【宇宙ビジネスアイデアコンテスト S-Booster 2019】 開催レポートVol.1 ~日本国内・アジア各国から優れたアイデアが集結~
昨年11月25日、東京都中央区の日本橋三井ホールで「S-Booster 2019」の最終選抜会が開催されました。S-Boosterは「宇宙アセットを利用した、新たなビジネスモデルを発掘し、事業化を支援する」ことを目的としたビジネスアイデアコンテストです。国内外での予選を経て勝ち残った12チームのファイナリストたちは、最優秀賞の賞金1000万円をかけて熱い戦いを繰り広げました。本レポートでは、3回に分けて「S-Booster 2019」最終選抜会の様子をお届けします。
S-Booster公式ウェブサイト https://s-booster.jp/
S-Boosterは、政府主催による日本国内の宇宙ビジネスアイデアコンテストとして2017年に始まり、3回目を迎える2019年は日本だけでなくアジア・オセアニア地域からアイデアを募集しました。6月の書類選考と7月の東京とタイ・バンコクで行われた予選会を勝ち抜き、アジアから4チームと日本国内から8チームがファイナリストとして選出されました。その後、ワークショップとメンタリングを通してアイデアをブラシュアップし、今回の最終選抜会に臨みました。
メンタリングを担うメンターは、航空・宇宙、金融、法律など様々な業界で起業や経営に関わる専門家32名で構成されています。提案アイデアごとにリードメンターとサブメンター、さらには2019年からの新たな取り組みとなる専門メンター(弁護士)が任命され、さまざまな角度からファイナリストのアイデアを磨き上げ、具体的な事業計画に仕上げました。
アジアのファイナリストに対しては、担当メンターがファイナリストの居住国を訪れて、各ビジネスアイデア発想の背景事情を確かめつつ現地でメンタリングを行うなど、日本のファイナリスト同様にメンタリングの機会が提供されました。
S-Booster 2019 メンターリスト https://s-booster.jp/#mentor
そして迎えた11月25日の最終選抜会。会場の日本橋三井ホールでは、12チームのファイナリストたちによるビジネスアイデアのプレゼンテーションと審査、ならびに昨年の各賞受賞者等によるトークショー、そして各賞の発表と授賞式が行われました。
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まず開会にあたり、内閣府の松尾剛彦宇宙開発戦略推進事務局長より、「宇宙を民間企業が担う時代を迎えています。3回目となるS-Boosterはまさに、民間のアイデアをビジネスにつなげていくことを企図して開催しているものであり、今年からはアジア・オセアニアに募集地域を拡げ、同地域から約100件、日本からは約200件の応募がありました。選考で選ばれ、本日登壇するファイナリストから一人でも多く、また一つでも多くのアイデアが、事業化に向けたきっかけをつかむことを期待し、またここに参加されたみなさまが宇宙に興味や関心を抱くきっかけとなればと思います」と挨拶しました。
続いてS-Booster 2019のアジア共催として加わった、タイ地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)を代表し、今回の特別審査員を務めたスペース・クリノベーションパークディレクター ダムロングリッド・ニアマド氏より、「タイ・バンコクで行われた予選会をはじめ、このような素晴らしいイベントに共催として関われたことを嬉しく思っています。今日が終わりではなく、重要な日となり将来へ向けての出発点となることを期待します」と挨拶し、7月にバンコクで行われたアジア予選会の模様をビデオで紹介しました。
審査員の紹介に続き、12チームのファイナリストたちが順々に登壇。5分間のプレゼンテーションとさらに約5分間の質疑応答に臨みました。
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No.1 BlueWatch: Spatial Aquaculture Advisory System for Smart AquaFarms
チーム名:Bluewatch(タイ)/代表者名:Gautam Dadhich氏
タイで広く行われているエビ養殖では、水質悪化により養殖池にいるすべてのエビを失う事故が多く発生し、気候変動リスクもあわせると、年間60億USドル近い損失が生じているとの試算もあります。インドからの留学生やタイの地理情報システム・リモートセンシング研究者、日本人の水産学研究者らによる、アジア工科大学院とチュラロンコン大学の合同チーム Bluewatchは、「BlueWatch: Spatial Aquaculture Advisory System for Smart AquaFarms(スマート水産養殖に向けた宇宙水産養殖アドバイザリーシステム)」を提案しました。このシステムは、レーダー衛星や気象衛星など観測衛星で取得したデータや地上のデータを組み合わせて解析して水質悪化の早期警報を発することで、従来の人手をかけて水質調査する手法に比べて大幅にコストを抑え、水産養殖におけるリスク回避や海産物の質・量の向上につなげるビジネスモデルを構想しています。
質疑応答の中で、このアイデア独自の競争優位性のひとつとして、「多くの競合するモデルでは、光学観測衛星のみを用いるため悪天候時の測定ができないが、日本の宇宙ベンチャーであるSynspective社による高頻度のレーダー観測衛星のデータを使うことによって、天候によらず養殖池の状況を正確に把握できる点が強みと考えている」と説明しています。
No.2 ふうせん宇宙旅行プロジェクト
チーム名:株式会社岩谷技研/代表者名:岩谷圭介氏
北海道大学で航空宇宙工学を専攻した岩谷圭介氏は、これまでに100回以上の気球を成層圏飛行させ、100%の成功率を誇っています。このノウハウを活用し、すぐに実現する宇宙旅行として「ふうせん宇宙旅行プロジェクト」を提案しました。具体的には、多重の安全策を講じた5人乗りの有人気球で高度2万5000m、往復の飛行時間は4時間、料金は100万円という成層圏への遊覧飛行です。岩谷氏は実際に金魚を成層圏で飛行させた実験映像を示し、宇宙飛行士によれば、この景色は国際宇宙ステーションから見た宇宙とほとんど同じであるとコメントしました。さらには、宇宙旅行だけではなく、輸送サービスや地球観測などにも派生した事業検討に着手していることを説明しました。
質疑応答では、打ち上げ条件や制約について「宮古島を始め、打ち上げ場所を増やすことで、年間半分程度の打ち上げ日が確保できそうである」と答え、独自の安全性については「上昇下降で1つの気嚢(バルーン)を使用して敢えて途中で分離しない仕組み、キャビンの緊急パラシュート搭載、乗員用パラシュート搭載の3重の安全策で、スカイダイビングと同等の安全性を確保できる」と答えました。
No.3 RS-AR: Remote Sensing Data Visualized in Augmented Reality
チーム名:Adarna Aerospace(フィリピン)/代表者名:Ariston Gonzalez氏
Adarna Aerospaceは北海道大学や東北大学などで航空宇宙工学や宇宙理学を専攻したメンバーを中核としたフィリピンのチームです。プレゼンテーションではまず、災害時の衛星写真画像(リモート・センシングデータ)と地上の写真をあわせて提示し、リモート・センシングデータから地上の状況を想像するには、専門家の知見が必要であり技術的な壁も存在すると課題を解説。今回提案する「RS:AR」は、クラウドサービスとして提供され、AR(Augmented Reality、拡張現実)技術を使って、災害状況や実在の地物を地図上に3Dで表示することで、専門家でなくとも状況を容易に把握できるシステムと説明しました。このシステムの強みは、「時間やコストを削減し、すぐ人命救助につながる行動に移せるような情報を提示する」点であるとアピールしました。
質疑応答では、没入感のある3Dデータを提供できる点やFEM(有限要素法)を活用したオリジナルのARエンジンにより、迅速に地図上に正確にオブジェクトを配置できるなどのシステムの特長や、東北大学の防災研究者との討議を通じ、防災関係者などのユーザーに使いやすいデータの提示方法を心がけている点を強調しました。
No.4 Space Spice factory(宇宙工場による高付加価値材料の製造サービス)
チーム名:Work Dock Inc./代表者名:古賀勝氏
JAXAでロケット運用や有人宇宙探査計画に関わる古賀氏は、宇宙空間における微小重力環境を活用した素材工場の提案を行いました。たとえば、未来の量子コンピュータに欠かせない素材と言われる原子内包フラーレン(La@C60)は、1g当たり190億円とも言われる超高額な材料です。地球重力下ではきわめて製造が困難なこうした素材の製造を、微小重力環境下で行えば10倍以上の製造効率が期待できるといいます。古賀氏はこの点をとらえ「無重力は儲かる! 宇宙の素材工場を目指す」とアピール。具体的には30cm角ほどの製造装置を搭載し、低コストで製造した小型衛星を打ち上げ、軌道上で製造し、回収するサービスを提供するものです。将来的には市場規模50兆円とも言われる機能性材料のマーケットを取り込んで行きたいとしました。また、この事業アイデアを「Space Spice factory」と名付けたのは、かつて大航海時代に船乗りたちを招き寄せた、希少で高価な香辛料になぞらえたものであると解説しました。
質疑応答では、これまで前例があまりなかった理由を問われ、「宇宙空間からの回収が大きな障壁となり、“高付加価値であり、無重力で作りやすい”という素材の探索があまりなされていなかった。その点で、昨年11月にJAXAが実証した小型回収カプセルの成功が、大きな強みとなっている」と回答しました。
No.5 衛星データを活用した持続可能な地下水マネジメント
代表者名:長野龍平氏
大林組で緑化や生態系の研究に従事する長野氏は、衛星データを活用した持続可能な地下水マネジメントサービスの提案を行いました。2030年には世界人口の半分にあたる41億人が水不足に直面し、飢餓や戦争など多くの問題を引き起されると言われている、と課題を提示。地下水の絶対量が不明で、事前調査がコスト面から十分に実施されず、使用量も不明なまま、いつ枯渇するか分からない地下水を使い続ける現況を「タイマーのない時限爆弾」と位置づけ、そこで自身が京都大学在学時に研究テーマとしていた「地下水の滞留時間」を基盤技術とするアイデアを提案。衛星で取得された地形データから、地下水の滞留時間を推測し他のパラメータと合わせ解析することで、地下水量の推定が可能となると説明しました。これにより、事前調査の大幅な省力化・コストダウンが可能となり、地下水の存在量、将来の可視化を通して保全と持続的な利用が可能になるとアピールしました。
質疑応答では、ビジネスの立ち上げをどの地域で検討できるのかという質問に対し、「まずは、取水により地盤沈下が進み、洪水の危険が増すことで首都移転も検討されるジャカルタをはじめとするアジアの諸都市を対象としたい」と回答しました。
No.6 Satellite Re-use Market
チーム名:Opportunity/代表者名:市川千秋氏
市川氏は、90日間の設計寿命を大幅に超え11年間にわたって稼働したNASAの火星探査ローバー「Opportunity」がチーム名の由来であると説明。いったん打ち上げてしまえば修理が不可能な人工衛星などの宇宙機器は、そもそも高い信頼性のもと設計製造されており、設計寿命を超える運用が普通に行われている現況を解説しました。設計寿命の期間を終えた人工衛星をスポーツ選手になぞらえ「控え選手に甘んじたり、引退したりするのではなく、セカンドキャリアを輝かせるため」に、中古衛星の取引プラットフォームSRM(Satellite Re-use Market)を提案しました。また、JAXAの衛星運用の知見から、衛星の残存価値査定や取引サポート、顧客要望に合わせたサービスが可能であると強調。それをベースにしたSRMは、売り手や買い手のメリットだけでなく、広く宇宙利用の市場拡大にもつながり、将来的には航空機の中古市場同様の活発な取引が期待できるとアピール。「熱いスピリット(Opportunityの姉妹機の名称でもある)で、循環型宇宙利用のシステムを作りたい!」とプレゼンテーションを締めくくりました。
質疑応答では、「SRMは今のところ観測衛星を主眼に置いたビジネスモデルであり、小型衛星でも市場が期待できる」と回答しました。
▽次回予告
開催レポートVol.2は近日中に配信予定です。
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企業情報
企業名 | 宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト S-Booster |
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代表者名 | 内閣府宇宙開発戦略推進事務局 |
業種 | その他サービス |
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