旅でいい体験をしてもらうことが最大のPR
みんなで旅を作るソーシャル旅行サービス「trippiece(トリッピース)」。ユーザーが旅行のプランを立て、それに共感する人をサイト上で集める。参加者同士で様々なことを相談して具体的なプランを決め、提携する旅行会社を通じて実際のツアーを提供する。22歳で同サービスを立ち上げた株式会社 trippieceの代表、石田言行氏にPRや求める人材像について聞いた。
伸びない最初の2年間
ライフタイムバリューを高めることに注力
Qサービスをスタートして3年、JTBなど大手旅行代理店との提携や資金調達と、設立から順調に伸びていった印象です。
いえ。最初の2年くらいは苦労していました。類似サービスがないので、競合がいないというメリットがある半面、どういうサービスなのかを説明しにくいところがあったのです。
なのでまずは、「トリッピースが好きだ」と言ってくれて何度もリピートしてくれるような、コアなファンを100人作ることにフォーカスしました。ひたすらユーザーと向き合って、何を求められているのか考えました。リピーターになってもらうためには、旅の質が高く、いい体験をできることが必須だとわかってからは、いい体験を提供することに注力しましたね。量ではなく、質の部分で圧倒的になりたいと考えました。
トリッピースは、日常的に使ってもらうものではなく、非日常的な体験を提供するものなで、お客さんの数はどうしても少なくなります。だからこそリピーターになってもらえなければ収益化につながりません。今でも最初の頃のファンの方たちとは仲良くさせてもらっています。
Qブレイクスル―を感じたのはいつ頃ですか。
テレビにも取り上げていただいたりして、2013年4月頃、ユーザー数が3万から5万人になったあたりから、やっとうまく回り始めたことを感じました。以前は企画が上がってこなくて運営側でのフォローが大変な時もありましたが、今は逆に企画が多くて大変です(笑)。旅の企画数は累積で5千を超えました。
ユーザー数も一定の割合で順調に増え、会員数は現在約14万人。ユーザー数を莫大に伸ばしてしまうと、サービスの質やカルチャーが壊れてしまうので、今後はユーザー数と企画数のバランスなどをうまく調整しながら進めていきたいと思っています。
写真や映像で魅力を伝える
Q創業してからPRはどのように行ってきたのでしょう。
サービスの他にPRできるものは、創業者である僕の人柄しかありません。目立てるところから目立っていこうと考えました。まずはIT界隈で目立たないと取り上げてもらえないので、IT系のイベントやピッチなど、直接話す機会がある場には積極的に参加していましたね。1年に最低でも20~30回は外で講演するなど、生身で発信できる機会を作っていました。
そうこうしているうちに、徐々にいろいろな媒体に取り上げられるようになりました。IT系のニュースに取り上げられると、連鎖で旅系のニュースにも取り上げられるようになったのは良かったと思います。『ガイアの夜明け』など、テレビで紹介された時は反響が大きかったですね。
Qネットサービスがテレビに取り上げられるのは比較的珍しいですよね。
僕らのサービスは、言葉にはしづらいし、テキストベースだと伝えにくいところがあります。なのでサービスの使い方を説明するのではなく、写真や映像で伝えた方がわかりやすい。トリッピースがテレビに取り上げていただけるのは、旅行に連れていけば絵を撮れるからです。1時間でも2時間でも尺を取れるので、テレビPR向きだというのは僕らの強みかもしれません。
喜びと落ち込みのサイクルが早いスタートアップ
採用で重視するのはタフであること
Qところで、2013年4月に「超可愛い広報担当」が入ったそうですね。
トリッペンですね(笑)。あれは僕をモチーフにしたキャラクターなんです。社員が描いてくれました。
僕が実家近くの多摩川で釣りをしていた時に釣れたペンギンという設定だそうです(笑)。似てないですが、社員からの評判はいいですね。トリッピースが人格を持った時にはトリッペンになるんです。キャラとして割といろんなところに使っていて、会社の顔になってくれています。
Q トリッペンは特別として、人材を採用をする時に譲れないポイントは。
まず、ビジョンに共感してもらえるかが大前提です。あとは地頭がいい。忍耐強さがあって、何かにぶち当たった時に立ち直れるバネがある人。スタートアップは喜ぶ時も落ち込む時も、サイクルが早い分多いと思うので、タフな人じゃないとやっていけないと思います。あとは素直であること。素直かどうかは成長角度にかかってくるので。経験については二の次ですね。
Q最近採用されたマーケターの吉田さんは、条件にピッタリだったのですね。
そうですね。吉田を決めるまでに20名くらい面接しましたが、ピンとくる人はいませんでした。マーケターはセンスがあるか経験があるかしかないと思っていて。そうでない人を採用しても、僕では育てられないと思ったのです。僕はノウハウも経験もなく、自分の感覚だけに任せてやってきた人間なので。
吉田はマーケター枠でしたが、全体的にロジックなどが優れていたので、どこのポジションに来てもらうかは別として、何でもできそうだなと思って採用しました。最初はテレビ取材の対応をしてもらったり、今はマーケの他にもサービス全体を知ってもらうためにサポートにも入ってもらっています。
Q吉田さんが来るまでのマーケティングはどなたが。
マーケは僕一人でやっていました。出身が商学部で、大学1年の時からキャッチコピーのゼミに入ってマーケティングを学んだりしていたこともありますし、世の中に仕組みを作ったり仕掛けたりすることに興味があったのです。ユーザー数が安定してきてから、吉田を含め、マーケや営業系の事務など、ビジネスチームの採用にも力を注げるようになりました。
オウンドメディアで顧客を作る
海外も視野に入れて展開
Q今年、オウンドメディアも立ち上げていらっしゃいますね。
旅のフェーズとして、「興味がない」、「旅行に行きたい」、「旅行に行こうと決める」、「旅行に行くまでの準備をする」、「旅行に行く」、「旅行から帰ってくる」と何段階かあると思います。
トリッピースは、「旅行に行きたい」から「旅行に行く」まではつなげられるのですが、もっとパイを広げたいなと。そのために「RETRIP」というメディアを持ちました。自分たちのメディアを見た人に、「旅行に行きたい」と思ってもらう。自分たちでお客さんになってくれる人を生みだしていきたいと思ったのです。自社メディアを通じて、世界にも日本にも、こんな面白いところがあるから旅しようぜ、というメッセージを送っています。
Q今後、PRはどのように行っていく予定ですか。
僕らのサービスのいいところは、何をやっても仕事になるし、PR素材にもなるし、収益源にもなるところです。面白い企画をたくさん作っていきたいなと考えています。コンテンツ作りから入って、プレスリリースなどで発信する。旅のテーマ次第で、どの雑誌や新聞、テレビに取り上げてもらえるかが変わってくるので、取り上げられたい媒体に向けて、面白い企画を仕込んだりしています。
PRだけに注力するというよりも、面白いコンテンツを作って発信していくという、通常業務の一貫の流れの中に自然とPRを組み込んでいく形ですね。
今後はアジア各国にも展開していく予定です。すでに英語版サイトはあって、シンガポールにも子会社がありますが、本格化していくのは2015年の春くらいの予定です。国によって旅の概念は違うところもありますが、面白いことを作って発信していくという基本は変わりません。それぞれの国でコミュニケーションをとって広げていきたいですね。
(取材日:2014年9月22日/撮影:首藤 達広)
石田 言行 氏
- 企業名
- 株式会社 trippiece
- 部署・役職
- 代表取締役
- 設立
- 2011-03-31
- 所在地
- 東京都渋谷区円山町5-5 Navi渋谷V-10F
- プロフィール
- 1989年9月生まれ。東京都調布市育ち。大学1年生のとき、他大学の学生とともに途上国支援の学生団体「うのあんいっち」(現在はNPO法人)を立ち上げ、事務局長として活動に打ち込む。SNSを通じて旅行参加者を集め、バングラデシュへのスタディツアーを組んだことが転機となり、2011年に「トリッピース」を起業。