~トレンド総研 レポート~ 値上げの春…食料品だけでなく電気料金にも値上げの波! 燃料費下落の影で、上昇し続ける「再エネ賦課金」
2019年度の負担額は年間約1万円! 今後もさらに増加!? 専門家が指摘する、再生可能エネルギーの実態と課題
生活者の意識・実態に関する調査をおこなうトレンド総研では、このたび「電気料金」をテーマにレポートします。
値上げのニュースが増える春。原材料費、物流費、人件費などの高騰を受け、2019年も食料品や飲料を中心とした値上げ報道が目立ちました。
そんな中で注目したいのが「電気料金」の値上げです。私たちが支払っている電気料金には、「再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)」と呼ばれる費用が上乗せされています。「再エネ賦課金」とは、太陽光や風力といった再生エネルギー産業の育成・発展のために徴収されているお金のことです。この「再エネ賦課金」は毎春改定され、「再エネ賦課金」が電気料金に上乗せされはじめた2012年以降、毎年増え続けています。
こうした背景をふまえ、今回トレンド総研では、20~30代の男女500名を対象とした「電気料金」に関する調査を実施。また、エネルギー分野に詳しい、政策アナリストの石川和男氏へのインタビューをおこないました。
<レポートサマリー>
【調査結果】 「電気料金」に関する意識調査
■2019年春に「値上げのニュースが目立ったと感じるもの」を聞くと、食料品や飲料などの回答が多く「電気料金」と答えた人はわずか12%。
■電気料金の負担を増加させる要因となっている「再エネ賦課金」を、「名前も内容も知っていた」人は約5人に1人で、過半数は制度自体を認知していない。また、標準的な家庭における「再エネ賦課金」の利用者負担額(年間約10,000円)については、63%が「高いと思う」と回答。
【専門家コメント】 石川和男氏に聞く、「再生可能エネルギー」の実態と課題
■現在は、原油や石炭価格が下落しているため、本来であれば電気料金は安くなるはずだが、その一方で「再エネ賦課金」が電気料金に上乗せされはじめた2012年度以降、毎年増え続けており、家計の負担の大きな要因となっている。
■「再エネ賦課金」の負担額は、再生可能エネルギーの急拡大に伴い増加しており、初年度(2012年度)は標準的な家庭で年間700円台だったものが、今年度(2019年度)は約10,000円台にまで上昇している。
■国全体でみると今年度の「再エネ賦課金」の額は約2.4兆円。この国民負担は消費税1%分に相当。
■再生可能エネルギーには、発電コストが高いというデメリットがあり、再生可能エネルギーによる発電量を増やそうとすると、その費用を賄うための「再エネ賦課金」の負担も増加することになる。
■重要なのは、特定のエネルギーに偏ることなく、再生可能エネルギー、火力、原子力など、さまざまな発電方法をミックスした電源構成=「エネルギーミックス」。コスト・環境負荷・安定供給・エネルギー自給率の向上など、さまざまな点をふまえて、発電方法をバランスよくミックスする必要がある。
■また、日本のエネルギー問題について、消費者ひとりひとりがしっかり考えていくことも重要。
【調査結果】 「電気料金」に関する意識調査
はじめに、20~30代の男女500名を対象に、「電気料金」に関する意識調査をおこないました。
<調査概要>
・調査名:「電気料金」に関する調査
・調査対象:20~30代男女500名(年代・性別 均等割付)
・調査方法:インターネット調査
・調査期間:2019年4月26日~5月8日
◆食料品や飲料の値上げ報道の影に隠れがちな、電気料金の値上げ
まず、2019年春の料金値上げ報道全般について質問したところ、「今年(2019年)の春、商品・サービスの値上げに関するニュースを見聞きした」と答えた人は、69%と約7割に。ただし、「値上げのニュースが目立ったと感じるもの」を聞くと、「食料品」(64%)、「飲料」(33%)などの回答が多く、「電気料金」と答えた人はわずか12%にとどまっています。
◆電気料金に上乗せされる「再エネ賦課金」…「制度自体を知らなかった」人が過半数に
それでは、生活者たちは電気料金の負担を増加させる要因となっている「再エネ賦課金」について、どの程度理解をしているのでしょうか。
そもそも、この「再エネ賦課金」は、再生可能エネルギーの導入拡大を図ることを目的に、国が定めた「FIT(固定価格買取制度)」という仕組みに基づいて設定されています。電力会社はこの制度により、再生可能エネルギーで発電された電気を国が定めた価格・期間で買い取ることを義務づけられており、その費用は「再エネ賦課金」として電気料金の中に組み込まれ、すべての電気利用者が負担しています。
今回、この「再エネ賦課金」の認知度について調査をおこなったところ、「名前も内容も知っていた」人は約5人に1人(22%)にとどまっており、過半数(53%)の人は「そのような制度があること自体、知らなかった」と回答しました。
また、「再エネ賦課金」は年々上昇しており、2012年度当初では標準的な家庭(※)で年間700円台だったものが、2019年度には年間10,000円台にまで昇る額になっています。この事実についても、調査回答者の87%と大多数は「知らなかった」と答えました。
※標準的な家庭における電力使用量を300kWh/月とした場合
◆生活者の84%が「再エネ賦課金の上昇は家計の負担になる」と回答
そこで、あらためて標準的な家庭における「再エネ賦課金」の利用者負担額(年間約10,000円)について、どのように感じるかを聞いたところ、63%が「高いと思う」と答えました。
また、「再エネ賦課金」は、今後も増え続ける可能性があると言われています。「再エネ賦課金」が増えると、家計の負担につながると感じるかを質問すると、「現在の金額ですでに負担に感じる」が29%、「今後増えると負担に感じる」が55%という結果に。合計すると84%もの人が「再エネ賦課金」の上昇が家計の負担につながると感じているようです。
なお、「再エネ賦課金」について、年間でどのくらいの金額まで許容できるかを聞いた質問では、「年間1,200円(月100円)未満」(47%)、「年間6,000円(月500円)未満」(40%)が多い結果となりました。
【専門家コメント】 石川和男氏に聞く、「再生可能エネルギー」の実態と課題
上記の調査結果をふまえて、今回はエネルギー分野に詳しい政策アナリストの石川和男氏に、「再エネ賦課金」の利用者負担の実態や、「再生可能エネルギー」普及にあたっての課題についてお話をお伺いしました。
<専門家プロフィール>
石川和男(いしかわ・かずお) / 政策アナリスト
1965年生まれ。1989年東京大学工学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。石炭、電力・都市ガスなどエネルギー政策、LPガス・高圧ガス・石油コンビナートなど産業保安政策、産業金融、割賦販売・消費者信用、中小企業、行政改革など各般の政策に従事し、2007年退官。2008年、内閣官房企画官。規制改革会議WG(ワーキング・グループ)委員、専修大学客員教授、政策研究大学院大学客員教授、東京財団上席研究員などを歴任。現在は、NPO法人 社会保障経済研究所代表、霞が関政策総研主宰、算数脳育研究会代表理事、一般社団法人NTSセーフティ家計総合研究所運営委員などを務めている。
Q:そもそも、私たち消費者が支払う電気料金はどのように決まっているのでしょうか?
電気料金の仕組みは一見複雑に見えますが、基本的な考え方自体は、身の周りの商品・サービスと同じです。例えば、ラーメン屋さんであれば、麺やスープの材料費・光熱費・人件費・店舗賃料など、「ラーメンを提供するうえで必要なコスト」に「利益」を上載せする形で料金が決められていますよね。電気料金もまったく同じで、「発電・送電・販売にかかるコスト」をもとに決められています。具体的には、燃料費、送電線などの設備費、人件費などですね。
Q:電気の使用量が変わっていないのに、電気料金が変わるのはなぜでしょうか?
ラーメンづくりに必要な小麦粉の値段が変動するのと同じように、燃料費をはじめとした電力にかかわるコストも変動します。例えば、現在は、原油や石炭価格が下落しているため、本来であれば電気料金は安くなるはずです。
ただし、実際のところは、燃料費が下落しているにもかかわらず、電気料金が安くなっている実感がない人が多いのではないでしょうか。また、電気の使用量は変わっていないのに、年々電気料金が高くなっていると感じる人もいるかもしれません。
こうした家計負担の大きな要因となっているのが「再エネ賦課金」です。「燃料価格」は、原油や石炭、天然ガスの輸入価格や為替相場に基づいて上がることも下がることもありますが、「再エネ賦課金」は制度がはじまった2012年以降、増額の一途をたどっています。
Q:「再エネ賦課金」とは、どのようなものでしょうか?
そもそも、この「再エネ賦課金」は、2012年7月1日より施行されている「FIT制度」に基づいて設定されています。「FIT」とは、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの導入拡大を図ることを目的に、国が定めた仕組みのこと。電力会社はこの制度により、再生可能エネルギーで発電された電気を、固定価格で一定期間買い取ることを義務づけられているのです。再生可能エネルギーの買取価格は、火力や原子力などの発電コストと比べてかなり割高に設定されており、この買取費用を賄う原資となるのが「再エネ賦課金」です。「再エネ賦課金」は電気料金の中に組み込まれ、家庭・企業問わずすべての電気利用者が負担しています。
Q:「再エネ賦課金」の消費者負担はどれくらいでしょうか?
今年度の改定により、2019年5月分から2020年4月分料金までの「再エネ賦課金」は、一律で2.95円/kWhと定められました。標準的な家庭の電力使用量を1か月300kWhとして計算した場合、月々の「再エネ賦課金」の負担額は885円。12か月分に換算すると、単純計算で年間10,620円を負担することになります。実際にご自身が支払っている「再エネ賦課金」は、家庭に届く「電気ご使用量のお知らせ」(検針票)に記載されていますので、ぜひチェックしていただきたいです。
Q:「再エネ賦課金」の負担額は、今後も増え続けていくのでしょうか?
「再エネ賦課金」の負担額は、再生可能エネルギーの急拡大に伴い増加しており、初年度(2012年度)は年間約700円台だったものが、今年度(2019年度)は約10,000円台にまで上昇しています。
さらに、国全体でみると今年度の「再エネ賦課金」の額は約2.4兆円という試算になり、国民負担は消費税1%分に相当します。現在、2019年10月の消費税率10%への引き上げにあたって、さまざまな議論がなされていますが、こと「再エネ賦課金」については多くの人が認識をしないまま、年々引き上げられているのが実態と言えるでしょう。
また、前述の「FIT制度」では、事業用太陽光発電(10kW以上)の場合、運転開始から20年間は、電力会社が高い単価(固定価格)で買い取ることになっています。「FIT制度」の制定が2012年であったことや、いまだ運転を開始していない事業者も4割前後いることをふまえると、「再エネ賦課金」は今後もしばらく増加し続け、さらに家計の負担につながっていくと想定されます。
Q:そもそも「再エネ賦課金」を国民が負担しているのはなぜでしょうか?
再生可能エネルギーが普及すると、化石燃料への依存軽減につながります。これは、CO2の削減のためにも、エネルギー自給率向上のためにも重要な取り組みです。こうした背景から、再生可能エネルギーの普及は電気利用者すべてにかかわることとして、「再エネ賦課金」が導入されています。
ただし、再生可能エネルギーには、発電コストが高いという大きなデメリットがあります。例えば、100万kW規模の原子力発電所が1年間運転したときにつくられる電気の量を、再生可能エネルギーで生み出そうとすると、山手線の内側と同じくらいの広さの敷地(約58Km2)に太陽光パネルを敷き詰める必要があります。これらの面積に太陽光パネルを設置しようとすると、その建設費や工事費はどうしても莫大なものになってしまいますよね。
発電コストが安い原子力と比較してみると、再生可能エネルギーの代表格である太陽光の発電コストは、原子力の約2倍です。実際に、再生可能エネルギーの導入率が高い国は、電気料金も高い傾向にあります。例えばドイツやデンマークは、日本の10年以上も前から、再生可能エネルギーの普及を目指した取り組みを進めており、先進国の中でも太陽光発電の普及率はトップクラスです。しかし、その分、電気料金は高騰し続けており、世界の主要国の中で最も電気料金の高い国となってしまいました。
▼参考:世界の主要国の電源構成と家庭用電気料金の変化
Q:「再エネ賦課金」を抑制するためには、どのようにすればよいのでしょうか?
再生可能エネルギーには、発電コストが高いというデメリットはありますが、一方で環境負荷が少ない、エネルギー自給率が向上するなどのメリットもあります。重要なのは、特定のエネルギーに偏ることなく、火力、原子力など、さまざまな発電方法をミックスした電源構成=「エネルギーミックス」です。発電方法によってメリット・デメリットは大きく異なります。コスト・環境負荷・安定供給・エネルギー自給率の向上など、さまざまな点をふまえて、発電方法をバランスよくミックスする必要があるのです。
また、消費者のひとりとしては、まずはエネルギーに対する正しい理解を得ることが重要だと思います。まずはご自身の「再エネ賦課金」をチェックしたり、資源エネルギー庁のホームページで公開されている情報をチェックしたりしながら、日本のエネルギー問題について、ひとりひとりがしっかり考えていくことが大切です。
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