金曜発注で月曜納品。短納期・高品質で世界を目指すものづくりカンパニー
3Dプリンターの黎明期と言われる1999年以降、短納期・高品質を武器に成長を続ける株式会社JMC。プロボクサーから異例の転身を遂げた渡邊大知社長に、3Dプリンターブームの実態とPRパーソンに求めることを聞いた。
装置産業が
やりやすい時代になった
Q御社ではいつから3Dプリンター事業をスタートしたのですか。
1999年にスタートしました。15年間、仕事量が順調に増えています。今、第三次3Dプリンターブームが来ているという認識です。
第一次、第二次のブームは、すぐに消えてしまってしたんです。立ち上げ当初は、ネット回線が「フレッツ・ISDN」だったので、CADの重たいデータを送ることができませんでした。だから、バイク便を使ったり自分で取りに行ったりと、デジタル業務の中に急にアナログな要素が入っていたんです。最近はデータを扱うインフラが整っていますよね。光回線だったら大容量のデータでも送れる時代です。今回のブームが今までと違うのは、そこだと思っています。
また、国の政策や特許切れなども追い風になっています。国家プロジェクトで3Dプリンターを推進している上に、ちょうど2007年に、3Dプリンター関連のいくつかの特許が切れたんです。3Dプリンターを製造する「装置産業」を営む人たちが、やりやすい状況になりました。
Qブームの中で不安材料などはあるのでしょうか。
少しメディアの方が盛り上げ過ぎている感はありますね(笑)。あとはメーカー側も、「新しいテクノロジー」というムードの中で、3Dプリントの技術が以前から使われていたものであるという事実を隠している印象を受けます。正直、3Dプリンターは特別新しい代物ではありません。なので私たちは、本来できることを、改めて説明するようにしているんです。
とにかく速く、
仕事がある限りは絶対やる
Qそういう中で御社の売上は伸びているとお聞きしました。強みはどこにあるのでしょうか。
弊社の強みは、とにかく「速い」ということ。次に、安定したサービスを提供できる体制。とてもシンプルなんですが、意外と他の会社さんではやっていません。もともと、僕一人でやっていた2000年当時は、いつでも出社しますという感じでした。正月は、他社が休みだから間違いなく稼ぎ時なんです。土日もガッツリやっていました。
今も製品は安定して提供したいと思っているので、社員の働き方をシフト制にして、工場は365日、常に装置を稼働させています。クライアントは、急ぎで現物が欲しいから3Dプリンターを必要としていることが少なくありません。でも、土日休みの同業さんは多い。僕はそこが疑問なんですよね。
金曜に発注したら、月曜朝に欲しいというニーズが大半。だから、クライアントが休みのときに仕事をすることも大事かなと。こういったニーズに応えられることが、支持されている理由でしょうね。「仕事がある限りは絶対やる」というのが口癖です。
Q装置を常に稼働させていた方が利益も出そうですね。
通常、製造業の経常利益は2~3%と言われています。でも、僕らは去年13%を達成しました。普通の会社は材料費の割合が半分くらいで、人件費や工場にかかるコストを差し引くと、残る利益はほとんどありません。
値下げをしないから利益率を高く保てるんです。僕らは安定稼働していて納期が短いので、高くてもいいよねという考え方です。相見積もりなしが7割ですね。
この国のものづくりを置き去りにする
Q御社のブランドメッセージにはすごい攻めの意志を感じます。
今年4月、「この国のものづくりを置き去りにする」というブランドメッセージを新しく打ち出しました。今までよりも高いレベルのモノを打ち出すために、現行のメッセージにしたんです。
海外の展示会とかに出ると、日本のメーカーって「メイドインジャパン!メイドインジャパン!」って、それしか言わないぐらいな感じなんです。でもそれは、原産国の話ですよね。「誰が作ってるの?何を作ってるの?どこの会社が作ってるの?」これを言わないと、フルーツの産地を見てるのと何ら変わりません。確かに、「日本品質は良い」と海外では絶対に言われるんです。だけど、「メイドインジャパン」は昔の方が築いた遺産じゃないですか。僕らはどうやっていくんだという話だと思うんです。そこにすがるのではなく。
Q「置き去りにする」という表現の背景には、そういった決別の意志があったんですね。ブランドメッセージと併せて作成された価値基準には、一番目に「利益こそ、存在価値。」とあります。
たとえば、医療のモノ作りをやっていると、社会性というか公共性があるので、利益を度外視した動きを取りがちです。ボランティア精神や福祉的な面から「ありがとうの代わりに値段が安い」みたいな風潮がありますよね。
個人としては良いかもしれないけれど、会社ベースで考えた時にはそういう話にはなりません。納税して日本社会全体に貢献するという考え方もあると思うんです。僕らは利益を大事にすることで、ものづくりに携わる人たちの地位を高めていきたいと考えています。
伝え方は感性。
理系である必要はない
Q現在、広報PRはどのように。
正式にPRチームができたのが今年の7月です。積極的にアプローチはしていますが、手探りの状態なので広報担当者は募集中です。
Qどんな人を求めていますか。
一般的なBtoCの広報ではないので、「ものづくりが好きかどうか」を重視しています。広報経験があるというのはひとつの大事な指標ですが、僕ら製造業はわかりにくいので、好きじゃないと上手く伝えるのが難しいと思っています。
私がメディアの方とお話しするときも、特にテクニカルな話はしません。僕らが作っているものは「製品」ではなく「部品」。iPhoneをばらした時の端っことかにあるようなもので、そこらへんの説明をし出すとキリがないんです。わかりやすい比喩とか、たとえ話を使って説明するようにしています。
どちらかと言えば、技術的な話よりも感性の方を大事にしています。専門誌の記者だったら分かると思うんですが、普通の記者の方には感性に訴える方が伝わりやすいと思うんですよね。
Q製造業の工程や商品知識がない方でも大丈夫でしょうか。
ほとんどの社員がものづくりの現場から入っています。工場の現場を卒業して、別の仕事をやるという感じですね。漠然と「ものづくり=理系」というイメージがあると思いますが、ぜんぜんそんなことはありません。僕なんか、スポーツ推薦でしたし(笑)。
ヨーロッパへの展開から
航空・宇宙産業まで
Q今後の展望を教えてください。
海外展開を目標にしています。主にヨーロッパを目指しているのですが、技術的に高いレベルで戦いたいと思っています。
Qアジアへという声は良く聞きますが、ヨーロッパというのは珍いですね。
はい。10年ほど前に中国進出した企業の中には、人件費が高騰して火の車になったというケースも多いですよね。東南アジアに進出しても同じことになるんじゃないかと。人件費が安いから未開の地に行くというのは、僕らからすると海外展開ではなくて海外逃亡です。
僕らの規模だとボリュームで勝負するのは難しいので、高い値段で買ってくれる市場を目指した方がいいと思っています。それで、ヨーロッパだと判断しました。
Q航空産業への参入予定もあるとお聞きしました。
僕らは今、特殊な金属の事業をやっています。ただ、こうした素材は高価なんです。継続的に需要がある分野を探して航空産業だよねという結論になりました。たとえば、ボーイング787もそうなんですが、向こう10年は確実に市場があるんですよ。自動車みたいに2年おきにモデルチェンジが行われるとか、細かな変化が少ないんです。一度決まったら15~20年と言われるように、長期間継続することが約束されているんですね。だから、高いものを好条件で買ってくれて、市場も伸びていきます。
QBtoC分野には?
まだ具体的な予定はありません。第三次3DプリンターブームでIT化も進んでいるとはいえ、まだ、PCでいうWordやExcelに該当するCADを、誰もが扱えるような状況にはなっていません。今だと、「何を3Dでプリントするの?」という風潮だと思います。フィギュアみたいなものしかイメージできないですよね。みんなのリテラシーが上がってきたところで、やっとBtoC市場も開拓できるようになると思います。
最先端に触れるという意味では、うちの仕事は楽しいですよ。難しいものを作るのが好きという方にも向いていると思います。
(取材日:2014年10月7日/撮影:首藤 達広)
渡邊 大知 氏
- 企業名
- 株式会社 JMC
- 部署・役職
- 代表取締役CEO
- 設立
- 1992-12-18
- 所在地
- 神奈川県横浜市港北区新横浜2-5-5 住友不動産新横浜ビル1F
- プロフィール
- 1974年山梨県出身。甲府第一高等学校卒業後、プロボクサーとしてデビュー。造園業のアルバイトをしながら練習に励んだ。引退後の1999年、株式会社JMCに入社。日本では黎明期の3Dプリンターに携わる。2004年に代表取締役に就任して以来、速さと質をモットーに、3Dプリンターによるものづくりに力を入れている。