ゼノバイオティック、化合物のデータ約14000件の機械学習により化合物の毒性予測ソフトウェアの予測精度を95%に向上
岐阜大学地域科学部の澤田敏彦特別協力研究員、橋本智裕准教授、和佐田裕昭教授の研究グループは2019年に、新規化合物のAmes試験※における陽性/陰性の確率が予測できる毒性予測ソフトウェア「xenoBiotic」(以下「本ソフトウェア」)を開発し、その実用化のために2020年にゼノバイオティック(以下「同社」、代表取締役 澤田敏彦)を設立しました。研究グループは昨年、化学メーカー6社と公的研究機関2機関による本ソフトウェアのテストを通して、約6,000件の化合物データを新たに入手。機械学習したデータ件数を累計約14,000件とし、予測精度を従来の正答率91%から95%に高めました。これは他のAmes試験予測ソフトウェアの正答率を大きく上回ります。今後、実用化に向けて、Ames試験結果が陽性の化合物を正確に陽性と予測できる性能を向上させます。
同社は岐阜大学から2020年12月28日に「岐阜大学発ベンチャー」に認定されました。今後、資金調達を行い、本ソフトウェアを実用化する予定で、2026年の売上約12億円を目指します。
※:米国カルフォルニア大学のAmes教授らが開発した、比較的低コストで実施できる、世界的に普及している毒性試験。ネズミチフス菌4種と大腸菌1種の計5種の菌が、試験物質によってどの程度の突然変異を起こすかによって毒性の有無(陽性/陰性)を判定する。
【xenoBioticの機械学習の経緯】
本ソフトウェアは2018年2月時点で、Ames試験済み化合物のデータ約8,000件を機械学習しており、その予測精度をAmes試験済みの農薬724件(626件が陰性、98件が陽性)を用いて評価したところ、正答率91%を達成していました。
研究グループは、化学メーカー6社と公的研究機関2機関によるテストを昨年実施して、Ames試験済み化合物のデータ約6,000件を新たに入手。この新規データを追加して機械学習した結果、農薬724件で評価した正答率を95%に高めることができました。この正答率95%は、他の複数の予測ソフトウェアの正答率を大きく上回ります。
この成果の一部は、以下の支援・助成のもとで取得されました。深く御礼申し上げます。文部科学省「次世代アントレプレナー育成事業 (EDGE-NEXT)」Tokai-EDGE (Tongali) プログラム、東海広域5大学ベンチャー起業支援:スタートアップ準備資金(2018年度)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「研究開発型ベンチャー支援事業/2018年度NEDO Technology Commercialization Program(TCP)、2019年度NEDO Entrepreneurs Program(NEP)」、2019年度ぎふ地域ベンチャー支援ネットワーク NOBUNAGA21 ビジネスプラン助成金ファーストステージ。
【xenoBiotic開発の背景】
化学メーカーが医薬品や農薬、化粧品、添加剤等を対象として、有益な機能を持つ新規化合物を開発して上市するためには、法令およびガイドラインに規定された毒性試験の通過(毒性試験の陰性)が必要です。一般的に、新規化合物の分子設計には6ヵ月、開発には1年6ヵ月、毒性試験には5年程度かかります。新規化合物が毒性試験を通過せず(毒性試験が陽性)、新規化合物の開発に失敗する場合も多く、この経済的損失は世界の化学業界全体で年間2000億円以上に上ると同社は推計します。
もし、化合物の毒性試験の結果が、化合物を分子設計する段階で予測できれば、毒性試験で陽性となる確率が高い化合物の開発を早期に見直しでき、つまり毒性試験の不通過が早期に回避でき、その結果、開発失敗が原因の経済的損失を大幅に低減できると期待されます。この考え方を実現するために本ソフトウェアを実用化して、化学メーカーのSDGsの達成に貢献します。
【xenoBioticの機能と特長】
1.使いやすさ
他の毒性予測ソフトウェアは、毒性を予測するためにユーザー自身が理解・判断して手入力しなければならない項目が多数あり、使用に手間がかかります。これに対して本ソフトウェアは、化合物の分子設計図に相当する化学構造式のファイルを、ユーザーが本ソフトウェアに1回ドラッグ&ドロップするだけでよく、使いやすさに優れます。
本ソフトウェアは、ユーザーがドラッグ&ドロップした2次元の化学構造式を計算化学的手法によって3次元化して、化学的性質、物性、電気的性質、水溶性、脂溶性など様々な要素を把握。把握した各要素を、Ames試験済み化合物約14,000件の各要素を機械学習して構築した毒性予測モデルに入力することで、Ames試験の陽性/陰性の確率を計算して、ユーザーに向けて出力します。
2.化合物の分子設計段階から使えるため化合物開発の見直しに役立つ
既存の毒性予測ソフトウェアのほとんどは、医薬品の毒性試験者向けに作られており、化学者が新規化合物を分子設計する際に用いるには不向きです。
本ソフトウェアは、新規化合物の分子設計・開発を担う化学者向けの製品で、医薬品以外の化合物にも適用できるため汎用性が高いです。本ソフトウェアにより、化学者が毒性試験の陽性/陰性の確率を参照しながら化合物の分子設計を見直しでき、毒性試験の通過率が大幅に高まります。
3.機械学習を継続すると予測精度が向上し続ける
同社は、本ソフトウェアをSaaSまたはスタンドアロンのサブスクリプションにて提供する予定。毒性試験結果の新規入手と継続的な機械学習により予測精度が向上し続けるため、同社はユーザーと連携して本ソフトウェアを改良し続けます。
【今後の課題】
今後、同社は本ソフトウェアの実用化に向けて、Ames試験結果が陽性の化合物を正確に陽性と予測できる性能を向上させます。具体的には、Ames試験結果が陽性の化合物のデータを、本ソフトウェアのβテストを通じて多数収集します。また、機械学習の方法等も改良します。βテストにあたって個人・法人問わずテスターを広く募集します(https://xenobiotic.jp/)。
同社は資金調達によって本ソフトウェアの実用化を目指しています。本ソフトウェアは現在、Ames試験のみが予測可能ですが、法令等で規定された他の毒性試験10種の予測を2023年までに実現します。
【関連特許情報】
「毒性予測方法及びその利用」、特開2019-020791(特願2017-135877)、
発明者:澤田敏彦,和佐田裕昭,橋本智裕、出願人:国立大学法人東海国立大学機構
【株式会社ゼノバイオティック 会社概要】
設立: 2020年8月25日
住所: 〒501-1144 岐阜県岐阜市東改田字再勝270番地5
E-mail: sawada@xenobiotic.jp
TEL: 058-215-9397
代表取締役: 澤田 敏彦(岐阜大学 地域科学部 特別協力研究員)
【研究者プロフィール】
澤田敏彦
岐阜大学 地域科学部 特別協力研究員 (株式会社ゼノバイオティック 代表取締役)
<略歴>
2007年 岐阜大学大学院連合農学研究科 生物資源科学専攻 修了 博士(農学)取得
2008年~2011年 独立行政法人 産業技術総合研究所 計算科学研究部門 CREST博士研究員
2011年~2016年 富士フイルム株式会社 解析技術センター
2017年~現在 岐阜大学 地域科学部 特別協力研究員
2020年~現在 株式会社ゼノバイオティック 代表取締役
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企業情報
企業名 | 国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 |
---|---|
代表者名 | 森脇 久隆 |
業種 | 国・自治体・公共機関 |
コラム
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学の
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