啓蒙小説本　カミシモ＝神々が教える下々の成功のルール＝毎日新聞社発刊　に注目。　大阪府特別顧問の藤原和博 氏、初の小説に挑戦。

ピエロの格好をした大道芸人の前には、たくさんの親子連れが集まっている。コミカルな動きと、見事な風船芸で拍手喝采。地面に置かれた帽子には次々とチップが投げ込まれる。
大道芸人なんて、食べていけるのかな？　そう思って僕は、その眼鏡をかけてみた。

職業　大道芸人　時給五千円
えッ、　そんなに稼げるの？

-中略-

昼下がりの公園。神様から渡された/自給眼鏡/なるものをかけてみた。
その眼鏡をかけて人を見ると、その横にひょっこり字幕のように、職業と時給が浮かび上がってくる。
　不思議でとても奇妙だけど、他人の秘密をのぞいちゃっているようで、ゾクゾクする。

噴水の横のベンチに目をやると、一人の若い男性が腰を下ろし、サンドイッチを食べている。男性の目に精気はなく、老人のように背中を丸めている。

職業　元派遣社員　時給0円

折からの不況による、大量解雇。その煽りを受けた若者達が街にあふれている。彼もそんな一人なのだろう。サンドイッチを食べ終えて、ため息を一つ漏らした。

-中略-

公園を出て、ぼんやりと街を歩く。
ふいに、ショーウィンドに自分の姿が映った。

職業　ツアーコンダクター　時給千円

鏡文字で見づらかったけど、そこにはリアルな/今の僕/が映し出されている。
フリーターと大差ない時給…。
これが逃げることのできない僕の現実なんだ。

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