温室効果ガスの排出削減と収量増加を実現するイネを開発
バテル記念研究所が運営するパシフィック・ノースウェスト国立研究所は,スウェーデン農業科学大学,中国福建省農業科学院,中国湖南農業大学と共同でメタンガスの排出量削減と収量増加を実現したSUSIBA2イネの開発に成功し,その研究成果が科学雑誌Nature 7月30日号に掲載されました。
世界最大規模の非営利研究機関であるバテル記念研究所(本社:米国オハイオ州、CEO:ジェフリー・ワッズワース,以下バテル)が米国エネルギー省より運営管理を委託されているパシフィック・ノースウェスト国立研究所(以下PNNL)は,スウェーデン農業科学大学,中国福建省農業科学院,中国湖南農業大学と共同でメタンガスの排出量削減と収量増加を実現したSUSIBA2イネの開発に成功し,その研究成果がNature 7月30日号に掲載されました。
○開発の背景
お米は世界人口の半数以上の主食ですが,その生産過程において温室効果であるメタンガスが多く発生していることはあまり知られていません。地球上で発生するメタンガスの約17%は水田から放出されており,年間発生量は約1億トンにも上るとされております。メタンガスは二酸化炭素よりも約20倍もの温室効果があり,地球温暖化防止のために3カ国の共同研究チームが10年以上メタン排出を行わないイネの開発に取り組んで参りました。
○SUSIBA2イネの開発
イネの収量を下げずにメタン排出量を削減することが重要であることは研究者には広く知られておりましたが,両方を同時に実現することは困難でありました。
光合成により吸収された二酸化炭素により糖が生産され,植物内の様々な場所に供給または蓄積されますが,このプロセスの解明と制御から研究は始まりました。
PNNLと環境分子科学研究所(以下,EMSL)のChrister Jansson植物科学ディレクターとそのチームは,転写因子とよばれる特別なプロティンが植物内の糖をどのように調節できるかを研究し,転写因子が作られる場所を調節することにより,植物内でどのように炭素と生産物である糖が蓄積されるかの解明に成功しました。
また,光合成により吸収した二酸化炭素の大半を葉や種子へ供給し,根や土壌への炭素供給を限りなく断つ制御を可能とするSUSIBA2と呼ばれる転写因子をオオムギから発見致しました。根や土壌への炭素供給を断つことは,メタンガスを発生する微生物が必要とする炭素供給も断つことになり,これによりメタンガス発生を抑制することが可能となります。SUSIBA2を一般的なイネ品種に組み込み,組み込んでいないイネとの比較試験を中国で3年間続けたところ,SUSIBA2を組み込んでいるイネの方が常に収量が多くかつメタンガスの発生をほとんど抑制できていることが確認できました。
○今後の展開
今後は,EMSLの質量分析とイメージ処理能力を活用し,植物内の炭素配給に纏わるさらなるメカニズムを引き続き研究して参ります。植物の根と微生物群の相互作用も分析し,メタン発生微生物の減少による影響の総体的理解を深める予定です。
本研究はスウェーデン農業科学大学,スウェーデン環境・農業研究審議会,中国国家自然科学基金委員会,カールトリガーズ財団による研究費支援により実施されました。
発表論文:
J. Su, C. Hu, X. Yan, Y. Jin, Z. Chen, Q. Guan, Y. Wang, D. Zhong, C. Jansson, F. Wang, A. Schnurer, C. Sun. Expression of barley SUSIBA2 transcription factor yields high-starch low-methane rice, Nature July 22 (online), 2015, DOI: 10.1038/nature14673
【パシフィック・ノースウェスト国立研究所について】
パシフィック・ノースウェスト国立研究所は、バテル記念研究所が管理する国立研究所の一つです。PNNLは基礎科学・応用科学の進歩を通じ,米国で最も差し迫っている,エネルギー,環境,国家セキュリティに関する多くの問題に取り組んでいます。PNNLの科学的発見やイノベーションは、燃費の良いクルマを作り、信頼性が高く効率の良い電力グリッドを生み出してきました。
所在地 :902 Battelle Blvd, Richland, WA 99354(米国)
設立 :1965年
URL : http://www.pnnl.gov
【バテル記念研究所について】
バテル記念研究所は米オハイオ州で設立された世界最大規模の非営利研究機関です。設立以来、アメリカのエネルギー政策、環境政策、ホームランドセキュリティーなど、さまざまな分野で研究開発を行い、ゼロックスコピー機の事業化、コンパクトディスクやバーコード開発などの成果を上げてきました。
所在地 : 505 King Avenue, Columbus, OH 43201(米国)
設立 : 1929年
代表者 : 代表取締役兼CEO Jeffrey Wadsworth
URL : http://battelle.org
事業内容: 研究所の運営管理、エネルギー・環境・医療・ナショナルセエキュリティ分野などの受託研究開発
【バテルジャパン株式会社について】
バテルジャパン株式会社は、1970年より共同で新技術の研究開発や技術開発支援などを3,000件以上行ってきたバテル記念研究所と三菱商事株式会社との合弁会社として2006年に設立されました。「最先端の科学技術から、明日のビジネスイノベーションへ」をスローガンに、バテル記念研究所の研究者たちとの連携を通して日本およびアジアの企業に科学技術とビジネス戦略の融合、世界をつなぐマーケット・デベロップメント、シーズ育成支援サービスを提供しています。
所在地:東京都千代田区内幸町2-2-2 富国生命ビル17F
代表者:代表取締役 ジェラルド・ハネ
設立 :2006年2月
資本金:1億円
URL :http://www.battelle-japan.co.jp
事業内容: 受託研究開発、技術開発に基づいた事業化・技術戦略提案、海外動向調査
企業情報
企業名 | バテルジャパン株式会社 |
---|---|
代表者名 | ジェラルド・ハネ |
業種 | その他非製造業 |
コラム
バテルジャパン株式会社の
関連プレスリリース
-
バテル記念研究所,病院の品質向上を支援するWayFinder QIダッシュボードを発表
2015年9月28日 17時
-
世界最大の3.2ギガピクセルデジタルカメラ,大型シノプティック・サーベイ望遠鏡用に建設開始
2015年9月19日 10時
-
バテル記念研究所の革新的な遺伝子情報解析ソフトウェアExactIDを米国防科学捜査センタが採用
2015年9月4日 17時
-
オークリッジ国立研究所の研究者,簡単で迅速に固体や液体サンプルの質量を分析する装置を開発
2015年8月28日 16時
バテルジャパン株式会社の
関連プレスリリースをもっと見る