そのマニアックさが逆に良かったのかもしれません
MacやiPhoneなどApple情報専門誌「MacPeople」編集者の山口ひろ美さんは、2004年に株式会社アスキー(現・株式会社KADOKAWA)に入社。「週刊アスキー」の編集者を務めた後、2013年3月にMacPeopleへ異動になりました。「もともとギークではない」という山口さんが、PC雑誌の編集者として活躍するために行ってきたことや、今後の目標等を伺いました。
Q山口さんが編集者を目指すようになった理由を教えてください。
小さい頃から漫画を描くのが好きで、中高時代には漫画研究同好会に在籍していました。高1、高2の2年間は部長だったので、メンバーが描いた漫画を一冊の本に仕上げていくために編集長のような仕事をしていたのですが、その時に漫画を描くよりも掲載順を考えたり、台割を作ったりといういわゆる編集作業の方が楽しいことに気がついたのです。
もう少し才能があったら、漫画家になりたいという気持ちの方が強かったかもしれませんが、それよりも編集作業をしている方が向いているなと思い、自然と就職活動でも出版社を中心に受けるようになりました。当時は就職氷河期だったこともあり、メーカーなど他の業種も含め、全部で100社は受けましたね。
Q100社ですか。それはすごい根気ですね。そして入社されたのが、アスキー(現・KADOKAWA)。もともとPCに興味があったんですか?
いえ。正直、同世代の女の子に比べると少し好きかなというぐらいで、ホームページ作成をしていた程度です。男性の同僚の多くのように、PCやデジタルガジェットが好きで好きでというわけではありませんでした。うちの場合はデジタルが大好きな、いわゆる「ギーク」が多いですからね(笑)。
Qそれでは、どのようにご自身の強みを発揮されていったんでしょうか?
私が入社した当時はまだスマートフォンが出ておらず、いわゆる「ガラケー」が高機能化し始めた時期でした。新卒で配属された「週刊アスキー」でも、PCには関心があるけれど携帯電話に対してはそこまで…という編集者が多く、メインのジャンルではないけれど得意な人がいないならチャンスと思い、ケータイを自分の得意分野とすることに決めました。
例えば、今以上に複雑で分かりにくかったキャリアごとの料金体系など、PCにはとても詳しい他の編集者でも、この辺りについては知識を持っていない人が多かったので、徹底的に調べて比較する特集などを企画しました。
当時は他のウェブ媒体などでもあまりそうした特集はなく、ほとんど独学で勉強していきました。でもそのおかげで知識が増え、「ケータイといえば山口さん」と編集部でも認知されるようになりました。今はスマートフォンの時代になり、当時はメインでなかった分野がすっかりITニュースの中心になったことはラッキーでした。
Q「週刊アスキー」にはどのくらい在籍されたんですか?
入社から9年間です。そして2013年3月に、MacPeopleに異動になりました。週刊アスキーはもともとMacを取り上げる機会が少なく、かつ私自身Macはほぼ初心者で、製品に対する知識はほとんど無くて。初めは私でいいのだろうかと半信半疑でした。
でも専門誌の編集者になった以上、「知らない」では済まされません。まずは自腹で弊社刊のMac初心者向け書籍を買い、その内容を頭に叩き込みながら実際に製品を使っていきました。でも使っていくうちに、「なんだ、Windowsとそんなに違うことはないじゃないか、怖がる必要はないじゃない!」という気持ちに変化したんですけどね(笑)。
私がもともと在籍していた週刊アスキーは、紙媒体だけでなく、ウェブサイト「週アスPLUS」にも力を入れています。MacPeopleも記事を執筆しており、週アステイストとMacPeopleテイストを両方を分かっている編集者として、こちらにも力を注いでいます。
Qこれまで手がけられた企画や特集の中で、印象深いものを教えていただけますか?
2012年の初めから週刊アスキーでスタートした、「花のアンドロイド学園」という漫画コンテンツは思い入れが強く、今でも力を入れている企画の一つです。
2013年9月に、ようやくドコモからもiPhoneが発売になりましたが、それまでは噂が出ては消えの繰り返しで、発売に至るまでは時間がかかりました。この一連の出来事に対し、ツイッター上で、「ドコモの片思いだね」という発言を見かけたんです。
その時に、「片思い」から連想したのは、スマートフォンの擬人化。メーカーや端末を擬人化し、ものすごいスピードで進化する業界事情を描いたら、きっとおもしろくなると思いました。
手始めにウェブサイト「週アスPLUS」上で、擬人化キャラクターの設定資料を掲載したところ、これが国内だけでなく海外でも大受けしました。続いて掲載した4コマ漫画も非常に多くの方から反響を頂きました。そして、「週刊アスキー」での連載が決定しました。
Q反響があった理由について、山口さんはどのように分析されていますか?
数ある萌え擬人化とはちょっと違って、それぞれのキャラクターの名前や性格をかなりマニアックな視点で設定しているので、スマートフォン事情に詳しい方にまず喜んでもらえたところにあると思います。もちろん、漫画なので誰もが読みやすく、スマートフォンに詳しくない方も含め、楽しんでもらえたのではないでしょうか。
会社のロゴを示すようなカチューシャを髪に付けるといったわかりやすい設定だけでなく、日本と海外の合弁であるメーカーなら、その国と日本人のハーフという設定にしてみたり、創業当時の社名やキャッチコピーをキャラ名にしたり。事情に精通していなければ分からない細かい設定もあるのですが、そのマニアックさが逆に良かったのかもしれません。
この連載はとても好評で、私がMacPeopleに異動すると同時に、スピンオフ版をMacPeopleでも連載開始しました。現在、<ahref="http://www.amazon.co.jp/%E8%8A%B1%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89%E5%AD%A6%E5%9C%92-1-%E5%8A%A0%E5%B1%B1%E7%B4%80%E7%AB%A0/dp/4048918125" target="_blank">単行本1巻が出ており、11月27日には2巻も発売予定です。週刊アスキー連載の「花のアンドロイド学園」は最終回を迎え、同じキャラクターが登場する新シリーズ「ひみつのアンドロイド花劇団」が連載開始しました。
この企画に思い入れがあるのは、ゼロから自分が考えたものが形になり好評をいただいたことと、実は漫画家さんが漫画研究同好会時代の友人であり、いつか一緒にやった仕事が形になったらと夢見ていたことが実現したことの二つが大きいように思います。
Q最後に、今後の目標をお聞かせください。
MacPeopleの読者をもっと増やしていきたいですが、Macユーザー自体を自分たちの手で増やすことは難しいです。ただ、MacBook自体は売れていて、Macを使ったことのないWindowsユーザーの購入も多いそうなので、Windowsから乗り換えたユーザーに買ってもらえるようにしていきたいです。私がまさにそれなので、自分の感覚を生かし、いちばん求められている情報を見極めて誌面やWeb記事を作っていきたいですね。
(取材日:2013年9月30日/取材と文:公文 紫都)
山口 ひろ美氏
- 媒体名
- MacPeople