水不足や猛暑など<異常気象>が続く、2016年…異常気象がもたらす、再生可能エネルギーへの影響とは?専門家・柏木孝夫氏が語る「日本のエネルギー供給」の実態と課題
生活者の意識・実態に関する調査をおこなうトレンド総研(東京都渋谷区)は、このたび、猛暑をはじめとした「異常気象」によるエネルギー需給への影響をテーマにレポートいたします。
冬の雪不足や、6月の少雨による水不足など、異常気象が続く2016年。そして、夏を迎えた現在も、異常気象と言えるような厳しい暑さが続いており、例年以上の猛暑になるという予測もあります。
こうした中で危惧されているのが、エネルギー需給への影響です。特に、太陽光・風力・水力といった再生可能エネルギーは、「異常気象」の影響をダイレクトに受けやすいという問題があるため、エネルギーの供給に大きくかかわってきます。
そこで今回トレンド総研では、この「異常気象」によるエネルギー需給への影響に注目。20~50代の男女500名を対象とした調査および、日本の環境エネルギー分野における第一人者である、東京工業大学特命教授の柏木孝夫氏へのインタビューをおこないました。
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<レポートサマリー>
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【調査結果】 猛暑をはじめとした「異常気象」に関する意識・実態調査
■生活者の87%が「今年の夏は、猛暑だと思う」と回答。
■猛暑が続いて電力需要が増加したとしても、それをまかなう電力の供給力が求められるが、東日本大震災以降、原子力発電所が稼働を停止し、日本のエネルギー自給率は「6.1%」まで下がっており、生活者の62%が「思ったより低かった」と回答。
■こうした中で現在、エネルギー自給率をあげる1つの手段として注目されているのが「再生可能エネルギー」。
■「日本において、再生可能エネルギーをもっと活用すべきだと思いますか?」という質問では、90%が「そう思う」と答えている。
【専門家コメント】 柏木孝夫氏に聞く、「日本のエネルギー供給」の実態と課題
■再生可能エネルギーは「エネルギー自給率アップ」や「CO2排出量の削減」には有効であるものの、不安定かつコントロールが難しいため、バックアップ電源の確保が非常に重要であり、コスト面にも課題がある。
■特定の電源に過度に依存することなく、火力や原子力なども組み合わせた持続可能なエネルギーミックスを考える必要がある。
■資源の乏しい日本では、エネルギーミックスに向けて、「エネルギー自給率アップ」、「コストダウン」、「CO2排出量の削減」の3つの目標が設定されており、達成するためには相当な努力が必要。
■エネルギーの問題は非常に複雑であるため、極端な方向に走ると、どこかで破綻してしまう。国民全体が正しい知識をもってエネルギー問題を理解し、対応していく姿勢が必要。
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【調査結果】 猛暑をはじめとした「異常気象」に関する意識・実態調査
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はじめに、20~50代男女500名を対象に、現在世の中の関心を集めている今夏の「猛暑」を中心とした「異常気象」に関する調査をおこないました。
[調査概要]
・調査対象:20~50代男女500名
・調査方法:インターネット調査
・調査期間:2016年6月28日~7月14日
◆猛暑が続くと「電力不足が心配」、生活者の約7割が回答
まず、今年の「夏の暑さ」について質問したところ、生活者の87%が「今年の夏は、猛暑だと思う」と回答しました。また、「猛暑が続くと電力不足が心配になる」と答えた人も、67%と約7割にのぼっています。
そして、猛暑が続いて電力需要が増加したとしても、それをまかなうための電力の供給力が求められますが、東日本大震災以降、原子力発電所が稼働を停止し、日本のエネルギー自給率は「6.1%」まで下がっています。この数字について一般生活者の考えを聞いたところ、62%が「思ったよりも(ずっと)低かった」と回答。また、「日本のエネルギー自給率をあげる必要性を感じますか?」という質問では、89%と約9割が「そう感じる」と答えました。
◆注目される再生可能エネルギー、90%が「もっと活用すべき」
こうした中で現在、エネルギー自給率をあげる1つの手段として注目されているのが「再生可能エネルギー」です。「再生可能エネルギー」とは、太陽光、風力、水力、地熱など、エネルギー源として永続的に利用することができると認められたものをさします。今回の調査でも、「日本において、再生可能エネルギーをもっと活用すべきだと思いますか?」という質問では90%が「そう思う」と答えています。
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【専門家コメント】 柏木孝夫氏に聞く、「日本のエネルギー供給」の実態と課題
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上記の調査結果をふまえて、今回は「日本のエネルギー供給」の実態と課題について、日本の環境エネルギー分野における第一人者である、東京工業大学「先進エネルギー国際研究センター」センター長・特命教授の柏木孝夫氏にお話を伺いました。
◆夏場の電力供給に貢献する「太陽光」…ただし、安定的なエネルギーとは言えない点に留意
今年は例年以上に暑さが厳しくなるという予想が出ています。猛暑が続くと、当然ながら冷房の使用によって電力需要が増加します。特に、気温が高くなりやすい午後1時~4時くらいの間で電力消費のピークがくる場合が多いです。 そして、電気エネルギーは、貯めておくことができないため、電気をつくる設備は需要のピークにあわせてつくる必要があります。
こうした中で着目されたのが、太陽光発電です。ソーラーパネルなどがある家庭も増えてきたため、特に日中の電力供給においては太陽光発電が大きく貢献するようになってきました。
しかし一方で、太陽光発電ばかりアテにすることもできません。晴天が続けば、それによって太陽光発電の出力が大きくなる可能性は十分にありますが、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーは、コントロールができるものではありません。夏場は天気も変わりやすく、急に曇ったり、雷雨になったりする場合も少なくないため、決して安定的なエネルギーとは言えないのです。
◆水不足は水力発電に影響、一方で雨が続いても太陽光発電の出力低下につながる
また、今年は6月に少雨による水不足が大きなニュースになりました。水不足による渇水時には、当然ながら水力発電に大きな影響が及びます。そして、水不足によって出力が低下した場合、不足分は火力発電などで補わなければなりません。
かといって、雨が多ければよいかというと、そういうわけでもありません。なぜなら、異常気象で雨が続いてしまうと、日照時間が減ってしまい、今度は太陽光発電の出力が低下してしまうことになるからです。ちなみに、風力については、設備によっても違いますが、異常気象で風が強くなりすぎた場合などは、小規模なものだと逆に羽がとばされてしまうことがあり、安全面にかかわってきます。一番安定しているのは地熱エネルギーですが、大規模な面積が必要であったり、温泉などの施設がある地域の場合は地元関係者との調整が必要であったりと、また別の難しさがあります。
◆「再生可能エネルギー」の拡大は電気料金にも影響…
さらに身近な話題として、再生可能エネルギー導入は、不安定かつコントロールが難しいという点だけでなく、「コスト」が大きくかかってしまう、すなわち電気料金に影響があるということを認識しておくべきでしょう。
現在、再生可能エネルギーによって発電された電気は、国が定めた価格により電気事業者が購入しています。そして、事業者が購入した費用については、個人・法人問わず、すべての電気利用者に「賦課金」として、使用量に応じて請求されているのです。この賦課金も、2013年度は0.5兆円でしたが、再生可能エネルギーの拡大にあたっては、約4兆円近くまで増加する見通しとなっています。
市場原理を働かせるために太陽光発電所自体をインターネットオークションにかけるなど、再生可能エネルギーの効率面やコスト面の改善に向けた取り組みも進められていますが、現状では、再生可能エネルギーを推進するほど、賦課金が増えてしまうことになり、国民の生活にも大きな影響が出てしまう懸念があります。
◆自給率アップ・コストダウン・CO2排出量の削減を満たすエネルギーミックスとは?
再生可能エネルギーは「エネルギー自給率アップ」や「CO2排出量の削減」に寄与しますが、前述の通り、不安定かつコントロールが難しいため、火力発電などのバックアップ電源の確保が非常に重要になってきます。また、導入拡大に向けては、コスト面の負担も踏まえた検討も必要です。つまり、特定の電源に過度に依存することなく、火力や原子力なども組み合わせた持続可能なエネルギーミックスを考える必要があります。
エネルギー資源の乏しい日本では、昨年7月、この「エネルギーミックス」について、2030年に向けて3つの目標が設定されました。
まず1つ目が、「日本のエネルギー自給率を25%まで高める」ということ。2013年における、日本のエネルギー自給率は6.1%と言われています。一方で、アメリカは86.0%、イギリスは57.6%、フランスは53.8%。他の先進国と比べると、日本の自給率がいかに低く、海外からの輸入に大きく依存しているかがわかると思います。
2つ目は、「電力コストの引き下げ」です。国は2030年までに、再生可能エネルギーの拡大に伴う賦課金の増加分を、原子力発電の活用や火力発電の高効率化などで補うことにより、現在の水準に比べた電力コストを2~5%程度削減することを目指しています。また、エネルギー資源を輸入に頼らざるを得ない我が国にとって、特定の電源に依存せず多くの選択肢をもつことは、バーゲニングパワー(価格交渉力)の向上にも繋がります。
3つ目が、「CO2排出量の削減」。具体的には、「欧米に遜色ない温室効果ガス削減目標=2013年度比26%減」を掲げ、世界をリードするというものです。「CO2排出量の削減」を目指す上では、運転中にCO2を排出しないエネルギー、いわゆる「ゼロエミッション」の電源が44%程度なければ、目標とする数字の達成は難しい計算になります。
まとめると、「エネルギー自給率アップ」、「コストダウン」、「CO2排出量の削減」。この3つの条件を満たすエネルギーシステムが求められているということになります。
そこで国は、太陽光・風力・中小水力・地熱・バイオマスなどを組み合わせることで、2030年までに再生可能エネルギーの比率を、22~24%程度まで高めるとともに、原子力発電の比率を20~22%の範囲で供給する方針を掲げています。この数値を達成することにより、エネルギー自給率を改善するだけでなく、コスト削減を図るとともに、「ゼロエミッション」の電源44%という目標を達成できることになります。
福島第一原子力発電所事故では、原子力の負の側面が浮き彫りになりました。一方で、化石燃料は二酸化炭素を排出するとともに、資源枯渇の問題を抱えています。再生可能エネルギーも出力が不安定など、それぞれの電源は光と影を持ち合わせています。
暮らしと産業を支えるエネルギーの問題は非常に複雑です。「原子力が是か非か」「再生可能エネルギーを推進すべきか、そうでないか」など、二者択一の中に答えを見出そうとしたり、極端な方向に走ったりすると、どこかで破綻してしまいます。今後の経済成長や雇用などさまざまな要素も考慮に入れて、国民全体が正しい知識をもってエネルギー問題を理解し、対応していく姿勢が必要であると言えます。
<専門家プロフィール>
柏木孝夫(かしわぎ・たかお)
東京工業大学 特命教授・先進エネルギー国際研究センター長
1946年東京生まれ。1970年東京工業大学工学部卒業。1980~1981年、米国商務省NBS(現NIST)招聘研究員などを経て、1988年東京農工大学工学部教授に就任。2007年東京工業大学大学院理工学研究科教授。2012年から現職。経済産業省の総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会長、日本エネルギー学会会長などを歴任。2009年からは経済産業省の「次世代エネルギー・社会システム協議会」のメンバーを務めるなど、国のエネルギー政策づくりに深くかかわる。また、エネルギー・環境システム分野において数多くの受賞歴がある。『スマート革命』(日経BP社)、『コージェネ革命』(日経BPコンサルティング)、『スマートコミュニティ―新たなビジネスモデルを世界へ』(時評社)など、著書も多数。
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