もし番組に人格があるとしたら、『めざましテレビ』は、家族の一員でありたい
朝の老舗情報番組『めざましテレビ』のプロデューサー石塚大志さん。「常に進化する」を合言葉に“家族の一員となる番組”づくりを目指し、20年目を迎えた今年も、見やすさ・親しみやすさを追求したリニューアルを続けています。報道から情報局、そしてプロデューサーへ。多彩な経歴を持つプロデューサー石塚氏にお話を伺いました。
Qまずは『めざましテレビ』のプロデューサーになられた経緯から教えてください。
もともとは報道志望でフジテレビに入社しました。昔からミステリー小説に登場する新聞記者に憧れていたのですが、それが本格的に報道業界への志望に変わったのは、95年に起きたある事件ですね。当時、関係者は毎日のように「自分たちはやっていない」と言っていました。それでもメディアでは、怪しいというトーンで報道していました。恐らくこれは、メディアの人たちが独自に情報を持っていて、判断しながら報じているのだろう、そこには小説のような世界があるのではないかと。だとしたら、私はそうした情報を一番最初に知る人になりたいと思ったのです。
入社後は報道局に配属になり、希望通り事件記者や裁判所担当の記者も経験しました。その後、情報制作に異動になり、現在は『めざましテレビ』の仕事をしています。
Q入社してからの17年間で、一番印象に残っている仕事は何ですか?
私が報道にいた頃、ある殺人事件がありました。当時、疑惑発覚から逮捕されるまでの間、容疑者自身が経営に関わる飲食店で、毎日のように有料会見を開いていました。記者が数十人集まるので、飲食店で働いている女性達が面白がって、”いい記者ランキング“なんていうものを始めだしたのですが、実は私、毎週ランキング1位でした。”いい男ランキング”では9位にランクダウンしてましたけど(笑)。フランクに接していたためか、容疑者から「石塚くん、単独インタビュー取るかい?」と声をかけられ、初の単独インタビューをとることができました。
また、私が報道に興味を持つきっかけとなった事件。報道にいる間は記者として関わることはありませんでしたが、ずっと気になっていたので、情報制作局に異動してから拘置所に入っている関係者達に手紙を出しました。長年文通のやりとりをし、拘置所で接見もしました。会ってみると穏やかな人達で、なぜこんな人が殺人を犯したんだろうと思ったのを覚えています。
それらのやり取りは、当時担当していた情報番組でオンエアされました。結果的に心の闇にまで十分迫れたとは言えませんでしたが、やりたかったことがやっとできたかもしれないと、個人的に何か一区切りついた、そんな仕事でした。
Q報道局と情報制作局、両方を経験された石塚さんが考える両者の違いとは?
両者とも一見同じような番組を作っているように見えますが、少し違いがあります。報道局にはある程度ジャンル(事件、政治、経済、外信)があって、担当記者達が日々省庁や政治家と向き合って情報を仕入れて放送します。一方、情報制作はノンジャンルです。たとえば今日、政治ネタを担当したディレクターが、明日には新発売の飲み物について特集しているかもしれません。ニュースもきちんと扱いつつ、そこに収まらないジャンルも形にしていくのが情報制作局です。報道が正規軍だとしたら、情報番組はどこにでも出没するゲリラ軍のようなイメージです。
報道をやっていた頃は気づいていませんでしたが、歳を取って、家庭を持って、子供もいる立場になってくると、皆が皆、事件の情報を求めているわけではないのだと実感しました。皆がハッピーになれたりワクワクするような話題にも役割があることに気付いたので、今はそこを追求していきたいなと思っています。
Q他の情報番組にはない、『めざましテレビ』ならではの取り組みはありますか?
2011年から、オンエアの流れとは別に、毎日午前11時に、“つぶやき会議”というのが行われています。ディレクターやADが、各自ちょっとしたネタや気になる話題を持ち寄って、文字通り“つぶやく”だけの会議です。ここではネタの内容に関する詳細な説明は必要ありません。思っていることを言うだけ。
これまでなかなかネタの決定に関われなかった若いスタッフでも、“つぶやき会議”で発言して「面白い!」と判断されれば、そのネタがすぐに放送につながるシステムを作っています。番組作りに年齢やキャリアは関係ない、という方針でやっています。この“つぶやき会議”のおかげで、これまでの情報ソースになかったような新鮮なネタがどんどんオンエアされるようになってきています。
最新の情報を知る手段は、私自身もネットを参考にしたりします。しかし、テレビでは速報や一次情報だけでなく、面白い切り口の価値が高まってくるのかなと思います。“つぶやき会議”があれば、古くなってしまったように見えるネタでも「面白い!」「知らなかった」と敗者復活の余地があります。『めざましテレビ』独自の良い取り組みだと思っています。
Q石塚さんが思う、今後『めざましテレビ』が目指す姿というのはありますか?
もし番組に人格があるとしたら、『めざましテレビ』は、家族の一員でありたいと思っています。朝の食卓があって、家族団らんの空間に『めざましテレビ』が流れている・・・というのが理想です。目指しているのは、マンションの隣のご夫婦よりも親しい存在。近所のおじさんより身近な存在。三宅アナは「お父さん」、生野アナや加藤アナは「姉妹」といったように、一つ屋根の下に住む家族の一員であるように感じていただきたいですね。2013年4月の改編で番組の画面が変わったのですが、とにかく柔らかく、受け入れられやすいように、デザインや色味、字体を全部変えています。なるべく自然な感じが出るように、鳥のさえずりや水の音が随所に流れています。
人によって役立つ役立たないはあると思いますが、気分がウキウキするようなコンテンツを発信していきたいですね。
Q広報担当者との付き合いの中で印象に残ったエピソードはありますか?
個人的には、深くお付き合いしている広報担当者さんというのはいないんですよね。大変申し訳ないのですが、お会いして仲良くなっちゃうと、情が移ってしまって判断の目が曇ってしまうのではないか、と思っているところがあるんです。
お会いしない代わりに、と言ってはなんですが、毎日100通近く来るメールやFAXには全て目を通しています。ただ、それだけあるとタイトルだけ見て読むか読まないか判断することが多くなります。なので、タイトル・件名にはキーワードを書いていただけると助かります。それから、中身には写真が欲しいですね。テレビは何よりビジュアル重視なので。会場に行ったらどんな画が撮れるのかわかると有り難いです。見た目で面白さが伝わってきたら、私はそれをネタの料理会議に出してプレゼンしています。
私たちテレビスタッフというのは、素人の集まりです。私らを小学1年生の子供だと思って、「パパはこんな商品作ったんだよ」と、できる限りわかりやすく教えてもらえると嬉しいなと思います。
(取材年月:2013年4月2日)
石塚 大志氏
- 媒体名
- フジ『めざましテレビ』