今さら聞けない!?「世界一の朝食」billsの巧みな広報戦略
「世界一の朝食」で有名なレストラン「bills」。実はスポーツマーケティングなどに強いPR会社「サニーサイドアップ」が運営している事をご存知でしょうか。社会の中で流行らせるためには、物自体の良さはさることながら、ベストタイミングで策を打つ事が重要です。「bills」はまさにその良い例。PR会社が直に仕掛けたとあって、流行となる要素が様々見られます。今回はその要素について、見ていきたいと思います。
「世界一」だけでは当たり前
「bills」は「世界一の朝食」として有名です。私たちは日常生活で「○○No.1」という謳い文句をよく耳にするのに、何故この「世界一の朝食」はトレンドとなったのでしょうか。世界のセレブがオーストラリアで味わっている。ニューヨークタイムスが取り上げた。など注目すべきポイントは多々ありますが、「朝食」という視点もトレンドとなる要素の一つだと思います。
日本では朝食を食す人が減る傾向で、外でゆったりと朝食を食べられる有名な場所は、数えられる程度のホテルぐらいしかありませんでした。大きく注目されていなかった「朝食」カテゴリーに「bills」が登場した事は、ある意味新しい市場が開拓されたという事。人々の目には非常に新しく映ったと思います。日常にある「朝食」が「贅沢な時間と空間」に代わる事で、人々の憧れとなれたとも言えます。
「家族のためのウィークエンド朝食」という親しみやすい温度感
「bills」のオーナーシェフ、ビル・グレンジャー氏はお店の看板メニューであるスクランブルエッグを「最初は娘のために作った」、「コンセプトは"ウィークエンドの朝食"」と言っています。「bills」は、その言葉から感じられる通り、普通の人の手に届かない高級感ではなく家庭の温かさを感じさせるブランディングをしているのです。実際にお店ではファミリーでの来店を歓迎。子供でも心地よく過ごせるように工夫しているそうです。程よく親しみやすい温度感の設定も、流行となる要素の一つと言えそうです。
レシピ公開により話題を盛り上げる
「bills」のパンケーキやスクランブルエッグは、堂々とレシピが公開されています。狙ってかは分かりませんが、そうする事で、クックパッドさんで多くの投稿がされたり、作った人がSNSで公開したりと更なるバズを生んでいます。最近、レシピは隠すよりも公開する事で、知名度も来客数も増える傾向にあるようです。陳健一さんの麻婆豆腐、「たいめいけん」のタンポポオムライス、落合務さんのパスタなど公開されているレシピは少なくありません。公開する事で得られているものが大きいためでしょう。さらに「bills」のレシピは卵、生クリーム、バターなど一般的な家にある材料で作れるものばかり。「家で作れるから行かなくていい」と考える人ばかりではなく、「本物の『bills』の味も食べてみたい」と思う消費者も少なくないのです。
行き届いたメディアが食いつく仕掛けづくり
上記でお話した通り「世界一の『朝食』」という肩書も広報視点から見て引きがあると言えますが、それだけではありません。表参道と代官山で期間限定の「bills cafe」をオープンして話題を作っただけでなく、その時できる行列によって更なる話題を呼ぶという仕掛けもしています。ビル・グレンジャー氏が来日するたびに試食会を開いたりとメディアが食いつくネタも仕込んでいます。NHKの朝番組「あさイチ」でもビル・グレンジャー氏自らが料理を振る舞うだけでなく、ゲストが実際に作る場面も公開されていました。ここまで行き届いたネタを続けて仕込むとは、さすがPR会社だけあるな、と感心させられます。
「bills」の事例は、広報的視点から見ても色々な仕掛けがしてあって非常に参考になります。「世界一の朝食」という売り出し文句、ほど良く親しみやすい距離感作り、レシピ公開や行列づくりによる連続したバズ作り。ここまで行き届いた仕掛けはできなくても、そのエッセンスは日常の広報活動でも取り入れられるでしょう。
(執筆・丸山夏名美)