン」
建物の構造設計や土壌・地盤の研究に関わる大林組の大出大輔氏は、物体を通過する宇宙線を観測して対象物の密度差を可視化する「ミュオグラフィ」の技術を地球規模に拡大。地球を透過してきた宇宙線を多数の周回衛星で観測し、CTスキャンのように地球内部の密度分布を明らかにするというコンセプトを提示しました。「宇宙資源」である宇宙線を、地下資源の探査や地下構造の解明に役立てようというプランです。
質疑応答では特定の資源を狙い撃ちで探せるのかどうかや、観測につかう検知器の詳細について質問が寄せられました。
未来コンセプト部門【3】
「超小型衛星群とグローバル地上局ネットワークによる地震発生予測」
東京学芸大学の鴨川仁氏は、過去にフランスの衛星が観測し、統計的有意性が検証されている地震先行現象「電離圏変動」の検知に特化した、超小型衛星群を使って準リアルタイム地震短期直前予測を行うコンセプトを紹介。最終的には7割程度の直下型被害地震の予測成功をめざし、最終的には公共事業につなげていくプランを紹介しました。
質疑応答では、地震のエネルギーと電離圏変動の規模の相関性や、事業立ち上げのプランなどについて質問がありました。
未来コンセプト部門【4】
「Aurora for ALL」
JALナビアの田中沙季氏は、オーロラ観光は自然現象のためにオーロラ遭遇しないこともあるという不確実性を課題とし、コロナホール由来のオーロラが27日周期であることに着目。気象予測と組み合わせ、オーロラツアーに「確実性」という大きな付加価値を与えるコンセプトを提案しました。
質疑応答では、オーロラを見て考え方が変わったかという質問に対し、「実はまだ見ていない。高額なのに不確実という、自分自身で感じた課題が今回の出発点」「将来的には宇宙から見るオーロラがいちばんキレイだと思う」と答え、会場を沸かせました。
(*1) 「S-Matching」(エス・マッチング)とは、新たなビジネス・アイデアや新事業構想を有する宇宙ビジネス起業家と、宇宙分野に投融資意欲がある宇宙ビジネス投資家とのマッチングを円滑化するためのプラットホーム。
(*2)「SAR」とは、Synthetic Aperture Radar の略で、合成開口レーダーとも呼ばれる。マイクロ波を地表面に斜めに照射し、地表面からの後方散乱波を受信するセンサで、このマイクロ波は、雲を透過することができるため、観測に太陽光を必要とせず、天候にも左右されず観測することができる。
>次回予告
次回は、受賞結果のレポートとスペシャルトークショーのレポートを12月7日(金)に配信予定です。
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企業情報
企業名 | 宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト S-Booster |
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代表者名 | 内閣府宇宙開発戦略推進事務局 |
業種 | その他サービス |
コラム
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