「syncrowd - seven chorus」7つの振り子の群れによるキネティック・サウンドインスタレーション展示開催
人類による「自然そのものを理解する」ための探究活動は、これまで、科学や芸術などに細分化されながら発展してきました。一方で、自然の中にはいずれの分野でも掬いきれない未分化な領域が潜んでいることも事実です。Creative Label nor(ノア)は、科学と芸術の間にあるジレンマに焦点をあて、いずれをも否定することなく新たな価値を創造するべく活動を行っています。 本展"syncrowd - seven chorus(シンクラウド - セブンコーラス)"では、会場内に大小様々な7つの振り子の群れ"syncrowd"が点在しています。"syncrowd"は、ホタルの発光や集団での拍手の同期など、日常でもしばしば見られる「同期現象」という物理現象を利用したキネティック・サウンドインスタレーションです。
会場内の7つの"syncrowd"は、大きさによってそれぞれ独自のテンポで同期/非同期を繰り返しています。振り子がもたらすシンプルな音の反復が、干渉/揺らぎ(chorus)によって連続的にパターンを変化させ、会場全体で永続的に変化し続ける複雑な音のうねりを生み出します。その様は一見すると、より原初的な聖歌/合唱(chorus)のようでもあり、統制されたオーケストレーションのようでもあります。しかし本作品では、絶対的な統率力であるコンダクター(指揮者)不在のなか、自己組織的な在り方でそれを形作ります。物理現象が作る有機的な視覚・聴覚体験の中で歩き回ったり立ち止まったりしながら、森羅万象を司る自然の摂理に耳を澄ませ、体感することで、自由な想像と独自の発見をしていただければ幸いです。
自己組織化と同期現象
自己組織化現象とは、個が集団を作った時に、何の制御や指揮をしていないにも関わらず、集団的な秩序が生まれることを言う。これは、個体同士が向きや動きを揃えたいという単純な相互作用だけで成り立つ。ホタルの同期、鳥や魚の群れ、雪の結晶、動物の模様や植物の形など、自然界には多くの自己組織化現象が見られ、秩序立った世界の成立に寄与している。
自己組織化現象の一つに「同期現象」がある。個別にリズムを刻むものが多数あった時に、その個体同士が単純な相互作用をするだけで、全体が同じリズムを刻むようになるという現象である。蛍の発光、心筋細胞の鼓動、拍手の同期、メトロノームやロウソク、ペットボトルの同期など、身近にもよく見られる現象である。人間の寝起きのリズムは地球の自転と同期している。
振り子の同期と状態変化
syncrowdでは、振り子の同期現象を利用している。複数の振り子が同じ台に載っていると、一つの振り子の揺れが台を揺らし、その台の揺れが他の振り子を揺らすことになる。この力によって同じ台に載ったすべての振り子の揺れは、人為的な制御なしに、勝手に同期していく。本作品では、振り子の揺れを減衰させないためだけにモーターを使っており、振り子の駆動力は重力によっておもりが下に落ちようとする自然の力だけである。
「自己組織化」は個体同士の相互作用が変化するだけで、群れ全体の振る舞いが劇的に変化する。例えばコンサートでの拍手の場合、同期すると拍手が遅くなって個々人の興奮が抑えられるため、興奮を表すために拍手を激しくして同期が崩れるらしい。これを表現するために、本作品では、定期的におもりを上下させることで振り子の揺れを乱し、同期状態をわざと壊している。それにより複雑な音環境が生み出されている。
音楽に見られる自己組織化
インドネシアのガムランや千年以上の時を超えて伝えられ独自の発展を遂げた日本の雅楽などは、西洋オーケストラの指揮者のような絶対的な統率力を持たず、コンダクター(指揮者)不在のアンサンブルを成す。それぞれの楽器奏者は互いの演奏を注意し聴きながら、呼吸や目線で演奏をあてはめていく。
自己組織化を踏まえたアプローチの音楽は、人間の作為的なものや感情よりも、森羅万象を映しだそうとする。平安時代末期、北山陰倫涼金によって書かれた「管絃音義」では、単なる基準音による区別ではなく、雅楽の調子に季節、色、方角など様々な意味合いを持たせ、音(調子)と「自然現象」との結びつきを重視した。
■Exhibition Outline
展示名:syncrowd - seven chorus
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
会期:2022年4月2日(土)〜 4月10日(日)※2022年4月6日(水)は休館
開場時間:11:00〜20:00 ※最終日は17:00まで
入場料:無料
お問い合わせ:nor.creative.label@gmail.com
主催:Creative Label nor
支援:令和3年度メディア芸術クリエイター育成支援事業
メディア芸術クリエイター育成支援事業 https://creators.j-mediaarts.jp/
■Creative Label nor(クリエイティブレーベル ノア)
Creative Label norは、科学者、音楽家、建築家、プログラマー、エンジニア、ロボットエンジニア、デザイナーなど多様なバックグラウンドをもつメンバーによって2017年に発足。
活動の背景には自然現象をつかさどる普遍の法則(ピュシス)への憧れや畏怖がある。現代社会において、様々な自然法則についての科学的な研究が進み、テクノロジーを通して日常生活にも取り入れられてきたが、一方で、こういった科学的方法では掬いきれない断片が数多く存在していることも事実である。Creative Label norは、こういった一般化された定義では捕捉しきれない領域へのアプローチを行ってきた。最先端研究で扱われる内容や自然哲学を多くの人が体験できる形に変換し、社会的な価値としてアップデートすることを目的に、空間/映像/サウンドなど多様な表現領域における手法と技術の混交によるインスタレーション作品を制作している。こういった活動を先進的に進めることにより、「科学と芸術のアウフヘーベン」を実践し、科学でも芸術でも到達することはできない真の自然法則(ピュシス)の存在を体感させるような新しい表現・文化の創出を目指している。
主な展覧会に『Open Space 2017』(NTT [ICC])、『MEDIA AMBITION TOKYO 2018-19』、『MUTEK.JP 2018-19』、EDUBOX(上海中国、2019)、国際媒体芸術祭「光点FLARE」(上海中国、2019)、『syncrowd nor Solo Exhibition』(などや 恵比寿、2021)、受賞歴には第22回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品選出(2019)、令和3年度メディア芸術クリエイター育成支援事業 採択(2022)などがある。
CREDIT
Planner/Conceptor:Makoto Fukuchi
Hardware Engineer:Satoshi Nakane
Software Engineer:Shuhei Matsuyama
Robot Engineer:Yusuke Seto
Sound Producer:Yui Onodera
Architect/Experience Designer:Kazuhiro Itagaki
Designer:Satoshi Kawamata
Graphic Designer:Kohei Futakuchi
Scientist:Mafumi Hishida
Producer:Shigeyoshi Hayashi
協力
Sound System Engineer:Umeo Saito (flextone)
Sound System:Taguchi Craftec
Construction:Yugo Kusaka
Software Engineer:Joe Ohara
Assistant:Ryuta Ono
■令和3年度メディア芸術クリエイター育成支援事業採択企画展示
本展は、メディア芸術クリエイター育成支援事業・国内クリエイター創作支援プログラムの支援を受けて行われます。本支援プログラムは、若手クリエイターの創作活動を支援することにより、次世代のメディア芸術分野を担うクリエイターの水準向上を図るとともに育成環境を整備することを目的としています。文化庁メディア芸術祭において受賞作品もしくは審査委員会推薦作品に選ばれた若手クリエイターによる新しい作品の企画の中から公募によって採択されます。(dyebirth, 第22回文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品)。専門家からのアドバイスや技術提供をはじめとした育成支援、国内外のクリエイターとの交流会、成果発表の機会の提供や制作費など、様々な形で本展の具体化が支援されました。
※国内クリエイター創作支援プログラム レポートの様子
https://creators.j-mediaarts.jp/project/syncrowd
■担当アドバイザーからのコメント
山川 冬樹 氏(美術家/ホーメイ歌手)
norさんの企画はモノとしての作品への結実にとどまらず、新たな音楽的グルーヴを創り出すための方法論、あるいは作曲法として、大きなポテンシャルを秘めており、音楽史の観点から見ても注目すべき試みだと思います。その新しい音楽体験を、いかに観客が豊かな実感とともに受容し、共有していけるのか、鍵になるであろうその辺りについて主にアドバイスさせていただきました。古くから音楽は天地万物の調和を可聴化して来ましたが、そうした音楽が、現代の技術とともに回帰する場に立ち会えることを期待しています。
山本 加奈 氏(編集/ライター/プロデューサー)
本作品の第一印象は、多様で専門的なバックグラウンドを持つメンバーで構成された、norという存在を象徴するような作品だなという事でした。個々がそれぞれのリズム(好き)を持ち、集まった時にひとつの方向にむかって大きなうねりを作る。syncrowdにおける多数の振り子による「自己組織化現象」と重なり、またブロックチェーン上で構築される非中央集権的なコミュニティのあり方とも重なり、同時代性を感じました。norの芸術活動に向ける眼差しは時には真理を求める科学者のように、時には本質を追及する哲学者のように行き来しながら、一作品を超えた広がりを予期させます。4月の個展では本作の大きなテーマであるアウフヘーベンが、来場者同士の間でも起こり、ジャンルを超越した会話が始まることにも期待しています。
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企業情報
企業名 | Creative Label nor |
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代表者名 | 林重義 |
業種 | その他製造業 |