「海外メディアと国内メディアが語る日本のスタートアップ」 特別セッション・レポート
志ある起業家・企業を支援する「第3回CNET Japan Startup Award」が、2015年12月10日(木)に開催されました。イベントにて、バリュープレスか企画・運営した「海外メディアと国内メディアが語る日本のスタートアップ」の様子をレポートします。
本記事では、当日国内・海外メディアの現場記者4名と「THE BRIDGE」の池田 将氏をモデレーターにお迎えして行われた特別セッション「海外メディアと国内メディアが語る日本のスタートアップ」の様子をご紹介します。
【登壇者】
Serkan Toto (セルカン・トト)氏
長年にわたり、世界最大のテックブログ「TechCrunch」米国本家版のライターとして活躍。現在はゲーム業界のコンサルタント企業CEOを務める。
Richard Solomon (リチャード・ソロモン)氏
日本社会が直面している経済や経営課題に関する著者、スポークスパーソン。「Beacon Reports」や「Nikkei Asian Review」「The Japan Times」などで執筆を行う。
Tim Romero (ティム・ロメロ)氏
日米を舞台に起業を経験。現在はポッドキャストのホスト役を務め、投資家や創設者、そしてメンターとして、日本のスタートアップ・コミュニティに深く関わる。
藤井 涼 氏
CNET Japan 編集記者
【モデレーター】
池田 将氏
「THE BRIDGE」共同創業者、Startup Digest(東京版)キュレータ、Blogger
日本のスタートアップ記事を書き始めたきっかけは?
池田(以下敬称略):
本セッションでは、グローバルな視点から見て日本のスタートアップの現状はどうか、問題点は何かを論じていきたいと思います。まずは、日本のスタートアップ記事を書き始めたきっかけを聞かせてください。
Serkan:
日本に留学生として来ていた時に、TechCrunchから「日本のスタートアップの現状や日本のテクノロジー、ガジェットなどについて紹介してほしい」と頼まれました。最近は、日本のモバイルゲーム業界について書かせてもらいました。
Richard:
私はヨーロッパのPC業界向けの雑誌出版を経て、2009年に来日しました。
日本では、日本のアントレプレナーシップについて書いてきました。多くの素晴らしい起業家たちと出会い、日本と欧米の起業家文化の違いを探求し続けています。
Tim:
私がポッドキャストをスタートしたのは、日本人もアメリカ人も日本のスタートアップ創業者を誤解しているからです。コミュニティで何が起こっているかを理解できていないからだと思いました。
藤井:
私は2010年CNET Japanに入社して以来、取材・執筆に携わってきました。現在は、シェアリングエコノミー(共有財産)に興味を持っています。
2015年最も注目したスタートアップはどこか?
池田:
今回はバリュープレスの協力を得て、海外メディアからアンケートを取りました。それらの結果も交えて、議論を展開していきたいと思います。最初は「2015年最も注目した日本のスタートアップは?」という質問に対する回答から見ていきましょう。
WHILL 株式会社(パーソナルモビリティの生産・販売)、Drivemode Inc(スマートフォン・アプリ開発)、株式会社Gunosy(ニュースキュレーション)、株式会社Preferred Networks(自然言語処理技術を利用した研究開発)、株式会社アストロスケール(小型衛星の開発・製造、宇宙環境テスト)など色々な会社がリストアップされています。皆さんはいかがですか。
Serkan:
私はPreferred Networksが一番気になっています。日本のゲームの会社を挙げたいのですが、市場がすごく成熟しており、今年は特筆する新しいスタートアップが出てきていないと思います。
Richard:
WHILL のメンバーには以前インタビューをしたことがあります。その内容は驚くべきものでした。個別で気になる企業もあるのですが、もっと私が強調したいことは、今日本は社会が移行していく、とても重要な時期にあるということです。成功するかどうかに関わらず、社会規範を打ち破り、新しいビジネスにチャレンジしていかなければなりません。それこそ私が懸念していることであり、また希望でもあります。
Tim:
IoT系が面白くなってきそうです。アメリカと違って、日本では大手メーカーで長年活躍してきたベテランが若手と組んで会社を設立する例が多々あります。そのコンビネーションが、とてもユニークかつパワフルです。
藤井:
大きな流れで捉えると、日本のスタートアップに関して今年は3つの特徴が挙げられます。第一は、WEBだけで完結しないサービスが存在感を増してきたこと。第二は、スタートアップと大企業のコラボレーションが進んだこと。そして、第三が大企業のなかにもスタートアップが生まれてきたことです。
池田:
大企業とスタートアップとのコラボレーションとなると、バズワードとして「オープンイノベーション」が注目されます。海外ではとても人気ですね。
Tim:
日本のオープンイノベーションは、未だに新しいコンセプトです。大きなポテンシャルを秘めていますが、語るには時期尚早だと思います。ただ、大きな可能性を持ち始めているとは思っています。
スタートアップ側の情報発信の在り方に問題はないか?
【事前アンケートより抜粋】
Q. スタートアップ関連の記事を書く際に注意している点、意識している点は?
・創業者が語る言葉
・海外進出戦略
・1. エリアにフィットしているか。
2. 新領域を切り開いているか。
3.実際に誰かがその商品を欲しがっているか。
・自分自身にこう問いかけてます。
読者がスタートアップに関しての何に興味を持つだろうか、と。
なぜそのテーマを読者は読むべきなのか?
なぜそのスタートアップ企業は面白いのか?
その企業や商品の、他には無い魅力とは何なのか?
ライターとして、読者にその企業の事をより良く理解してもらうために、
どのようにしたらよいのか? ―と。
・表のストーリーの裏に隠されたストーリーを私はいつも探しています。
起業家の中には、注目に値するストーリーや経験、
共有すべき教訓を持っている人がいます。
そういった事こそまさに、私が探しているものです。
池田:
次は、スタートアップに関する記事を書く際にどのような視点を持っているかに着目してみましょう。ここでも、アンケートで寄せられたアンサーを拾ってみます。「新規性があるかどうか」「コアテクノロジーが何なのか」「温度感を公平に保つこと」などの声がありますが、PRとメディアを区別できないスタートアップが多いという指摘は頷けますね。
Serkan:
何人かの起業家たちは大きく誤解しており、メディアを彼らのPRとして位置づけ、彼らのPRの方法であると考えています。でも、私たちが大切にしているのは、読者の視点です。企業側の思惑ではないのです。その点を理解していない起業家が多いといえます。
Richard:
ほぼ全員が、何らかのかたちでメディアをPRの延長として考えています。ただ、私はインタビューするにあたり、いつも起業家の背後にあるストーリーを探しています。ユニークで聴く価値のあるような独特の認識というか。その他の話題は、書こうとは思いません。
Tim:
ポッドキャスティングはとてもユニークなメディアです。パーソナルなものというか。
私が探しているのも、人々が感情移入して共感できる個人の物語なのです。しかし、日本の人々はなかなか人間的な側面を見せようとはしません。それが、最大の課題ですね。
池田:
藤井さんは、毎日数多くのプレスリリースを受け取っています。何を基準に選んでいるのですか?
藤井:
社会性がどれだけあるか、多くの人々の課題を解決できるか、世界レベルで影響を与えることができるかどうかといった点を大切にしています。
日本のスタートアップが世界レベルで戦える企業となるためには?
【事前アンケートより抜粋】
Q. 日本のスタートアップに向けたメッセージ
・英語でオフィシャルリリースをして下さい。
・日本に詳しい人にほとんどコンタクトすることができません。
・技術面で日系企業は素晴らしい可能性と競争力を持っています。
もっと積極的に世界に向けたチャレンジをして欲しいと思います。
・「あなたの商品は何の役に立つのか」。
そして、私の読者はそれを読むとどんな良いことがあるのか。
説明の要点を分かりやすく説明してください。
・もし「本・当・に」海外展開をしたいのなら、
英語の壁を乗り越える準備をしてください。
困難を伴いますが、努力をする心構えがあるなら、乗り越えられます。
・海外メディアが何を言っているか注意を払って下さい。
池田:
最後も、アンケート結果から声を拾ってみましょう。日本のスタートアップに寄せられたメッセージですが、「英語のプレスリリースが必要」「英語の壁を越えてほしい」など英語絡みの意見が多いようです。言葉の問題を克服するために日本のスタートアップがどうすれば良いかを聞かせてください。
Serkan:
多くの日本企業が用いてきた方法は、外国人を雇用し担当する業務を国際化するだけです。チームや部署全体では何も変わりません。スタートアップでも状況は同様です。
Tim:
私は英語力よりも大切なポイントがあると言いたいですね。それは、海外市場を知ることです。多くの日本のスタートアップは、日本の外で何が起こっているか分かっていません。何を解決すべきなのかを理解していないことが大きな問題だと言いたいですね。
藤井:
英語をどう克服するかとは離れますが、日本のスタートアップがアメリカを目指す流れはまだ続いています。文化が近いアジアに行くという考え方もあるのではと思います。
池田:
ご意見どうもありがとうございます。
時間となりましたので以上でセッションを終了させていただきます。皆さんありがとうございました。
(文:袖山俊夫 翻訳:Conyac)