広報の成果を「見える化」するグローバルIT企業
ビジネス・ソフトウェアとハードウエアの統合システムを提供している日本オラクル。その広報チームを率いる広報室長の玉川岳郎さんは、PRの現場からの優れた発信者の1人だ。今、個人ブログなどを通しての発言に、業種業界を超えての注目が集まっている。
BtoB も BtoC も、広報の根底にある考え方は同じ
Q現在の業務内容について教えてください
広報業務は大きく分けるとコーポレートとフィールドの2つがあります。1つ目は、いわゆる企業広報。IR部門と連携して、業績や決算に関する情報をアウトプットしたり、会社のブランド、社会的責任に関連したメッセージの発信を行っています。2つ目は、IT企業としての製品技術およびサービスの広報。こちらは事業分野別に担当をおいて行っています。
ここ数年力を入れてきたのが、ソーシャルメディアを活用した対話型の広報活動です。導入にあたっては、広報室が先導し、法務部門などと調整しながら、社内の実践的先駆者と呼ばれるソートリーダー(thought leader)という立ち位置で推進してきたという自負があります。加えて、内部コミュニケーションのサポートも。社長直下にプロジェクトチームが置かれ、そこに私が入って広報の立場で監修し、知見の共有やサポートを行っています。
QBtoB ビジネスにおける広報活動のポイントとは何でしょうか?
BtoB の広報と BtoC の広報との間に、根本的な考え方の違いがあるとは思いません。大切なことは、経営戦略や事業戦略を理解し、具現化するために、コミュニケーションという広報の役割を通じて、どうサポートするか。つまり、経営戦略に紐づいた「戦略広報」こそが、最も大事だと考えています。
では、BtoB と BtoC の違いはどこにあるのか。経営戦略、ビジネスモデル、そして当然ながらターゲットが異なりますので、広報のしかたが変わってくる。現象で見れば、これらが大きな違いとして映ることでしょう。しかし、相手が一般消費者であれ企業であれ、広報活動のポイントは、経営と事業の戦略をしっかり理解したうえで、マーケティングをはじめとする各部門と連携し、広報戦略を立て、実行していくことです。
また、実行したらそれで終わりというわけではありません。実行後は、広報活動が、顧客獲得や、事業の活性化、ひいては売上増に正しく貢献できているかどうかを評価することが重要です。
情報の質や影響を評価し、読者や視聴者への到達度合いを数値化
Qどうやって貢献できているかを判断するのですか?成果の指標というと、まずパブリシティの件数が思い浮かびますが
当社には、パブリシティの件数だけでなく、情報の質や影響などを評価し、読者や視聴者への到達度合いを数値化して示すOTS(Opportunity to See)という考え方があります。この考え方は、ターゲットに影響するメディアへ正しくメッセージが伝われば、読者の行動変容を引き起こすという、帰納的な考え方に基づいたものです。
具体的には、その記事が事業にどれだけ貢献したかを可視化するために、4つのポイントで数値化しています。1つ目が、メディアそのものの質を評価する「メディアポイント」。次が、記事の露出時間やスペースなど、情報の与えるインパクトを測る「インパクトポイント」。3つ目が、当社が主人公の記事なのか、名前が取り上げられただけなのかで判断する「シェアリングポイント」。最後が、記事の内容が肯定的なのか、否定的なのか、中立的なのかで決まる「コンテントポイント」です。
この4つのポイントを係数化し、ポイントごとに換算して獲得点数を算出。広報活動の成果を量る目安としています。数値化すれば目標に対してどれだけ達成しているかが一目瞭然となります。
Q数値化することに意味があると?
はい、そうです。「よくがんばったね」と情緒的に評価するのではなく、がんばった結果、事業推進にどれだけ役立っているかを論理的に評価する。実は、これは企業活動における広報の存在理由にも直結します。広報は、自らの存在価値を、成果を上げることによって示していかなくてはならないし、存在価値を示していくことは、自分たちの責任でもあるのです。
もちろん、上場企業なら、広報担当者を最低1人置く必要はあるでしょう。でも、たとえば、当社の広報は5人体制ですが、5人も必要な論拠はどこにあるのか。あるいは、もっと人数が必要なときどう議論していくのか。業績が悪化したとき、必要性を説明できるのか――当社の場合、説明の相手は必ずしも文脈が共有されている日本人ではなく、本社の外国人エグゼクティブだったりします――と考えれば、広報活動の成果を測るシンプルでロジカルなしくみの必要性がお分かりいただけるでしょう。
ソーシャルメディアを活用。時代に先駆け「PR2.0宣言」
Q御社はソーシャルメディアを活用したPR活動にも、いち早く取り組まれましたね
2007年にオラクル米国本社が、ソーシャルメディアの活用施策を打ち出すにあたり、PR部門をシンガポールに集め、三日三晩話し合いを行いました。私も参加したのですが、当時の私といえば、個人ブログは開設していたものの、「Twitter?Facebook?何それ?」という状態(笑)。しかしながら、そこでの結論はこうでした。この時代の変化は不可避である。ソーシャルメディアに取り組まないこと自体がリスクとなる。したがって、自分たちが変わるしかない。つまり、ソーシャルメディアの活用に取り組んでいくしかないということになりました。
日本に戻り、経営会議で了解をとりつけた後の2008年、2000人ほどを集めた全社会議の席で、ソーシャルメディアを活用する新時代広報「PR2.0宣言」を行いました。以降、当社では、従来型のコミュニケーション活動に加えて、ソーシャルメディアを使った対話型のコミュニケーション活動を行っています。
取り組み開始から4年を経た今では、両者を分けてとらえることはなくなり、ソーシャルメディアも広報機能のひとつと位置づけて活用するに至っています。
Q玉川さんご自身も積極的に発信されていますね。ブログ「ニュータイプになろう!」は、広報担当者にも注目されています
広報活動をテーマにした記事をブログに書き続けている理由は、せんえつな物言いですが、後進を育てたいという思いがあるからです。小手先の広報テクニックではなく、芯のしっかりした広報のプロが、世の中にもっともっと増えていくことが私の願いです。
ところが現実には、突然広報担当を命ぜられ、何も学ぶことなく現場に立たされ戸惑う人が少なくありません。そういう人たちに対して、何を軸にしてこの仕事をしていけばいいのかを伝えたい。少しでも役立っていたらうれしいですね。
コミュニケーション能力は、すべての広報スキルの基礎
Q広報スキルを磨くために、大切なことは何でしょうか?
これがないと広報は務まらないだろうなと思うのは、やはりコミュニケーション能力です。広報担当になれば、日々いろいろな方に出会い、出会った方から多くを学び、吸収していくことが必要になりますが、コミュニケーション能力がなければ、人から学ぶことができません。考える力、考えたことをアウトプットする力の糧になるのは、コミュニケーション能力だと考えています。
ではどうやって磨いたらよいか。最適なただ一つの方法があるわけではないですが、私がやってきたことを並べますと、本を読み、人の話を聞き、実践し、振り返る。また本を読み、人と話し、それを繰り返す。
一方で、創造力や想像力を養うためにエンタテインメントにも積極的に触れます。映画を見る、観劇してライブ感を味わう、異業種の方々との会話を通じて質問力を養う……といったところでしょうか。とにかく広報は家に閉じこもらず、好奇心を持って外に出て、多くの情報に触れて経験をすることです。外に出られない日は、晴耕雨読(せいこううどく)、日々是勉強なのです。
Q玉川さんご自身の今後について、思うところをお願いします
17年前に日本オラクルに入社したとき、社内報の自己紹介に「10年後に、この分野に玉川ありという存在になっていたい」と書きました。その目標は、手前みそですが達成できたかな、と思えるところまで来た気がします。これから先については、さきほど「後進の育成」などといいましたが、若手などから、「メンターになってほしい」と求められるようになりたいと思います。
現在、オラクル・アジアパシフィックのチームでソーシャルメディアのアドバイザーをやっています。これが実にチャレンジングで、とても素晴らしい体験をしています。自分の世界を広げ、国内のみならず世界を視野に入れる、そんな方向を目指しています。
(取材日:2012年11月27日)
玉川 岳郎氏
- 企業名
- 日本オラクル株式会社
- 部署・役職
- 広報室 室長
- 設立
- 1985-10-15
- 所在地
- 東京都港区北青山2-5-8 オラクル青山センター
- プロフィール
- 日本オラクル株式会社
広報室 室長。
大学卒業後、産業見本市主催会社に入社し広報宣伝を担当。同社主催のイベントがきっかけでオラクルに出会う。現在は広報室長として、メディアコミュニケーションやソーシャルメディアの戦略活用に注力している。
<玉川岳郎さんの広報ブログ>
『ニュータイプになろう!』