ブロガー歴12年。キャリアのリスクヘッジのため選んだ、広報兼フリーライターという働き方
日本初のHDR写真をテーマにした書籍『HDR写真 魔法のかけ方レシピ』(技術評論社)の著者である石川真弓さんは、週4日は企業広報、残り1日はフリーライターとユニークな働き方をしています。著名ブロガーとしても知られる石川さんに、ライターと広報を兼務するメリットを聞きました。
大学時代から、
「これからはインターネットで表現する時代になる」と考えていた
Q現在広報担当会社員兼、フリーライターとして働いていらっしゃいますが、ものを書く仕事に興味を持ち始めたのはいつ頃ですか?
学生時代です。将来は新聞記者になりたくて、大学では政治学を専攻したり、朝日新聞や産経新聞など全国紙の社説を読み比べしたりしていました。
同時期にインターネットとも出会い、そちらへの興味も持ちました。その頃は、ウェブ上の掲示板や日記を通じてサークルメンバーと交流したり、自身でも「URAMAYU」という今のブログの前身となるインターネット日記を始めたり。少しずつですが、インターネットを使った情報発信に目覚めていきました。
今、当時の日記を読み返すと、「今日ビールを3本飲んだ。酔っ払った」みたいな、しょうもない内容ばっかりなんですけどね(笑)。「URAMAYU」は現在も続けていて、開設から12年になります。
大学卒業後、新聞記者にはなれませんでしたが、「これからはインターネットからの情報発信が主流になる時代がくる」という気持ちが強くなっていたことから、ウェブ制作会社に入りました。
QURAMAYUをスタートしたのが12年前というと、ブログが日本で浸透する以前ですよね。長きにわたってブログを継続してこられたコツはありますか?
もう生活の一部みたいになっているので、意識して続けるためのルールを設けているわけではないのですが、更新頻度が少なくても多くても、特に気にしないことですかね。ブロガーさんによっては書くジャンルやテイスト、文体までしっかり決めていらっしゃる方もいますが、私はあえて決め込まないことで、好きな時に好きなことを書けるようにしています。
著名ブロガーのマネをし、一躍自身も人気ブロガーに。
外部ブログでの翻訳業もスタート
Qご自身のブログが注目され始めたきっかけは、何だったのでしょう?
2008年に、ブログ・CMSツール「Movable Type」を開発しているシックス・アパートに、広報・マーケティング担当として入社しました。ブログの会社として有名だったため、著名なブロガーさんと親しくさせていただく機会も次第に増えていきました。皆さんが私のブログを紹介してくれるようになったことが一番大きいのですが、私自身、彼らのようになりたい! とブログの運営スタイルを変えていったことも、たくさんの方に知って頂くきっかけになったと思います。
それまで使っていたブログのツールを変えたり、著名ブロガーの皆さんがやっていらっしゃるような、「読まれるブログになるためのコツ」をマネてみたり。いち早くTwitterやFacebookなどの当時黎明期だったソーシャルメディアを使って、ブログが読まれる範囲を広げたことも良かったかもしれません。
シックス・アパートにも、著名ブロガーがいます。彼らはシックス・アパートでの本業以外に、副業的に自身のブログで収入を得ることもしています。彼らのそうした生き方・働き方に憧れを抱き、自分のブログに「Google Adsense」を導入してみたり、副業で外部ライターの仕事を始めたりしていきました。
Q外部ライターの仕事というのは、具体的にどういったものなのでしょうか?
シックス・アパートには「ギズモード・ジャパン」の初代編集長である、清田いちるさんが在籍しています。私は大学時代、1年間イギリスに留学していたこともあり、「ギズモード・ジャパン」で和訳記事を手がけてみたいと、いちるさんに相談し、仕事を頂くようになりました。
シックス・アパートは本業外の時間であれば、副業は禁止していません。土日や昼休みを使い、英語の記事を咀嚼し、ギズモード・ジャパンのコンテキストに合わせて翻訳する記事を手がけていきました。
Qところで、どうして副業=ライターに興味を持つようになったのですか?
もし自分が病気になった時や、出産、子育てなど、何かしらの事情で会社にいけなくなった場合でも、ライター業であれば在宅という道を選択できます。それに海外への関心もあったので、場所を選ばない優位性にも魅力を感じました。
シックス・アパートを退職した後、主人と二人で世界一周旅行に出かけ、その体験記をブログで発信しました。「世界一周しても価値観なんか変わらない」というタイトルの記事は、いろんな意味で炎上もしました(笑)。
本業と副業を両方持つことで、キャリアにリスクヘッジができる。転職した今でもこの考え方は変わっていないので、週4で企業の広報をしつつ、残り1日はフリーライターとして活動しています。
書いているジャンルは、得意としているITやガジェット、また世界一周の経験を生かした旅行記事など。どちらかというと、男性っぽい話題の方が多いですね。
自らメディアに企画を持ち込むこともあれば、メディア側から声をかけられることもあります。先日は、米国で開催されたテック系のカンファレンスに取材で行ってきました。
また顔出しOKのブロガー(ライター)なので、自らモデルとなって記事中に登場したり、ブロガー向けの製品発表会に呼ばれて、自身のブログで紹介したりすることもあります。
Q普段記事を書く上で意識されていることや、これまで手がけた記事の中で印象に残っているものがあれば教えてください。
今手がけている翻訳記事の仕事では、ガジェットに関する最新の英語記事を日本語に訳すことが多く、自分の関心ごとを仕事にできる絶好の機会です。
気になった商品の英語記事をひたすら訳していると、どんどん知識がつき詳しくなります。翻訳で得た知識は、日本人読者にも有益な情報になるはず。いつもそういう観点で、いち早くガジェットを手にしたアメリカ人の感想を訳し、自分の主観も交えながら日本語の記事にしています。
ある時、興味を持って購入を検討していた斬新なカメラがあったのですが、そのレビュー記事を書き終えると、「やっぱりこれいらないや」と気持ちが切り替わりました。歯に衣着せないアメリカ人の毒舌レビューに向き合い、その商品の知見を得た結果、今の自分には必要ない商品だという判断になって。自分自身が気になっていたガジェットのレビュー記事は、色々な意味で印象に残りますね。
HDR写真で世界中を撮影し、
書籍執筆にまで発展
Q企業の広報とフリーライター、2つの仕事をすることによる相乗効果はありますか?
たくさんあります。もともとシックス・アパート時代から、外部の人と積極的に会うようにしていたので、業界ではかなり多くの方と知り合うことができましたが、今も取材や個人的な活動を通して得られる新たな出会いを本業にも活かせています。
たとえば東京・渋谷にある「FabCafe」の広報も仕事のうちのひとつなのですが、先日米国取材に行った際仲良くなった方と、今度「FabCafe」とコラボレーションをしましょう! という話になりました。FabCafeは外部とのコラボレーションイベントも大事な収益源なので、私の個人的な活動が仕事につながっていくことは、嬉しいですよね。
勤め先であるロフトワークは私のこうした個人活動に興味を持ち、週4日という働き方を認めてくれているので、ライターとして、どんどん外に出て行くことは意味があると思っています。
Q石川さんは、「HDR写真 魔法のかけ方しシピ」という本を出版され、各方面で話題を呼んでいます。どうしてHDR写真に興味を持ち、本を出すまでに至ったのでしょうか?
iPhone 4の標準カメラにHDR撮影モードが搭載された時から、興味を持ち始めたのですが、日本では、HDR写真が全然メジャーではなかったので、外国のブログの参照や、自身でもHDRに関する英語記事を翻訳しているうちに、どんどんハマっていきました。ちょうど世界一周旅行を控えていたので、世界中をHDRで撮る! と決め、実際にたくさんの写真を撮りためました。
HDRの技術自体は100年前からあるのですが、日本では詳しく書かれた書籍はありません。それだったら自分で書いてみたいと、書籍のプロデュースをやっている方に相談し、プロジェクトが始まりました。
その方と、何度も何度も企画を練り、これなら出版社に持ち込めるだろう! となった時点で、技術評論社に話を持って行きました。初めは、「面白そうな企画ですが、市場がニッチだから冒険ですね」というリアクションでしたが、最終的には、「たまにはこういう尖った企画もいいですね」とOKを頂き、企画から1年以上を要し出版することができました。
Q特にこだわった点を教えて下さい。
ひとつは書籍で使っている写真は、世界一周旅行で撮りためたものを中心に、全て自分の作品にしたこと。文章も全部オリジナルです。もうひとつは、HDR写真集的に楽しんでもらえるよう、写真を綺麗に見せられるような本の判型やレイアウトにしたことです。
写真好きな方はこだわりが強いことが多く、書籍を出すまでは、「こんなの写真じゃないよ」とネガティブな反応が来るんじゃないかと恐れていました。けれど、実際本を出してみたら、「丁寧に書かれている」「面白い」と、ポジティブな反応が返ってきたんです。
一番印象に残っているのは、プロのカメラマンに、「これはずるいですよ、やられました」と一言頂いたこと。それまで自分としては普通にやっていた写真の編集の数値設定が、プロのカメラマンからすると、「かなり振りきれている、プロはここまで思い切ってやらない」のだそうです。これも本を出してみたからこそ分かる発見ですね。
Qいろいろと活躍されている石川さんですが、これからの目標は何でしょう?
ライターとして、時間の許す限り色々な媒体にチャレンジしてみたいです。今はウェブが中心ですが、機会があれば雑誌でも書いてみたいと思っています。
(取材日:2014年11月27日、取材と文:公文 紫都)
石川 真弓氏
- 媒体名
- ブロガー
- プロフィール
- 株式会社ロフトワークに所属、広報兼プランナー。デジタルものづくりカフェ「FabCafe」やロフトワークのメディアリレーション、コミュニケーション戦略プランニングの実施に従事。一方個人ブログを続けて12年、本業の傍らギズモード・ジャパンなど多数Webメディアのライターを務める。執筆した書籍に『HDR写真 魔法のかけ方レシピ』(2014年 / 技術評論社)。
会社員とライター・ブロガー・HDRフォトグラファーという複数のわらじを履いて生きている。
媒体:「URAMAYU」「roomie」「マイナビウーマン」「DMM.make」「ギズモード・ジャパン」「Engadget」など