磯上尚江「宇宙の家」

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この度、Walls Tokyoでは初となる磯上尚江（いそがみ・ひさえ）の個展「宇宙の家」を開催する運びとなりました。

磯上尚江は埼玉県生まれ。東京造形大学を卒業後、沖縄県立芸術大学大学院を修了。これまで木版画を中心に作品を発表してきました。「絵の具を摺り重ねていくことで、美しく繊細な色面とマチエールの層を生み出すことを目指す」という磯上の木版画は中間色が層となり、時の経過や季節の移り変わり、刻々と変化する陽の光によってさまざまな表情を見せる自然界が持つ色彩を想起させます。その色彩の重なりが奥行きを感じさせ、滋味あふれる絵画空間を生み出しています。

磯上は平地で生まれ育ったため、沖縄に行ったときに初めて地層を見て、その存在に圧倒されたといいます。自然が大地に作り出した「美しく繊細な色面とマチエールの層」は、まさに磯上の目指すものとして目前に現れたのです。そしておそらく、これは磯上にとって色彩のみの問題ではなく、大地−星−宇宙が作り出した人智を超えた美を感得する出来事であったに違いありません。

そんな磯上は美術家として宮沢賢治に大きな影響を受けていると言います。

「賢治の作品の生きる切なさのようなものにシンパシーを感じます。

岩手が好きで何度か訪れましたが、賢治の作品は岩手から生えてきたような匂いがあって、地面から生えている。制作って結局は生命賛美だと思っているので、それがストレートに表現できている賢治を尊敬しています。賢治の生き方も筋がピシッと通っていてそれでいて感傷的で素晴らしくアーティスティックです。」

人間界と自然界がシームレスにつながっている宮沢賢治の世界観は、哲学や芸術は生活に根ざすものであり、決して特別なものではないということを私たちに語りかけているようです。

数年続いたパンデミックの間、私たちは人間が生きることや生活について多かれ少なかれ意識させられたように思います。展覧会タイトルにつけられた「宇宙の家」は、そのパンデミックのときに磯上が思い描いたイメージが元になっています。

「近年のコロナ禍もあり『家』について考えることが多かったです。

誰しもが安心できる家で生活できるわけではないのですよね。

不安感や不信感とともに暮らしている人もいる。

とにかく大きくて、宇宙が入れるくらい大きな一軒家があればいいのにと思ったのです。

うまく言えないけれど感傷的なものではなくて、すべての生き物、生きていない物のふるさととしての家です。

ひょっとしたら賢治の『イーハトーブ』にも影響を受けているのかもしれません。」

宮沢賢治の造語で心象世界にある理想郷を意味する「イーハトーブ」。現実世界と地続きにある理想郷をイメージした、詩情豊かな作品を本展でお楽しみいただければ幸いです。