世界初、常温・常圧・無触媒、プラズマで99.999%の高純度を達成、アンモニアを原料とする低コスト・低環境負荷・高効率の水素製造装置を開発
国立大学法人岐阜大学 次世代エネルギー研究センター長の神原信志教授(大学院工学研究科 環境エネルギーシステム専攻)は澤藤電機株式会社との共同研究により、アンモニアを原料とする低コスト・低環境負荷・高効率の水素製造装置の試作機を開発しました。神原教授と澤藤電機は2012年に、世界初となる、プラズマによって常温・常圧・無触媒でアンモニアから高純度水素を製造する「プラズマメンブレンリアクター」を開発し、このたび、「プラズマメンブレンリアクター」と「プラズマ発生用高電圧電源(※注)」を組合せた水素製造装置の試作機を開発しました。この装置から得られた水素は純度99.999%を達成。この装置から得られた水素を燃料電池に用いて発電を確認しました。今後は水素をアンモニアで貯蔵し、必要な時に必要な場所で水素を供給できる水素製造装置により、産業用・家庭用燃料電池発電機、燃料電池自動車等への普及が期待されます。
国立大学法人岐阜大学 次世代エネルギー研究センター長の神原信志教授(大学院工学研究科 環境エネルギーシステム専攻)は澤藤電機株式会社との共同研究により、アンモニアを原料とする低コスト・低環境負荷・高効率の水素製造装置の試作機を開発しました。神原教授と澤藤電機は2012年に、世界初となる、プラズマによって常温・常圧・無触媒でアンモニアから高純度水素を製造する「プラズマメンブレンリアクター」を開発し、このたび、「プラズマメンブレンリアクター」と「プラズマ発生用高電圧電源(※注)」を組合せた水素製造装置の試作機を開発しました。この装置から得られた水素は純度99.999%を達成。さらに、この装置から得られた水素を燃料電池に用いて発電を確認しました。今後は水素をアンモニアで貯蔵し、必要な時に必要な場所で水素を供給できる水素製造装置により、産業用・家庭用燃料電池発電機、燃料電池自動車等への普及が期待されます。
【背景】
次世代エネルギーとして水素を燃料とする燃料電池が注目されています。ところが、水素は体積あたりの重量が小さいため(0.09 g/L)、水素の貯留・運搬には、700気圧程度で圧縮するか、-252.9℃に冷却して液体にする必要があります。そこで、水素をなるべく常圧・常温に近い条件で、低環境負荷で貯留・運搬する水素キャリア技術が求められています。その解決策の1つとして注目されているのがアンモニア(NH3)です。アンモニアは20℃、8.6気圧で液化するため、水素より手軽に扱うことができます。政府も水素キャリアとしてアンモニアの利用技術の研究開発を推進しています※1。
※1 科学技術イノベーション総合戦略(平成25年6月7日閣議決定)及び日本再興戦略(平成25年6月14日閣議決定)において定められた「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の11の研究課題の1つに「エネルギーキャリア」が定められています。主な研究開発項目として「アンモニア、有機ハイドライド、液化水素等のエネルギーキャリアの開発および実現可能性見極め」、「水素並びにアンモニア利用技術(燃料電池、タービン発電等)の低コスト、高効率化等研究開発」が掲げられています。
【従来のアンモニア分解法】
従来、アンモニアの分解に用いられてきた触媒反応法は、400℃~800℃の高温にする必要があり、高価なルテニウムなどの貴金属を触媒とするため、エネルギー効率が低く、環境負荷も高く、高コストとなることが問題でした。また、未反応のアンモニアが残留し、これが燃料電池を劣化させるため、燃料電池に用いるには支障がありました。
【神原教授によるアンモニアを水素キャリアとする基礎技術の開発研究】
1.常温無触媒水素製造法(2011年に神原教授が開発)
神原教授は2011年に大気圧プラズマを利用して、常温・無触媒でアンモニアから水素を製造する画期的な方法(常温無触媒水素製造法)を開発しました。この装置(リアクター)は石英ガラス製の二重筒構造で、外筒に接地電極を巻きつけ、内筒に高電圧電極を差し込みます。それらの2mm~5mmの隙間をアンモニアガスが流れます。ここに一定の波形の電圧を印加することで、プラズマの電子エネルギーがアンモニアを分解し、水素と窒素を発生させる仕組みです( NH3 + e → 1/2N2 + 3/2H2 )。ただし、反応しきれなかったアンモニアが残留することが課題として残りました。
2.水素を高純度化するリアクター(プラズマメンブレンリアクター)の開発
(2012年に神原教授らと澤藤電機が共同開発、特許第6095203号)
神原教授らと澤藤電機は2012年に、常温で大気圧プラズマを用いてアンモニアを窒素と水素に分解するとともに、残留アンモニアを混入させず水素だけを取り出す装置(プラズマメンブレンリアクター)を開発しました。この装置の画期的な点は、水素分離膜そのものをプラズマ発生用の電極としたことです。この水素分離膜で誘電体バリア放電を発生させることで、次のような反応を起こし、高純度水素を生成します。
(1) アンモニア(NH3)からHラジカル(不対電子をもつ原子・分子)が分解される
(2) Hラジカルが内筒の水素分離膜表面に吸着する
(3) Hラジカルだけが水素分離膜内を透過する
(4) 水素分離膜を透過したHラジカルどうしが内筒の内側で結合してH2となる
装置の外筒は外径42mm、厚さ2mm、長さ400mmの石英ガラスを円筒状にし、内筒には穴の開いた薄い鉄板に厚さ20マイクロメートルのパラジウム合金製の水素分離膜を溶接し、プラズマ発生用の電極とします。
【この研究開発の応用が期待される用途】
液化アンモニアは運搬しやすいため、燃料電池の燃料として液化水素や高圧水素よりも普及が容易です。
アンモニアを燃料とする燃料電池の応用がすぐに考えられる用途は、工事現場やイベントなどで使われる屋外用の小型発電機です。現在用いられているディーゼル発電機は燃料に軽油やA重油を用いており、CO2や窒素酸化物、粒子状物質などを排出します。コスト面でも、軽油や重油よりもアンモニアの方が安価であり、有害ガスの排出も無くなります。
産業用・家庭用の発電機としても利用することができます。特にこれまで水素や都市ガスが流通しにくかった地方および途上国でも、液化アンモニアを燃料とする燃料電池発電を利用できるようになります。
また、プラズマメンブレンリアクターは電気的に作動するため、水素発生量の制御が容易で、燃料電池自動車や水素ステーション、電動バイクなどのモビリティにも応用することができます。燃料電池自動車の燃料に、水素ではなく液化アンモニアを用いることも可能です。例えば燃料電池自動車は高圧タンク(120L)に5kgの水素を充填していますが、プラズマメンブレンリアクターを用いた水素製造装置なら、およそ40%減の70Lの液化アンモニアタンクと50Lの水素製造部、合わせて120Lの水素製造装置に代替することで、水素ステーションや高圧タンクが不要になり、将来的にはアンモニアを供給すれば走行できる燃料電池自動車を実現できる可能性があります。
(※注)「プラズマ発生用高電圧電源」
プラズマを高効率で発生させることができ、装置の小型、低コスト化を実現しています。
本技術については,澤藤電機株式会社が下記の特許を取得しています。
特許第5235301号 「高電圧印加装置」
特許第5461155号 「パルス電圧を利用する高電圧印加装置および当該高電圧印加方法」
【澤藤電機株式会社 概要】
会社名:澤藤電機株式会社
本社所在地:群馬県太田市新田早川町3番地 設立:1919年5月10日
資本金:10億8千50万円 上場市場:東京証券取引所市場第一部
代表取締役社長:吉川 昭彦 製造品目:電装品・電子製品、発電機、冷蔵庫
【神原 信志(かんばら しんじ)教授 プロフィール】
岐阜大学 次世代エネルギー研究センター長
大学院工学研究科 環境エネルギーシステム専攻
専門:化学工学,反応工学,燃焼工学,プラズマ応用環境技術,紫外光応用環境技術
<略歴>
1962年 生まれ
1991年3月 群馬大学大学院工学研究科 化学工学専攻修士課程修了
1991年4月~2003年4月 出光興産株式会社入社 産業エネルギー部石炭研究所
1993年3月 群馬大学大学院工学研究科 生産工学専攻博士後期課程修了 博士(工学)
2003年5月 岐阜大学助教授(工学研究科環境エネルギーシステム専攻)
2013年6月 岐阜大学教授(工学研究科環境エネルギーシステム専攻)
加入学協会:化学工学会、日本エネルギー学会、日本燃焼学会、電気学会、日本機械学会、火力原子力発電協会
主な社会活動:文部科学省調査専門委員会委員、岐阜県地球温暖化防止活動推進センター・専門員認定委員、岐阜市ビジネススクール講師、飛騨市ごみ減量化委員会委員、化学工学会エネルギー部会炭素系資源利用分科会代表、電気学会調査委員会代表、日本機械学会環境工学部門幹事、岐阜県次世代エネルギー産業創出コンソーシアム理事長
受賞:平成5年 日本燃焼学会研究奨励賞、平成8年 日刊工業新聞社・環境庁 環境賞優良賞、平成10年 日本エネルギー学会進歩賞、平成14年 日本燃焼学会研究技術賞、平成17年 第 6回高温ガス浄化国際会議優秀論文賞、平成20年 小野木科学技術振興財団最優秀賞、平成23年 日本エネルギー学会論文賞、平成23年 日本機械学会 環境工学部門研究業績賞
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企業情報
企業名 | 国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 |
---|---|
代表者名 | 森脇 久隆 |
業種 | 国・自治体・公共機関 |
コラム
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