クリスマスを彩るマストアイテムの自給率を徹底調査バター、小麦粉、そして、イルミネーションを灯すエネルギー専門家・柴田明夫氏が解説する、日本の自給率の課題
生活者の意識・実態に関する調査を行うトレンド総研(東京都渋谷区、URL:http://www.trendsoken.com/)では、今年2015年3月に食料やエネルギーの自給率について調べた「“エネルギー自給率”と“エネルギーセキュリティ”に関するレポート」を発表しました。その第2弾となるのが、今回の「クリスマスにまつわる食料・エネルギーの自給率に関するレポート」です。
「スーパーマーケットなどの店頭からバターが姿を消した」というニュースが大きくとり上げられた昨年に続き、今年2015年も、最需要期のクリスマスが近づくにつれて、“バターの品薄問題”が注目を集めています。在庫が増加し、不足感はいくぶん解消されたとは言いますが、価格は高止まりし、供給面には依然として不安な一面を残しています。製菓業への影響も、非常に大きいそうです。普段は実感しにくい「安定供給の重要性」について考えるためには、一つのきっかけとなっていると言えるでしょう。
この安定供給について考える上で、「食品や資源の消費量の内、国内で生産している割合」を示す自給率が、重要な指標となります。多くの食品や資源において、日本の自給率は非常に低く、様々なリスクを抱えています。また、こうした実情を理解している人が少ないことも大きな課題でしょう。そこで、今回のレポートでは自給率への関心の喚起を図るために、年末の一大イベントとして注目の高まるクリスマスをテーマにして、自給率に関するアンケート調査を行いました。また、自給率をはじめとする資源問題に精通する資源・食糧問題研究所の柴田 明夫氏に取材を依頼。日本の自給率の現状やこれからの課題についてお話しいただきました。
■1. “バターの品薄問題”をきっかけに… 食糧・エネルギーの安定供給を考える
はじめに、今回実施したアンケート調査「クリスマスにまつわる自給率に関する調査」の結果を紹介します。20代~40代の男女を対象に行った本調査では、自給率の概念や、クリスマスと関連の深い各資源の自給率に対する人々の意識について調べました。
[調査概要]
調査名 : クリスマスにまつわる自給率に関する調査
調査対象 : 20歳~49歳の男女500名 (※性別・年代別に均等割付)
調査期間 : 2015年11月27日(金)~2015年12月3日(木)
調査方法 : インターネット調査
調査実施機関 : 楽天リサーチ株式会社
◆ 安定供給について考える一つのきっかけに… 4割以上が経験した“バターの品薄問題”
ここしばらくの間、たびたび話題になっている“バターの品薄問題”。今回の調査で、「バターの品薄問題に関するニュースを見たことがある」という人は89%と、実に9割近くにのぼります。また、4割以上の人が「スーパーマーケットなどの店頭でバターが買えなかった経験がある」(41%)と回答しました。一方で、実際にバターが買えなかった経験をした人に聞いたところ、「今回のような安定供給のリスクに気付いていなかった」という人は67%と、およそ7割を占めます。さらに、80%の人が「安定供給のために自給率を上げるなどの対策を行うべきだと思う」と答えました。
ものに満たされた日本社会においては、こうした状況が問題視されることは珍しく、安定供給に関する課題は、なかなか実感されにくいものだと言えるでしょう。しかし、一連の“バターの品薄問題”は、多くの人にとって、自身の食卓における身近な問題として安定供給のリスクについて考える一つのきっかけになったと言えそうです。
◆ クリスマスケーキ&イルミネーション、クリスマスの2大コンテンツに関する自給率から見えてくることとは!?
次に、安定供給の重要なファクターとなる自給率について調べました。クリスマスを盛り上げる、華やかなクリスマスケーキやきらびやかなイルミネーションに不可欠な8つの食糧や資源の自給率について調べました。
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[クリスマスに不可欠なアイテムの自給率]
※ 食料の自給率については、農林水産省「平成25年度食料需給表」のデータによる自給率。なお、飼料作物の自給率による影響が大きい、乳製品、バター、卵については、カロリーベースの自給率。それ以外については生産額ベースの自給率。電力などのエネルギーについては、国際エネルギー機関(International Energy Agency、IEA)のデータ。
・ 小麦:12%
・ 牛乳:44%
・ バター:19%
・ 卵:13%
・ イチゴ:84%
・ カカオ:0%
・ 栗:54%
・ 電力などのエネルギー:6%
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まずは、クリスマスケーキに欠かせない7つの食材の食料自給率について調べました。クリスマスケーキを飾るイチゴは84%と高かったものの、かろうじて50%を超えた栗以外は、スポンジの材料となる小麦や牛乳、バター、卵、チョコレートの原料であるカカオなどの自給率はいずれも50%にも達していません。
それでは、こうしたクリスマスケーキの材料の自給率は、人々のイメージとどの程度一致しているものなのでしょうか。食料自給率について説明をした上で、それぞれの食材の自給率を予想してもらいました。
その結果、イチゴと栗以外の食材において、回答した自給率の平均値は、実際の食料自給率を大きく上回りました。つまり、多くの人が実際よりも各食材の自給率を高く見積もっていることが明らかになりました。日本の食料自給率は想像以上に低いということでしょう。また、特に実態よりも高い自給率が回答される傾向にあったのが、卵や牛乳、バターなどです。輸入した飼料作物に大きく依存する畜産物は、その影響を考慮しなければなりません。その実態は、他の食糧以上にイメージされにくいものだと言えるでしょう。
同様に、イルミネーションには欠かせない電力などのエネルギーについても調査しました。国際エネルギー機関(International Energy Agency、IEA)によると、日本のエネルギー自給率は先進各国の中でもひと際低く、6.0%。OECD(経済協力開発機構)に加盟する先進国34カ国中33位です。
今回の調査では、国名を伏せて先進各国のエネルギー自給率を見せた上で、「日本のエネルギー自給率は何%だと思いますか?」と聞きました。すると、この質問への回答の平均値は「22.6%」という結果になりました。50%以下の自給率を回答した人が90%で、30%以下の自給率を回答した人も約8割(81%)にのぼります。多くの人が日本のエネルギー自給率は低いものだと思っていますが、その実態は人々が思っている以上に低いということのようです。実際に、6.0%という日本のエネルギー自給率を提示したところ、「思ったよりも低かった」という人が67%で、7割近くにのぼります。この結果から、イルミネーションに欠かせない電力などのエネルギー自給率にも、食料自給率と同様の傾向があることが分かりました。
ものが豊かな日本では、日常生活において、食糧や資源の安定供給に関する課題はどうしても実感しにくいものです。今回の“バターの品薄問題”のように、身近なところで何かが起きた際には、是非、安定供給の重要性について考える機会にしてもらいたいものです。
ちなみに、今回の調査において食料自給率、エネルギー自給率という言葉を理解していない人は、それぞれ33%、49%、でした。まだまだ、こうした自給率の概念が世間一般に受け入れられるに至っていないことが分かります。今回の調査の結果からは、改めて、人々への啓蒙の必要性が浮き彫りになったと言えるでしょう。
■2. 資源・食糧問題研究所の柴田氏に聞く、日本の自給率の現状と今後の課題
次に、こうした調査結果を受けて、資源・食糧問題研究所の代表を務める柴田 明夫氏に取材を依頼しました。農林水産省の「国際食料問題研究会」委員など、様々な委員を歴任し、資源や食糧の問題に精通する柴田氏には、日本の低い自給率の現状や今後の課題などについて、“安定供給”というキーワードをもとにお話をうかがいました。
◆ 低い自給率は供給の脆弱性… これからの日本に求められることとは!?
Q. 自給率の低さがもたらすリスクについて教えて下さい。
自給率が低いということは、その供給の多くを輸入に依存しているということです。そのため、海外において何らかの問題が発生すれば、日本国内における供給に重大な支障をきたすこともあるでしょう。こうした供給の脆弱性は、自給率の低い日本にとって非常に大きなリスクだと認識しなければなりません。特に、食糧やエネルギーというのは、生活に不可欠なものです。その安定供給を確保するためには、国家として取り組んでいかなければなりません。
さらに、資源を取り巻く環境も、これからいっそう大きく変化していくことが予見されます。途上国を中心に、世界各地で人口は爆発的に増加し、経済活動が活発化していくことは間違いありません。加速する消費により、食糧やエネルギーはもちろん、水資源なども含めて、限られた資源をめぐる競争は激化していくことが予見されます。海外における資源価格の乱高下は、その一端を垣間見るに十分な事象です。大変動時代を迎える世界需給において、資源の有限性はいっそう重要視されていきます。自給率の低い日本が十分な資源を、安定的に確保することはますます難しくなるでしょう。
◆ 食料自給率の課題は… 農業問題と、TPPなどをきっかけにした海外の食料の新たな参入
Q. 食料自給率の今後について教えて下さい。
今後、食料自給率に影響を与える要因については、内部要因と外部要因の2つに分けられます。
まず、主な内部要因とは、農業問題です。若者の農家離れが進み、高齢化が加速する日本の農家の平均年齢は66歳。稲作農家に限定すれば76歳です。今後、農家の減少が止められなければ、自給率の低下はいっそう進んでいくことでしょう。しかし、こうした流れを早く変えなければ取り返しのつかないことになります。農地の荒廃は不可逆的な要素が大きく、数年間放置された農地を元通りにするためにはさらに多くの年月を費やさなければなりません。農家を減らさないためには、やはり、農業自体の魅力を伝えることが必要です。若者たちが、自身で取り組んでみたいと思えるように農業の環境やイメージを変えていく必要があります。
外部要因とは、外国産の食糧の参入です。今後、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の影響もあり、ますます多くの外国産食品が参入する可能性があります。どうしても割高になりがちな日本の食糧ですので、単純に価格競争では勝てないでしょう。しかし、一方で、“食の安全”について注目が集まっている今はチャンスでもあります。新鮮なものを食べられたり、食品添加物の添加が不要だったりと、食糧にとって地産地消のメリットは非常に大きいです。流通と連携したり、地元文化を踏まえたマーケティングを展開したり、幅広く新たな価値を提供することで、海外の安い商品にも勝てる価値を提供する必要があると言えるでしょう。
安定供給の実現のためには、こうした内部要因、外部要因により変化する環境の中で、食料自給率を向上させていくことが重要です。
◆ 資源・エネルギー戦略の実行で狙う、自給率UPへの道! ポイントは電源構成の多様化と省エネルギー
Q. エネルギー自給率の今後について教えて下さい。
保有する資源に乏しい日本にとっては、エネルギーの安定供給は非常に難しい問題です。その解決のためには、財政赤字・成長戦略の両面から解決の鍵を探らなければなりません。今後の日本の資源・エネルギー戦略では、「安定供給の確保」、「国内資源の活用」、「効率的なエネルギー利用」の3つがポイントになります。こうした動きを実現していくことで、必然的にエネルギー自給率の向上につながっていくものだと考えます。
まず、「安定供給の確保」を実現するには、電源構成の多様化が重要です。発電量の約9割を火力発電に依存している現状ですが、原子力発電や再生可能エネルギーの比率をそれぞれ上げることで、化石燃料への依存度を下げることが可能です。化石燃料は、輸入依存度が高く自給率を押し下げる要因となっているだけではありません。それに加えて地球温暖化の原因とも言われており、国際的な地球温暖化対策の考え方によっては、今後、使用リスクが高まることも想定されます。
運用ルールの整備・安全の徹底は欠かせませんが、代替となる原子力発電については、資源確保などの供給の安定性においては優位性をもちます。長期的には脱原発の方向性もあるとは思いますが、しばらくは一定量の発電は必要です。現在、国内の原子力発電所の大部分は稼働を停止していますが、未来の選択肢を狭めないためにも、また、現存する原子力発電所を安全に運用するためにも、廃炉するものとそうでないものに分けて発電所を稼働させることも重要だと言えるでしょう。
再生可能エネルギーについては、発電時の資源投入が不要なので、エネルギー自給率を上げるためには有効でしょう。ただし、導入促進施策として実施されている再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)は、発電した電気を長期間固定優遇価格で電力会社が買い取ることを国が約束するものですが、電気料金の負担が増加傾向にあるなど、今後、導入量を増やしていくには、まだ課題が残るのが現状です。
また、2つ目のポイントとしてあげた「国内資源の活用」、そして、3つ目のポイントである「効率的なエネルギー利用」は、供給面だけではなく、消費面にも関わるポイントです。上述の再生可能エネルギーを中心とする資源に加えて、省エネ技術などのテクノロジーを活用することも含みますが、4R(再利用-Reuse、削減-Reduce、代替-Replace、リサイクル-Recycle)の4種類のアプローチで消費するエネルギー量を減らすことも重要です。
今後、日本におけるこうした資源・エネルギー戦略を推進していくことができるのであれば、エネルギー自給率を押し上げることが可能になるでしょう。
◆柴田 明夫 (しばた あきお)
-株式会社 資源・食糧問題研究所 代表取締役-
1951年生まれ。東京大学農学部農業経済学科を卒業し、1976年に丸紅株式会社に入社。
業務部経済研究所産業調査チーム長、丸紅経済研究所主席研究員、同所長、同代表を経て、
2011年10月に株式会社 資源・食糧問題研究所を開設、代表に就任。
法政大学大学院政治学研究科国際政治学非常勤講師、日本大学経済学部非常勤講師を務めるほか、
農林水産省の「国際食料問題研究会」委員など、資源や農産物に関する様々な委員を歴任している。
株式会社 資源・食糧問題研究所 HP
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