恋愛は感情。ひと文字にこだわる繊細さを
2011年に韓国でリリースされ、世界中で800万人以上が利用するカップル専用SNSの「Between」。日本国内でも2013年4月に日本法人VCNC Japanが立ち上がり、ユーザー数を拡大している。代表の梶谷恵翼氏に、今後の展開と求めるPRパーソン像を伺いました。
恋人同士で使用するから毎日使われる
QBetweenはどんなコンセプトで生まれたのですか?
Betweenは、カップルに特化したSNSアプリです。FacebookやTwitterといったオープンなSNSでは、たとえば、会社の上司からフレンドリクエストが届いたり、飲み会の写真をタグ付けされたりというような、プライバシーへの配慮という点で問題意識を持っていました。
そこで、「プライバシー重視」の視点で論理的にターゲットを考えた結果、いきついたのがカップルだったんです。華やかなイメージを持たれがちですが、ロジカルに導かれた結論がカップルアプリだったというのは面白いと思っています。
Q現在のユーザー規模はどれくらいですか?
2014年7月時点で、全世界800万ダウンロードを突破しました。毎年2倍くらいのペースで成長しているイメージです。日本でも右肩上がりに増えていて、2014年5月に100万ダウンロードになっています。
Q具体的なサービス内容は?
Betweenは、チャット、フォトアルバム、カレンダーが大きな核を担っています。全てのやり取りが暗号化されているため、カップルの二人以外は絶対に見られないようになっており、他者には共有されません。
記念日を忘れてしまわないようリマインダー機能があったり、チャット画面での恋愛表現を豊かにするスタンプがあったり、アルバムは時系列に二人の画像を共有できたりなど、カップルが行う日々のコミュニケーションに焦点を当てています。恋人との連絡に使用するものですから、ほぼ毎日使っていただけるのです。
「Betweenしよう」が告白の代わり
Q韓国と日本国内での浸透度は?
800万ダウンロードのうち、400万人くらいが韓国の方ですね。弊社調べだと、韓国でスマホを使っているカップルは大体500~600万人。ほとんどの人がBetweenを利用している状況です。「メールしよう」「LINEしよう」みたいな感覚で、「Betweenしよう」というと、告白の代わりになるみたいな。
日本だと人口も韓国の2倍くらいいますし、シェア率の面ではまだまだこれからです。概ね10%程度でしょうか。地域の分布をみると、特に都内と関西が高いですね。年齢層は半数が学生です。交際ステータスも近距離カップルが多いですね。
ただ、SNSの過渡期において、これからは彼ら(彼女ら)が主役になると思うので、その層から支持してもらっているというのは大きいと思います。ちなみに、アメリカのほうだと日本よりも年齢層の高い方が利用してくださっていて、各国の恋愛事情がデータに反映されるのは面白いですね。
Q今はユーザーを増やすためにどのようなマーケティングを?
お恥ずかしい話、まだ有料広告や配信などのマーケティングをそこまで打ててないのが現状です。
QそれでもBetweenが成長している理由は?
ほぼ100%口コミが要因だと思います。女子会でアプリが話題になってダウンロード数が増えていたりと。どのようにBetweenをカップルの文化にしていけるかがマーケティングの中心だと考えています。
今は、アライアンスとPRの組み合わせを集中してやっています。アライアンスから生まれたイベントや商品をPRしていくという流れが中心ですね。ただ、ユーザーにメリットを提供したいと想いが根底にありまして、Between自体を良くするというのもそうですが、さまざまな企業さんと組ませていただくことによって、ユーザーにより高い利便性を感じて欲しいんです。
Q国ごとにマーケティングの施策は異なるのでしょうか?
日本と韓国だけでも全然違いますね。日本は男性が恋愛関係に対してあまりオープンではないんですが、韓国はかなりオープンなので、バイラルの方法が全然違います。国によって変えていかないといけないので、それぞれの国の担当者がマーケティングメッセージを考えています。
梶谷は女性のことが分かってない(笑)
QVCNCのメンバー構成を教えてください。
全体では40名のメンバーが動いていますが、日本のメンバーは私を含めてわずか6人です。GMをしている私とPRマーケティングが1名、事業アライアンスが1名、デザイナーが1名。プラス、アシスタント2名という構成です。男女比率は、女性4人、男性2人です。
QPRの方はいつから参加されているのですか?
私以外のメンバーで一番最初に入ったのが、現在PRを行っている女性です。利用しているユーザーは100%カップルで、女性向けの商材を利用するケースが多かったので。
Qその方を採用された経緯は?
設立当初は、日本人は私一人しかいませんでした。当時、世界初のカップルアプリだったこともあり、新しいコンセプトをPRする方法をどうしようかと、韓国のメンバーと議論していたんです。
最初は私がSNS上で広げようとしていたんですが、「梶谷は女性のことが分かっていないから、女性の気持ちが分かる人を入れた方がいいね」となって(笑)。そこで、マーケターの人を3人くらい介して、当時女性向けアプリの監修をしていた彼女を紹介してもらったんです。ただ、彼女は広報未経験だったんですよ。
Q心配はありませんでしたか?
立ち上げ時は、世間的にカップルアプリが何か分からない方がほとんどでしたし、僕らもマーケティングチャネルが上手く分からなかったので、スキルセットというよりは、マインドセットを重視しました。だから、広報の経験もあまり気にしませんでしたね。
Q経営者として、その方にはどんなことを期待していますか?
PRやマーケティングにあたって、PRパーソンには会社のビジョンを共有してもらえることを期待しています。会社側もグローバルなメンバーが集まって、年に数回ワークショップを開催しています。オフラインのコミュニケーションを豊かにする中で、会社のビジョンを落とし込んでいるんです。
あとは、「こだわり」ですね。マーケティングは感情を言葉で伝えなければいけない仕事なので、ひと文字ひと文字、繊細でなければ成り立たないと思っていて。僕は大ざっぱなところも多いですが、そういう繊細さがあればすごく頼ってしまいますよね。うちのPRパーソンもそういうテイストが強くて。
VCNCにはフェイルファスト(Fail Fast)という文化があります。失敗するなら早く失敗して、そこから学びましょうという。完璧な人間よりもユーザーと向き合って正解を探せる方がいいなと思います。
恋人同士のコミュニケーションすべてを
Betweenで
Qカップルの気持ちを把握し続けるには?
ユーザーと定期的に会うことですね。目の前で幸せになっているユーザーを見ることは、ダウンロード数が1,000増えた、10,000増えたという事実よりも重要だと思います。
ダウンロード数でユーザーを数え出してしまうと、気持ちが入っていきません。定期的に直接お会いすることで、その方の喜びや悲しみを目の前で見たり、ご意見をいただいたりしています。
Qマネタイズについては?
カップルをターゲットにしたプラットフォームを作ることが課題だと思っています。試行錯誤はありましたが、カップル向けの広告がひとつですね。ただ、コンセプトが2人だけのプライベートスペースなので、なるべく彼ら(彼女ら)の邪魔しないように配信しています。
Q今後の展望について教えてください。
韓国では、マネタイズ手法のひとつとして、コマースが始まっています。それを日本でも展開していきたいなと思っています。カップル同士でプレゼントを贈り合うという文化は、既に当たり前のものですので、それをアプリ上でできるようにしたいなと。カップルがスマートフォン上でする行動すべてを、Between上で実現できるようにしたいですね。
PR・マーケティングに関しては、カップルアプリという概念自体が新しいものなので、「カップルアプリとは何か」というのを啓蒙していくような業務が中心になっていくと思います。
普通のアプリが、「ゲームでこのようなアイテムをもらえます」、「これを使うことでこれだけ便利になります」などの直接的な訴求がメインなのに比べ、カップルアプリの場合は「どのようなライフスタイルがその後に待っているか」などの感情的なものを喚起させなくてはいけません。ブランディングに近いPR・マーケティングをやっていきたいと思います。
(取材日:2014年8月8日/撮影:首藤 達広)
梶谷 恵翼 氏
- 企業名
- 株式会社 VCNC Japan
- 部署・役職
- 代表取締役
- 設立
- 2014-03-01
- 所在地
- 東京都渋谷区渋谷1-12-2 渋谷クロスオフィス 705号室
- プロフィール
- 1989年生まれ。慶応義塾大学卒業後、金融系ベンチャーキャピタルに勤務。日韓のスタートアップ業界をつなげるイベントを多数主催。2014年4月、株式会社VCNC Japan設立と同時に代表に就任、現在に至る。