人事と広報、ターゲットは違えど担うのは同じ役割
サイコロ給やスマイル給など、次々と面白いことを生みだす面白法人カヤック。事業内容は「日本的面白コンテンツ事業」、経営理念は「つくる人を増やす」。同社で企画系人事として「面白採用」を行う三好晃一さんに「人事と広報」について伺った。
広報と人事の共通点
Qカヤックさんの現在の広報体制について教えてください。
前任の広報担当の松原が産休に入ってから、僕含め5人で広報と人事を担当しています。
Q三好さんはどういった業務を担当しているのでしょうか?
僕は広報ではなく人事の担当で、主に人事全体の戦略を考えています。人事の採用の中でも新卒、中途、外国人枠があるのですが、僕は新卒枠を担当。それから社内でイベントの企画・実行までできる人が自分以外にいないので、イベントや合宿も担当しています。あとは鎌倉にあるシェアオフィスのプロデュースなども行っています。
Q「広報」と「人事」が同じチームなんですね。
ターゲットや得たい結果は異なりますが、「自社のことを伝え、世の中の認知・関心を醸成する」という点では同じ役割だと思っています。現在カヤックでは人事と広報がゆるやかにつながり、一緒に活動をしています。今後は法務や現場も含め、「ブランド戦略室」のような形で職種を横断したチームを作り、面白法人というブランドを、現状の人事や広報のやり方に固執しない方法、縦割りではなく最適な人材を使ってやっていく方法で進めていこうと考えています。
Q三好さんにとって、「広報」とはどのような存在でしょうか?
弊社は営業をしないので、受注やサービスの利用が促進されるのは、ブランドがクライアントに浸透した時だと思います。なので広報はマーケティング戦略において「面白法人」というブランドを作り育てる重要なポジション、施策だと考えています。
面白くないからやりたくない
Q2014年4月の「学生新歓コンテスト」の企画はどうやって作られたのですか?
もともと「面白ビジコン」というのをやっていたのですが、面白くないからやりたくないと言ったら(笑)、やなさん(代表)に代替案を考えろと言われました。
そんな時たまたま京都大学の運動部から、新歓のアイディアをブレストしてくれと言われまして。「採用と新歓は似ている」からと。確かに、自分たちのサークルに入ってもらうためにいろいろ企画をするのは、企業に置き換えれば採用や新規顧客獲得キャンペーンと同じだなと。で、生まれました。もちろん人事の予算を使うので採用にも結び付けたい。大学三年生ならそのままサマーインターンにつながるのはないかと考えました。
Q学生さんの反応は?
最初は「どういうことですか?」と。新し過ぎて何を基準に、何を発表すればいいのかわからないなど、否定的な意見が多かったです。ショックだったし、ターゲットである学生に「イケてない」と言われているものをやっていいものか心配になりました(笑)。「文化祭コンテスト」ならギリギリわかるという意見もあったのですが、時期的なものもあって新歓コンテスト実施に踏み切りました。ただ、新しいアイディアほど形になるまで批判されやすいと思っているので、わからないと言われるほど、この企画は化けるかもと思う自分もいました。
Q実施されていかがでしたか?
まず、企画段階で出場サークルの集客と企画自体のPRを分けて考えることを決めました。ターゲットを出場サークルに絞ってしまうとPRとして拡がりが弱くなると。企画自体は学生や社会人など関係なく知ってもらうことを目標としていました。
集客については、ウェブサイトを公開する前から面白そうなサークルをネットで調べて、連絡して情報を先に送ったり、実際に大学の新歓に行って自らスカウトしたり。あとはウェブで拡散されて、最終的には32チームからエントリーがありました。新歓で忙しかったみたいで、予選に来たのは32チーム中12チームでしたけど(笑)。
PRについては、コンテンツが斬新すぎて、普段のようにウェブニュースで取り上げられることは少ないだろうと予測し、コンテストという特性を活かしてメディアにアプローチする作戦を考えました。
具体的には、社会人が「私もこの人に審査されたい」と思うような審査員を揃えることで口コミを誘発させたり、動画学習サイトのschooさんに企画を持って行き、レクチャーをウェブで公開したりするなどです。
NAVERまとめ職人として有名なnarumiさんを早稲田の新歓にお誘いし、PR記事をブログに書いてもらうというゲリラ的なこともやりましたね。
Qイベントの成果指標はどのように考えていますか?
新歓コンテストの場合、集客の指標を「応募チーム数」と「面白い企画の数」、PRの指標を「当日の来場者数」とし、松竹梅の3段階に分けてチェックしていました。結果的には竹でしたね(笑)。
実は採用については、新卒紹介会社を通してだとか、学校向けの説明会も行っているんです。そういった地道な採用を僕の中では「地上戦」と呼んでいます。地上戦の成果指標は応募数と採用人数。採用予定人数が20人だったら、そのうち何人採れたかを成果指標にしています。
新歓コンテストや1社合説など、皆さんに見えるキャンペーンをやる時は、「空中戦」と呼んでいます。空中戦では直接採用につながるかはわからないので、人事ではなく広報としての成果指標で、いいね!の数やRTの数を指標にしています。
Q「1社の合同説明会」のアイディアも三好さんとのことですが、この企画はどんな時に思い付いたのですか?
弊社は合同説明会というものに出たことがないのですが、他社がやっている合説を見学に行く機会があったんです。東京国際フォーラムでいろんな会社のブースが並んでいるのを眺めていて、ここにいるのが全員うちの社員だったら面白いよね、とふと話し合ったのがきっかけです。
ちょうどその時に「Macを購入したら絶対に導入したい!私が3年間で厳選した超オススメアプリ10選!」というブログが話題になっていました。内容は10位MacVim、9位MacVim、8位MacVim、栄えある1位はMacVim!と、言い方は変えるけど全部MacVimという。こんな感じで協賛企業が全部カヤックだったら面白いよね!と。その勢いで提案したらGOがでました。
Q企画が進み始めてからは?
最初はMacVimのブログになぞって「面白企業がアキバに大集合!」というキャッチコピーで、ウェブサイトをスクロールしていくと、全ての企業ブースがカヤックというデザインにしていたのですが、お客さんからのツッコミを待っている感じがまわりくどい、伝わらないと言われ続けました(笑)。デザイナーさんにもデザインを直し続けてもらったのですが、わかりやすいビジュアルの方がSNSで拡散され、ウェブニュースに載りやすいというPR的な視点から、最終的には見てすぐわかるデザインに変更しました。
イベントのPRとしては、ニュースになりそうなコンテンツをなるべく小分けにして、時期を分けて出すということを意識しました。例えば、社長スペシャル対談という特別企画の司会者を公募で集めたり、最終面接ブースというものを直前1週間前にリリースしたりするなどです。そうすることで、露出回数が増え、多くの人に届くと考えたからです。
また、来場者がSNSやブログで当日の模様を伝えやすいように、写メしやすいポスターやタペストリーを入口や各ブースに配置。当日の模様もひとつのコンテンツですから、拡散されやすいよう意識して準備をしました。
結果としてはその場で6人採用できたり、ウェブサイトはいいね数!とツイート数が3,000を超えるなど、人事としても広報としても成功といえるイベントとなりました。
新しいことをやるたびに苦悩と怖さがある
Qそういった面白い企画を考えるための情報収集はどのように?
はてなブックマークの注目エントリと人気エントリを毎日「全部」見ています。GunosyやLINEニュースにも目を通して、なるべく業界や分野の垣根なく情報をインプットすることを心がけています。あとは面白そうなイベントがあれば必ず足を運びます。やはり体験しないと、イベントの運営や実感値としての楽しさはわかりませんので。
Q仕事をしていて苦労を感じることは?
苦労はやなさんからの無茶ぶりですかね(笑)。人との交渉が得意ではないので、協賛をとってこいと言われると嫌だと断ったりします。だから全部やなさんがやるんですけど(笑)。苦手なことは得意な人に任せるようにしています。
それまでは、やなさんや誰かの考えに反対したりもしていたんですが、1社合説くらいから考えを変えて、無茶ぶりでも何でもまず全て受け止めるようにしています。
脳の中に大きい風呂敷を広げて、イエスもノ―も出さずに二週間くらい考えてから、やる、やらないを決めるようになりました。そのせいか、最近はあまり苦労を感じなくなりました。でも新しいことをやるたびに、苦労というか、クリエイターとしての苦悩や怖さはあります。新歓コンテストをやる前も一カ月くらい具合が悪かったです(笑)。
Q三好さんがこれからやってみたいことは?
2013年7月から博報堂ケトル代表の嶋浩一郎さんのPRゼミに通っていました。それまで、2012年に「旅する会社説明会」、2013年に「面白センター試験」という会社説明会を実施したのですが、前者はSNS上で話題になり、20を超えるウェブニュースに取り上げられました。一方、後者はSNSのツイート数やいいね!数は変わらないものの、メディアへの露出は全然ありませんでした。ただ自分では、企画自体の意義や価値は同じ、もしくはそれ以上だと思っていたので、コンテンツを広く伝えるためには広報力が必要だと考えたためです。
そして、ゼミで習ったPR視点の企画の作り方やメディアへの露出方法を新歓コンテストや1社だけの合同説明会に活かしていきました。
今後は、一つのコンテンツが話題になって、ニュースになって、そこからいろんな形のコミュニケーションを生んでいく。そういう企画を作りたいと思っています。コンテンツの話題性の最大化・最適化とも言い換えられます。面白いものを作っても、伝え方次第で拡がる範囲が変わると身にしみていますから。
僕は人と人をつなげるのは苦手なのですが(笑)、アイディアとアイディアをつなげるのは好きなんです。メディアが思わず取り上げたくなって世の中で話題になるアイディアを企画段階から考えるためにも、広報視点は大切だと思っています。
Q最後に、イベントや採用を考える時、経営理念をどう意識しているのでしょうか?
弊社の経営理念は「つくる人を増やす」です。採用においては、「面白センター試験」で学生向けにアイディアの出し方を伝えました。つくるためにはまずアイディアありきだと思うので。1社合説は弊社の社員を見てもらうことによって、「つくる人になりたいな」と思ってもらえれば、つくる人が増えるかなと。
新歓コンテストはまさに企画しないとエントリーできないので、僕の中では一番経営理念にそっていました。社内からも受けが良くて、新歓コンテストのサイトをリリースした時に、「人事は経営理念を考えながらやるから好きなんですよね」というメッセージをもらえた時は嬉しかったですね。
社員はみんな「つくる人を増やす」が好きだし、僕自身にもマッチしている気がします。クリエイターはみんな、最終的にその思いに落ち着くんじゃないかな。
(取材日:2014年4月23日)
三好 晃一氏
- 企業名
- 株式会社カヤック
- 部署・役職
- 企画系人事
- 設立
- 1998-08-03
- 所在地
- 神奈川県鎌倉市小町2-14-7 かまくら春秋スクエア2階
- プロフィール
- 筑波大学大学院・数理物質科学研究科を修了後、就職せず経営者や人事向けのボードゲームを作って生計を立てる。シナリオライターの学校やよしもとの学校の卒業を経て、面白法人カヤックに入社。バスで日本各地をまわる説明会「旅する会社説明会」や、1社だけなのに合説という「1社だけの合同説明会」を企画・制作。その他には、鎌倉のシェアオフィス「旅する仕事場」のプロデュースや、クライアントワークの企画協力などがある。