海外インターン留学で実践力・指導力のある保育士を育成 Y&K Narita International school 代表 伊藤健太氏インタビュー
多国籍の子どもたちが増え、英語教育への期待が高まる保育の現場で、今、留学経験のある保育士が求められています。単に英語を学ぶだけではなく、多様な価値観のもと、自分の力で子どもたちを教えることのできる力は、国内ではなかなか身につけられません。そんな中、多文化が共生するオーストラリアへの留学サポートを行うY&K Narita International schoolでは、実践力・指導力のある保育士をや教育者を育成しています。代表の伊藤健太氏にお話を伺いました。
■国内の需要が高い、教育者専門の海外留学をサポート
――伊藤さんはもともと小学校の先生だったそうですね。
公立の小学校の教師を6年間やっていたのですが、教師の仕事に疑問を感じ、28歳のときにオーストラリアに飛び出ました。
――オーストラリアに飛び出して見えてきたのはどんなことでしたか。
世界にはまったく価値観や考え方の違う人たちがいるということです。自分が生きてきた日本で考えたことは小さかったと思いました。海外で子どもたちと触れ合っていくと、指導方法や考え方は一人ひとり全部違っていて、それが個性として認められています。そういうところを日本にもっと取り入れ、多くの教育者が留学してそういう気づきを子どもたちに与えてあげたいと思ったのです。
――普段はオーストラリアにいるのですか。
2、3カ月オーストラリアで過ごして1カ月は帰国という、行ったり来たりの生活ですね。
――会社の立ち上げにはご苦労されましたか。
最初の1、2年は事業として成り立っておらず、本当にゼロの状態からの起業でしたので、手探りでかなり時間がかかりました。ジャパニーズレストランでバイトをしながら、空いた時間に少しずつ少しずつ自分のできることを広げていきました。
オーストラリアの子どもたちや大人に日本語や算数を教える塾を開き、生徒さんが増えて、アルバイトやボランティアの教育関係の仲間も加わり、オーストラリアで一緒にボランティアをやりたい、子どもたちに教えたいという日本の方に向けて、留学をサポートする教育者専門の留学エージェントを始めました。
留学された方から帰国後にその経験を活かして働きたいという依頼もいただくようになったので、今では日本の保育園やインターナショナルスクールに紹介するサポートも行っています。
その他に、教育者の学級経営や職員間の悩み相談、教育者の就職・転職のサポートもさせていただいております。
今後の展開としては、現地のオーストラリア人を日本に呼んで教育分野でサポートすることも視野に入れています。
最終的には、自分たちの理想の教育ができる学校を作ることが目標です。
■個性を活かせない、日本の教育の問題
――事業が軌道にのったきっかけは。
自分の活動をSNSで発信するようになったら、保育園の園長さん、インターナショナルスクールの立ち上げにかかわっている方、理事長さんといった日本の教育関係の方々が見てくれるようになり、ぜひそういう人材をうちに紹介してほしいというお話をいただくようになりました。そこから徐々に広がっていきましたね。
――教育現場で海外経験をもつ人材がそれだけ求められているということですか。
日本国内はかなり英語教育に力を入れるようになっています。とくに小学校で英語教育が必修になるので、その下の保育園や幼稚園では、もっと英語に触れさせたいという動きになっています。
英語教育というのは、ただ英語を教えるだけではなく、英語を通じたコミュニケーション能力や、多様な価値観が必要ですから、実際に海外に出て世界の価値観を肌で感じた人材が求められます。
――実際に、今の保育園には外国籍の子どもたちは非常に多いですよね。
東京、神奈川、大阪、福岡などの大都市では半分以上の園や学校に外国籍児童の子どもたちが在籍しています。
各クラスに2、3人、30人クラスで1割ほどが外国人の子どもですね。日本語ができずに授業についていけなかったり、先生や他の子どもともうまくコミュニケーションできずに不登校になってしまったり、非行に走ったりする実態があります。そういう子どもたちに向けて、親御さんと英語でコミュニケーションをとったり、日本語を専門に教える先生を教育現場に導入したりするべきだと思っています。
――もともと、伊藤さんが教育現場で感じていた問題とはどんなことですか。
日本で教師になるには教育実習が必須ですが、いくら子どもたちと触れ合う時間が楽しくても、やり方が全部決まっていてその通りにやらないと単位をとれないので、そこで先生という仕事に幻滅してしまう方がたくさんいます。
また、教師になって一番感じたのは、子どもたちにしている教育と、大人になったときがつながっていないということでした。小学校は一斉指導の個性をつぶすような教育、みんなと同じがいいという教育をしていますが、社会に出ると、個性がない、実現力がないと叩かれ、僕自身、すごくギャップを感じました。幼少期から社会に出て役立つ力を子どもたちに身につけさせたいと思っても、今の日本の教育体制ではなかなかそういうことができない。
社会の変化に教師の側が対応できておらず、多様な価値観や個性を認める力や経験、自己実現力が足りていないと思います。
――行政の考え方も変わりつつありますか?
なかなか変わりませんね。今の学校教育法というのは明治時代に軍人を育てるためのもので、根本はまるで変わっていないと思います。集団教育、一斉教育で、個性をつぶして先生の言うことを聞く人を良しとする教育になってしまっています。そういったことに気づいていない教師たちも多いのですが、現代に合った教育方法を展開していかなければいけないときに来ていると感じます。
先生たちや、これから先生になる方々が海外に出て様々な経験をして価値観を構築すれば、素晴らしい教育者になれると考えています。
――オーストラリアの教育環境は、日本とどんなところが違うのでしょう。
また移民の多い多文化共生社会ですから、教育現場にもアジアやヨーロッパをはじめ、いろいろな人種の方がいます。いろいろな国の考え方や宗教が入り混じっており、その中で異なる価値観をもつ他者を認め合っている国ですね。
行政も、シングルマザーに対する手当がしっかりしていたりし、12歳以下の子どもを一人にしないという法律があったりして、子どもを守る考えが根づいています。お母さんが買い物に行くときには連れていくか、近所の人に預けなければならないんですね。地域で子どもたちを見守る体制も日本より整っています。
家族ファーストという考えがあるので、子どもが熱を出したりすると、みんな当たり前のように「じゃあもう今日は休みな、すぐ帰りな」と助け合える感覚ができています。日本とはだいぶ違うと感じました。
――多文化共生社会の中で、言葉や習慣の違いはどのように対処しているのですか。
メインの第一言語は英語ですが、中国語やフランス語を話す子どもも多いので、学校によっては第二言語としてフランス語や中国語、日本語など、英語以外の言語を学ぶ機会があります。
――先生たちも各国語を話せるのですね。日本とはかなり違いますね。
そうなんです。日本でそういうグローバルな環境を作っても、対応できる教育者がいません。そういう教師の育成を早急に国がやってくれればいいのですが。
■留学で世界観を広げ、本当にしたいことを見つける
――留学希望者はどこで募集しているのですか。
転職を考えていたり就職で悩んでいたりする教育者が、僕が発信しているSNSに興味を持ってくださり、連絡をいただくことが多いのですね。
――どういう考えをもっている人たちですか。
日本の教育に疑問を抱いている方が多いですね。現場に立って子どもたちを指導していく中で、日本の教育方針のままでいいのかと疑問を抱いている方が多いです。半数は留学経験があり、もう一度海外で自分の思っている教育を子どもたちにやってみたいという気持ちをもっている方です。留学経験がない方でも、教師になる前に悩んでいる方や、教師になる前に多様な価値観や知識を身につけたいという方が多いですね。
――かなり意識が高い人たちということですね。
途中であきらめて帰ってしまうような人はいません。日本語指導インターンではあまりお金を稼げないので、お金よりも自分の思いや使命感を重視する人を採用しています。日本語指導インターンや保育士のコースは子どもと関わっていく仕事ですから、保護者や学校関係者などが後ろにいるので、軽い気持ちで行って「辞めます」となると、いろいろな人に迷惑がかかってしまいますから、「とりあえず海外に出てみたい」という軽い気持ちだと難しいでしょうね。面接ではそういうことをしっかりお話ししています。
全体に意識が高い人が多いですね。中には、高校卒業してすぐ世界の教育を見たいという方もいました。この方はインターンとして10カ月ほど留学しながら働き、帰国後はまた1年ほどデンマークの教育を見に行く予定だそうです。
――留学サポートはどのようなステップで行うのですか。
英語+実習インターン+スキルアップという3つのステップで、半年~1年で教師としてのスキルを高めてもらいます。
まず3~6ヶ月かけて、最低限の英語を学んでもらいます。その後、日本語指導のインターンとして現地の子どもたちに触れあってもらいます。現地の子どもたちは学び方や指導方法も一人ひとり異なりますから、教育の多様化を肌で感じてもらえます。さらにスキルアップしたければ英語の資格を取ったり、日本語教師の資格を取ったりするサポートも行います。
保育者専門の海外研修も行っています。午前中は英語を学んでもらい、午後は保育園で研修をしていただく形のプログラムです。
――留学をされた方の事例をご紹介ください。
もともと保育園勤務経験もある方で、3カ月ほどアメリカに保育研修に行ったこともある方がいます。アメリカと日本の違いにカルチャーショックを受けたり、自分の意見を持つことの大切さを学んだそうです。
帰国してからも保育士として働いていたそうですが、もっと海外で教育を学びたい、英語も教えられるようになりたいという希望がありました。そこで思いきって保育士を辞め、今はオーストラリアに2年ほどいらっしゃいます。4月から学生ビザに切り替えて、英語指導者資格を取った後に、オーストラリアで保育士資格を取る予定です。自分がやってきたことを、これから保育士になる人たちに伝えていくそうです。
――留学経験によって、どんなことが得られているでしょう。
この方は、向こうでの生活で世界観が広がり、自分のことにフォーカスできる時間もあったので、新しい自分や本当にしたいことを見つけられたようです。皆さん、新たな目標や夢を見つける方が多いですね。
――帰ったら寝るだけではなく、ワーク・ライフバランスが大事にできる?
国柄としてオーストラリアには残業が一切ありません。学校も3時15分には完全に閉まってしまうので、それに合わせて保護者がお迎えに来ます。保護者の職場も日本より理解があります。
――生活で戸惑うことはありますか。
英語でぶつかるのが一番多いですが、銀行口座の開設や携帯電話の契約、税金番号や年金番号の取得という手続きも壁になります。僕も最初は苦労しました。人に聞いても英語で説明されるので全然分からないし、日本人に聞いてもよく分かっていなかったりして、1カ月、2カ月は手探りでした。当社でもそのへんはサポートしており、飛行機のチケットとパスポートだけ取得してもらい、入国後1週間までは生活に必要なものを準備しています。
――メンタル的な壁もありますか。
日本人は自分を出すのが苦手です。僕自身、日本では積極的なほうだと思っていましたが、自分を発信しないと埋もれてしまい、なかなか自分の思いを伝えたり行動を起こせませんでしたね。
トラブルに巻き込まれることもあります。日本に比べたら犯罪が多いので、盗難やひったくりに遭ったり、家に帰っても中に入れなかったり、日本ではあり得ないことも起きます。しかし、だんだん慣れてくると冷静に対処できるようになります。そういう面ではかなり精神的にも強くなり、臨機応変に対応できるようになりますね。
今まで出会わなかったような問題にぶつかったときに、海外では助けてくれる人がいませんから、自分で解決することでかなり成長できます。自分の考えや価値観が構築されていくことは教育の上でも役立つと感じます。
あとは、オーストラリアでは美容師やネイリスト、マッサージ師など技術系の仕事は問題ないのですが、日本での保育資格があってもそれを活かせる環境が少なく、現地の資格をとらなければなりません。結局、ジャパニーズレストランなどで働いてしまうことになるので、ちょっともったいないですね。
――インターンとして子どもたちに教えることでの戸惑いは?
僕自身が戸惑ったのは、日本の子に比べてかなり算数力が弱いことでした。掛け算ができない子、繰り上がりの足し算ができない子が高学年にもたくさんいるので、日本語指導とあわせて時計の見方など生活に必要な計算を教えました。そういう子に対して学力が低いと決めつけるのではなく、いろいろな手立てを使って子どもたちが楽しく学べるようにしています。
オーストラリアの教育現場では、人に対する接し方はかなり厳しく指導していますね。学習は二の次で、とにかく個性を大事にして、のびのびと自由に生活を送れるようにすることが第一方針です。クラスでけんかが起こったら当事者だけで話し合うのではなく、授業を中断して、なぜそういう問題が起きたのか、今後どうすべきなのか、クラスの全員で話し合う光景がよく見られます。
――留学前と後ではどういう変化がありますか。
オーストラリアの日本語指導インターンは、最低限の指導はしますが、教材づくりや授業展開を全部自分で考えてもらいますから、ストレスなく自分のやりたいことをできます。ただ教え込まれた指導方法に従うのではなく、自分で考え抜いた良い指導方法を改良して構築していけるようになりますので、帰国する頃には実践力や指導力が身についています。国内で普通に保育士の仕事をしていただけでは、なかなか身につかないものです。
――帰国後に経験を活かしている例をご紹介ください。
教員免許は持っていて、先生になってみたいけど向き不向きが分からないからインターンで学びたいという子がいました。帰国後は当社の紹介で、フィンランド式の教育を取り入れている山梨県の素和美小学校という学校でお勤めしています。素晴らしい人材だったので、これからも育成した人材をご紹介してほしいというお褒めの言葉を校長先生からもいただいています。
■夢を持ち続けて挑戦してほしい
――保育業界の人材不足は何が原因だと思いますか。
保育業界に限らず、小学校現場、教育現場では圧倒的に人材が不足しています。保育の無償化によって子どもの数も増えているので、なおさら人材確保が課題です。しかし保育士の質も問われますから、誰でもいいわけにもいかない。本当に大変です。
人材不足の原因は、給料が安いとか業務が多いと言われますが、給料が増えればやる人が増えるのかというと、ちょっと違うと思っているんです。結局、その仕事に対する責任感や使命感が大事で、それを潰してしまう職場の雰囲気があるんです。ベテランの先生の言うことを聞きなさいとか、こういう指導方法が正しい、絶対だという狭い価値観が職場にあると、若手の人たちが自分でやりたい教育ができません。それで思っていた教育と違うということで離職する方が多いわけです。留学という以前に、職場の雰囲気が悪いとか、指導方針の食い違いで困っている方が多いんですね。
――現場負担を軽減するには仕事の効率化も必要ですね。
旧態依然とした教育現場、とくに事務作業などにAIを導入したりICTを活用したりして教師の負担を下げれば、業務の負担は激減すると思います。時間に余裕ができれば心にも余裕が生まれ、子どもにフォーカスしてものごとを考えたりできるようになる。そうすれば使命感や責任感とも備わってくるようになると思います。
――保育の仕事はある意味終わりがなく、効率化どころか、やりすぎて時間が足りなくなり、持ち帰っている現場もあると思います。
そうですね、学級通信を毎日出しているクラスもあれば、一切出さない先生もいて、業務の負担はさまざまです。月1回に統一するなど全校でルールを決めることなども必要でしょうね。
――それによって子どもたちと向き合う時間を作ることが大事ですね。
オーストラリアでは必ずクラスに補助員がひとり付き、教材や掲示物を担当しますので、教師の業務量はかなり少ないので、子どもと向き合う時間を十分にとれます。
――最後に、これから留学を考えている方に、一言メッセージを。
僕はやりたいことをやるのが一番いいと思っているんです。仕事や家庭、世間の目もあって我慢している方が多いですが、本当に自分のやりたい夢を持ち続けてほしいと思います。留学したいのなら僕たちがサポートできますし、起業したい人には経験者としてアドバイスしたりサポートしたりできます。今の生活や人生に悩んでいる人は、一度すべてをリセットして、いろいろなことに挑戦して突き進んでいくべきだと思います。
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