現場記者が語る!メディアから見えるスタートアップの「今」
2014年12月16日、設立して間もないスタートアップ企業やベンチャー企業の中から今後の成長が見込める企業を選び表彰する「CNET Japan Startup Award」が開催されました。 当社も協賛し、イベント内で行われるセッション「メディアから見えるスタートアップの『今』」を開催。 ビジネス誌、専門媒体、大手新聞社、それぞれの分野で活躍する現場記者が、今年注目したスタートアップや、これから注目していく分野について語りました。
Q司会
朝日インタラクティブ株式会社 CNET Japan編集長
別井 貴志 氏
Q登壇者
朝日新聞社 デジタル編集部 記者/編集者
古田 大輔 氏
東洋経済新報社 編集局 企業情報部記者
田邉 佳介 氏
株式会社THE BRIDGE 代表取締役/編集長
平野 武士 氏
朝日インタラクティブ株式会社 CNET Japan編集記者
藤井 涼 氏
別井:本日は各媒体の現場で毎日取材活動をしている方々にお集まりいただきました。では、簡単に自己紹介を。
古田:朝日新聞の古田です。朝日新聞といえば新聞ですが、日本で有数のウェブメディアも持っています。僕の担当は、デジタルジャーナリズム。浅田真央さんの「ラストダンス」や、12月に開催された衆院選の「投稿マップ」なども手がけました。
田邉:東洋経済の田邉と申します。通信、モバイルを中心に、幅広くやっております。週刊東洋経済は、120周年のオールドメディアです。戦時中も疎開しながら発行していたそうです。編集局には記者が100人いまして、上場企業には必ず担当の記者がつきます。また、2012年にオンライン版がリニューアルしました。今年の秋から編集体制を強化しまして11月時点で月間8,600万pvまで上昇することができました。
平野:2010年の6月から、起業家と投資家のマッチングを目的にプロジェクトを立ち上げまして、イベントとメディア運営をやっています。5人のライターが中心になって書いています。僕らの目的は他のメディアさんとはちょっとちがっていて、ジャーナリズムやニュースを出すことではなく、起業家と投資家をつなぐという事に集中して全てのプロジェクトを組んでいます。そのために会員制度を設けてコミュニティを作っています。
藤井:CNET Japan編集記者の藤井と申します。担当している領域は、ウェブサービス全般。大企業からスタートアップまで。あとはモバイルを担当しています。普通に記事をあげるだけではつまらないので、ウェブならではの表現として、読者参加型の2択コンテンツ「Cnetどっち?」などをやっています。スマホのフリック入力でも記事が書けるスマホライターとして頑張っています。
メディアが気になるスタートアップ企業
Q2014年に最も注目した企業・サービスは?
古田:キュレーションメディアですね。ニュースのあり方を変える力のあるものなので。これからどう伸びていくのか、またどのようなグローバル展開をしていくのか。引き続き見ていきたいと思います。
田邉:やっぱりメディアが気になります。たとえばグノシー。取材したときにCOOの竹谷さんが仰っていたのですが、日本に尖った情報を求めるユーザーは多くないっていう取材の話が印象的でしたね。
藤井:全自動会計ソフトfreee(フリー)とか。あとBrainwars(ブレインウォーズ)に注目しています。言語に依存しないグローバルなサービスですね。LINEが出資していたり、横展開に期待できると思います。最近はゲームの種類が増えてきて複雑なものが多いので、直感的に使えるものが増えるといいなぁと思ってます。
平野:よくこのご質問いただくのですが、回答に困るんですよね。取材しているし、全部注目しているから(笑)。でもあえていうと、リフォーム&インテリア情報のiemo(イエモ)。サービスもすごくて、創業して8ヶ月でバイアウトして注目されましたが、それ以上に代表3回変えてるんですよ。あ、あんまウケないですねこれ(笑)。
こういうサービスでこういうビジネスモデルなんだろうなと想像していたけど、取材に行ってみると全然違っていたというギャップがある企業が面白いなと思います。
たとえば株式会社うるるが運営しているシュフティというサービス。主婦のクラウドソーシング。クラウドソーシングはビジネスモデルが難しくて利益がなかなかでない。しかも、主婦を活用しているということで、社会的意義はあるけどビジネスとしては難しいだろうと思っていたんです。
でも取材に行ったら想像と全然違うビジネスだった。もともとうるるはアウトソーシングをやってる会社です。ビジネス的には入札情報のDBを作り、そのアカウントを企業に売るというモデルのサービスも運営しているんです。それが好調だと。その入札情報って、オンライン情報でもあるんですが、見つけづらい。その情報を主婦の方たちを使って集めていたんです。という仕組みを聞いてなるほどと。
リアリティを感じるビジネスが来る
Qこれから注目したいスタートアップのサービス・業種は?
古田:キュレーションメディアにはこれからも注目したいですね。グノシーやスマートニュースは成長が目覚ましく、NewsPicksやLINEなどもあって、新しく作るの難しくない?という雰囲気が出てきてると思うんですが、全然そんなことはない。まだまだいくらでもやりようがあるし、もっといいものは必ずできる。既存サービスもより良くなっていきますが、新しいやり方も出てくるんじゃないかと思っています。
ヤフーがいて「検索の時代は終わった」と言われていたときにグーグルが現れて、全部持っていったわけですよね。だから来年新しいキュレーションが現れて全部持っていくのはあるのではないかなと。
情報過多の時代に自分が欲しい情報だけに絞るっていう時代の要請は、今後もっと重要になるので。この需要が落ちることは絶対にないので、ぜひいろんな会社がチャレンジしてほしいなって思いますね。
情報のキュレーションは、自社でも取り組んでみたい分野です。朝日新聞はデータベースに100年以上の間の記事と写真があり、それらを活用できます。withnews(ウィズニュース)という新しい媒体でも、自社の記事を再活用しています。アルゴリズムにも挑戦したいし、記者が2千人いるので、記者が担当分野をキュレーションすることもありえます。
平野:ちなみにキュレーションメディアなどが記事を掲載してPV持っていくのを、「こんちきしょう」って思わないんですか?
古田:思います(笑)。でも同時に有難くもあります。グノシーが始まった当初、面白いなと思って取材に行った時に、「あちこちから情報集めるのが面倒臭いから作った」と仰ってた。その時にこれはくるなと思いました。そういう人って実際多いだろうし、わざわざ朝日デジタルまで訪れないし、僕のツイッターも見ないと思うんです。そういう人にリーチする最後のところをつないでくれた有難さはあります。ただ彼らの手柄と言われるとすごく悔しいですよね。読んでいる記事は、僕らが現場で走り回って取材した記事なんだよっていう事をぜひ忘れないでくださいね(笑)。
田邉:言語を超えるサービスっていう意味ではBrainwarsがすごいなと。あとは本社が米国のKaizen Platform(カイゼンプラットフォーム)なんかも面白いなと思ってます。あとは車椅子ベンチャーのWHILL(ウィル)。あれは先日初めて乗ってみたんですけれども、本当に楽しいんです。
藤井:KDDIのSyn.(シンドット)などに注目しています。先程出たグノシーなど、ヤフーに代わるスマホのポータルを目指す流れが来ていると思います。
面白いなと思ったのは、ユナイテッド株式会社のCocoPPa(ココッパ)。スマホのアイコンや壁紙を変えられるサービスなのですが、年内にCocoPPaホームというのを出すんです。それを聞いて、一番のポータルというのはスマホの画面なのではないかなと。それぞれのサービスがポータルを目指すとそれを使っていないユーザーにはそっぽを向かれてしまう。Facebookしかり、プラットフォームは使わないと浸透しないけれど、プラットフォームとしてホーム画面を提供するという形が次は面白いんじゃないかなと思います。
別井:まぁそこは以前PCがプリインストールソフトなどで散々やってきたところですよね。スマホで難しいのはAppleが牛耳っているところですかね。
平野:「クリック&モルタル」って言葉覚えている方いますか?インターネットと現実の店舗や流通機構を組み合わせるネットビジネスの手法で、2000年頃出たのですが、あれが今ようやく実現できてるんじゃないかなという次元に入ったと思います。
先ほどのシュフティとか、弁当を運ぶサービスなど。一見するとIT関係ないんじゃないかって思うんだけど、実はスマホですぐに位置情報がわかったり、テクノロジーの変化があったからこそできるようになったものたちです。
リアリティのあるサービスは注目していますね。この前インフィニティ・ベンチャーズ・サミットでビックリしたのが、Farmnote(ファームノート)。牛の状態を記録していくノートアプリ。ウェブリテラシーの壁が高いと言われてた人たちでもテクノロジーを活用するようになったというのがすごいなと。来年はリアリティ溢れるビジネスがどんどん変革されていくんじゃないかなと思います。
別井:私も同感で、ITを活用したサービスは興味がありますね。リテラシーを求めなくても使えるサービスっていうのは重要ですよね。
社会へのインパクトを見ている
Qスタートアップの記事を書く際に注意している点、意識している点は?
古田:新聞社ってスタートアップの記事が少ないんです。理由はふたつあって、新聞社の経済部が相手をしてるのは大きな企業。で、単純にスタートアップの担当者がいない。スタートアップって業界が横串なので、一括して担当する記者がいないんです。あともうひとつは規模の問題。業界トップ何社の会社を取材していると、何千億という売上げ規模の会社をあげている中で、数十億の会社に取材するインセンティブが弱いんです。
じゃあなんで、朝日新聞がスタートアップを書くのか。それはマーケット規模です。今は小さくても将来性が大きいもの。もうひとつは、新聞社は公共性を考えるので、社会に対してどういうインパクトを与えるのか。その2つに注目して取材しています。以前と違い、スタートアップをカバーする記者もでてきたので、記事は少しづつ増えています。
田邉:担当者の問題はありますね。上場したら担当がつくんですが、上場前は担当がない。でも、じゃあ例えば、楽天を担当している人がメルカリを知らなくていいかっていうとそうではない。そこでスタートアップの取材をすることはあります。書くときに注意しているのは他メディアで注目されている会社でも財務状況を見てみたら赤字。これ次調達できなかったら債務超過になってるなとか、その辺の数字はよく見るようにしていますね。
平野:大きいメディアさんと僕らの視点って全く違っていて。実際オフィスにみなさん行きます?私は絶対オフィスに行くんですが、びっくりするくらいわかるんですよ。
一番きつかったのは、オフィスに行ったら、造花に埃かぶってるとか、全体的に死んだような雰囲気のオフィス。やっぱりそういう企業はほとんどが死ぬんですよね。意外とあんまりプロダクトとかは見なかったり。明日いなくなるかもしれない人たちですから、これっきりという可能性は高いので、サービス以外のところをじーっと見たりしますね。
Qスタートアップを取材していてこれは困ったというエピソードは?
別井:まあこれはスタートアップに限った話だけではないと思いますが、みなさんいかがでしょうか。
田邉:広告と勘違いして、記事の修正を依頼されたりすることがありますが、私たちは媒体の評価とか、何か付加価値をつけて出そうとしている。メディアとして感じたことを通じて出すのが私たちの仕事です。そうじゃなければプレスリリースでいいですよね。そこはわかっていただきたいと思いますね。
古田:記事掲載しましたーと連絡したら見出しを変えてくださいって言われたことがありますね。いやいや、広告ではないので無理ですと。あとは、新しいプレスリリースだなと思ったのは、プレスリリースに見出し案がいくつか書いてあったりね(笑)。
別井:これはメディア側も悪いところもあるかなと思いますね。実際に言われるまま載せるところもありますからね。
古田:プレスリリースに連絡先が書いてあるのに、連絡もせずにプレスリリースからそのまま記事を書く人たちって結構いるんだなということをつい最近知ったんです。そういうことはメディアで気をつけないと、最終的に自分の首を絞めているなって思いますよね。
別井:ところで、ビジネスマナーって気になります?
平野:どうなんですかね。学生さんに会う機会がたくさんありますが、逆に僕の方が名刺忘れていったりします(笑)。ビジネスマナー完璧な人に出会うと、名刺の渡し方とかパニックになりますね。
別井:別に間違えたりしたら注意してあげればいいだけの話なんじゃないのとは思いますけどね。
藤井:僕はFacebookメッセージでプレスリリースが来ることが多いです。モバイルで見れて便利なのだけど、土日に来たりとか、お酒飲んでいる時に来たりすると頭を切り替えられなくて。便利なのですが、公私混同っていうのは悩ましいところでもあります。
平野:初めて取材を受ける方ばっかりなので、資金調達の話とか言ってくれないどころか、逆に正直に全部言い過ぎることがあるんです。株式の割合とか。それ言ったらダメだよって注意する時はありますね。
スタートアップが未来を創る
Q最後に、スタートアップの皆様へメッセージを。
古田:去年の新経済サミットで500 Startups(ファイブハンドレッド・スタートアップス)のジョージ・ケラマンさんがいらっしゃっていて「この会場にいる中で、起業家は立ってください」と言ったんです。立たせて「あなたたちは出る杭です。あなたたちがこの日本を変えていくんです。みんなで拍手をしましょう」と言って起業家を盛り上げたというエピソードがあるのですが、その後にジョージさんと話をする機会があって。スタートアップの人たちが未来を作っていくんですと。スタートアップの人が思い付いたアイディアが世の中を変えるかもしれないと思っていると仰っていました。ソニーだって、最初は小さな会社からのスタートでしたよね。
これまで大企業に頼っていた日本が変わるインパクトもあると思います。たとえばフィンランドはノキアが傾いて、国を挙げてスタートアップの土壌を育てて社会構造を変革させようとしている。現地の方に聞いたら、昔は大学生に就職の希望を聞いたら、ノキアに入りたいと言っていたのが、今は起業したいっていう人が多い。日本もそうなっていくと面白いし、ここにいる皆さんがそれを体現しているなと。頑張ってください。
田邉:エバーノート社のCEOフィル・リービンさんが仰っていたので印象的なのが、「日本のスタートアップは日本の会社という意識を持っている。サービスがうまくいけば海外に出たいという考えがあるようだが、シリコンバレーのスタートアップは米国の会社という意識を持っていません」と。始めからグローバルでサービスを展開する意識を持つことが大切なんだとおっしゃっていました。
また、ジャック・マーにお会いしたことが僕の自慢なのですが(笑)、ヤフーの無料革命がある前に孫さんがジャック・マーに相談したとき、彼は「ゲームを変えるべきだ」と言ったそうです。今それで負けているなら同じやり方では負ける。下位だからこそ小さいからこそ上位に勝つやり方があって、そのやり方を変えるべきだと語ったそうです。
ジャック・マーの顔ってすごいってみなさん仰るんですが、きっと決意とかやりたいことが詰まっている顔なんだなと。そういう顔になったときに、いい投資家がでてきて、助けてくれる人達もいろいろでてくるのかなと。
藤井:僕はヤフーの宮坂社長の言葉で、「迷ったらワイルドなほうを選べ」という言葉が好きです。もし周りに事業を起こしたいと悩んでいる人がいたら、起業の背中を押してあげてほしいなと思います。あとリリースはメールではなく、Facebookメッセージで送っていただければと。飲んでる時は返せませんが、情報お待ちしています(笑)。
平野:メディアの役割というのがあります。私たちTHE BRIDGEの役割は「説明のコストを下げる」という一点に尽きると思っています。起業家と投資家の人が出会うと、彼らは雇用を生んで経済的なインパクトを生んでくれる。経済的な部分では、最近安定期なのか元気ないねという話もありますが、それを打開してくれるのは、やはりものを作って雇用を生んでくれる方々です。
彼らを取材しなくてはいけないという側面もあるから、自分もTHE BRIDGEを創業して運営してきました。時間がないしお金もないし人もいないしという厳しい状況の中で雇用を生んで、経済的インパクトを与えるというチャレンジをしている方々ですから、メディアは、少なくとも私たちは、応援したいと思っています。
大手のメディア、テレビ、新聞、ラジオといったマスメディアには、最初からリーチできるわけではないので。そんな時に私たちのようなメディアを窓口にしていただいて、やがて大手メディアに取り上げていただいて、どんどん説明のコストを下げていっていただきたいなと思っています。
別井:よくプレスリリース講座に呼ばれた時なんかに話しているんですけれども、メディアを一括りにしてくれるなと。
メディアもメディアごとに性格が違うし、現場の人間のキャラも違うんです。だからどういう風にリレーションするかはメディアごとに最適化して欲しいですね。今日は4媒体の現場の記者の方に来ていただきました。どんな人でどういう媒体なのかということが伝わっていけば良いなと思います。ありがとうございました。